美術館に行く目的は何でしょうか。
多感な中高生に美術館をすすめる目的は「モノの見方の視野を広げるため」です。
美術館には非日常の空間があり、美術館に置いてあるだけでいつもとは違った見方をすることができます。
さまざまな角度からモノをみたり考えたりすることは、これからを生きる中高生にとても大切なことです。
今回は、数ある美術館や展示会の中からとくに中高生におすすめしたい美術館と展示会を紹介します。
目次
美術を体感「大塚国際美術館」
大塚国際美術館は、美術に特段興味がなく「美術館はあまり好きではない」と思っている中高生におすすめします。
なぜならば、大塚美術国際美術館には世界の名だたる名作が集合しているからです。
レオナルド・ダ・ヴィンチもゴッホもモネも約1,000点の作品があります。
実は、大塚国際美術館に展示されている作品はすべて陶版です。
ゴッホやモネが描いた作品は絵の具でキャンバスに描かれていますが、それらの本物はひとつの美術館に集合しているわけではなく、世界中の美術館に点在しています。
あえて陶版にすることで国境を越えて集結させることができたのです。
美術に興味がない人に知名度の低い作品をみせてもピンときません。
それよりも「モナ・リザ」やモネの「睡蓮」のように美術の教科書で見たことがある作品を大きなサイズでみたほうが感動するのではないでしょうか。
世界にたった1枚しかない本物は、やはり言葉にできない迫力があります。
しかし、その迫力を感じるためには美術に興味を持ち、本物の迫力を感じる感性を養う必要があるのです。
大塚国際美術館には、モネの睡蓮の世界観を再現した場所があります。
モネの睡蓮に囲まれてみると「モネは、この雰囲気を描きたかったのかな」と体で感じることができます。
大塚国際美術館は館内で撮影が可能です。
中高生ならば自分のスマホで撮影することで作品を身近に感じるかもしれません。
美術館の一歩目は、好きなように体で体感できる大塚国際美術館がおすすめです。
絵を描く意味がわかる「無言館」
無言館は長野県にある美術館です。
戦争に召集された画学生の作品を集めた珍しい美術館です。
筆者が美大生のとき教育学の教授が「美大生なら一度は行ってみるといい」と教えてくれました。
展示されている作品は、ふつうの風景画とふつうの人物画、そしてふつうの静物画です。
しかし、どの作品もふつうにはみられません。
すべての作品をみるときに「この作品を描いた後に戦争に行ったのだ」という思いが湧き上がってくるのです。
祖母を描いた絵をみれば「モデルになっている祖母は何を思って座っていたのだろう」と思います。
きれいな風景画をみれば「この風景を目に焼き付けたかったのか」と思います。
すべての作品から感じることは「ただ絵を描きたかった」という思いです。
「将来をまじめに考えなさい」「好きなことをみつけなさい」という言葉がどれほど贅沢なことかを言葉以上に感じる美術館です。
生きざまも魅力的「草間彌生美術館」
草間彌生は、水玉模様で有名な作家です。
水玉模様が作品に多く登場する理由は、草間彌生が病から生じる幻覚や幻聴から身を守るために描いているといわれています。
草間彌生の作品は、オブジェもあればインスタレーションもあります。
ゴッホやセザンヌとは全く違う雰囲気が現代美術にはあります。
「美術」に興味はなくても「かわいい」と感じたり「ワクワク」したりする感じが現代美術にはあるのです。
芸術家の中には、苦労したり悩んだりしてつらい人生を歩んでいる人がたくさんいます。
並大抵の人生ではなかったからこそ作品が生まれたのかもしれません。
しかし、中高生には一筋縄ではいかない人生の中でも前向きに表現を続け、たくましく生きている人の作品をおすすめします。
草間彌生は、2022年93歳ですが新しい作品を発表し続けています。
草間彌生美術館は、東京都新宿区にある小さな美術館です。
早稲田駅から徒歩7分なのでアクセスしやすい場所にあります。
自分と年齢が近いから「芸大・美大の卒業制作展」
中高生は、秋になると文化祭があります。
芸大や美大にも芸術祭があります。
中高生にとっては、お祭りの雰囲気がある芸術祭が楽しいかもしれません。
しかし、モノの見方を変えるためには卒業制作展がおすすめです。
とくに東京芸術大学の卒業制作展は油絵科なのに油絵がなく、哲学的な作品がたくさんあります。
「これはうまい絵なのだろうか」と思うかもしれません。
「うまい絵」の定義がひっくり返るかもしれません。
これらの作品が、有名作家であったり、美術館に展示されていたりすれば無条件で「すごいんだな」と思うでしょう。
しかし、自分とさほど年齢が違わない学生が生み出した作品だと思ってみると衝撃は意外と大きいものです。
筆者が、芸大の卒業制作展をみたのは小学生のときでした。
そのときまでは、絵はきれいなものを描きとめるものだと思っていました。
しかし、賞がついていた作品は暗い沼の絵だったのです。
画面全体が焦げ茶色で塗られ、目を凝らしてみると鯉らしき魚が水中にある橋の柱に集まっている絵でした。
小学生だった筆者は「この人は、この暗い沼を描きたいと思ったのか」と衝撃を受けました。
芸大や美大の卒業制作展は、自分とは違う感性とふれあう機会があります。
おわりに
紹介した美術館の中には、遠くてすぐには行かれない場所にあるものも含まれています。筆者は、大塚国際美術館には大学生のときに訪れました。徳島県の同級生を訪ねて一人で飛行機に乗っていきました。中高生や大学生は、感受性が鋭い時期であり、フットワークが軽く機動力があります。多くの作品に積極的に触れて、モノの見方を広げてみてはいかがでしょうか。
文筆:式部順子(しきべ じゅんこ) 武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業 サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。 在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。