公務員になって絵を描く! 絵を描く公務員の仕事

絵を描く仕事といえば「不安定な仕事」をイメージするかもしれません。
しかし最近は、公務員にもアートセンスをもった美術系の学生が求められています。
公務員は「安定した仕事の代名詞」と思われているかもしれませんが、果たして今もそうなのでしょうか。

今回は、公務員になって絵を描きたい人におすすめの「絵を描く公務員の仕事」をお話しします。


新しい絵のフィールド「デジタル庁のビジュアルデザイナー」

デジタル庁はマイナンバーを含む、行政手続きのデジタル化を担っているところです。
一見、絵を描く仕事とは全く関係がない職場のように感じます。
しかし、何事も多くの人に知ってもらうためには広告が必要であり、コンテンツも必要になります。
マイナンバーカードや役所での手続きのオンライン化は、今まさに多くの人に知ってもらい実用化してもらうために「目で見てわかるもの」や「新しい戦略」が必要です。

そこでデジタル庁は「ビジュアルデザイナー」という職種で複数名の人材を募集しています。
身分は非常勤の一般職国家公務員となります。
応募にあたっては「デザイン系またはアート系の学士号または修士号、もしくはそれに準ずる資格」や実務経験などの条件がありますが、新しい時代に登場した新しいタイプの公務員です。

まさにクリエイティブ公務員「自治体のクリエイティブ職」

地方自治体で働く公務員といえば、役所の窓口で働いている人や奥でパソコンとにらめっこしている人が思い浮かびます。
しかし自治体が抱える問題は幅広く「決まったことを忠実に遂行できる人」だけでは太刀打ちできない世の中になっているのです。
そこで自治体は問題や課題に対してゼロから新しい発想で立ち向かえる人材を求め始めました。

兵庫県神戸市では公務員試験に必要だった法律や経済の勉強をしていない美術系の学生をクリエイティブ職として募集しました。
クリエイティブ職といっても、絵ばかり描く仕事ではありません。
公務員として政策や町の振興などの行政事務をしっかりと行い、必要なときにアート感覚や発想を発揮する職種です。

千葉県市川市も令和3年度に一般行政職にクリエイティブ枠を設けて募集しました。
年齢や学歴を問わず「表現が得意で斬新な発想力がある人」を募集しています。

画力より聞き出す力「似顔絵捜査官」

交番で似顔絵を見たことはないでしょうか。
けして「デッサン力がある」とは言えない人物の顔の絵が掲示してあることがあります。
あの似顔絵は美大生や画家ではなく似顔絵捜査官が描いた絵です。

実は似顔絵捜査官という職種での採用はなく、警察官で鑑識課に配属され、さらに研修を受けて鑑識官になった人が業務の一環として似顔絵を描くことがあります。
「人を探す」という目的のために描かれる似顔絵は、美術作品として描かれる絵とは違い、実物が目の前にない状態で描き進めなければなりません。
ある程度の画力は必要ですが、それよりも描く対象の特徴を聞き出す力が求められる仕事です。


「絵=芸術家」「事務=公務員」の時代は終わった

筆者が美大生だった時代は、美術系の学生が就ける公務員の仕事といえば美術の教員か特許の意匠審査官くらいでした。
しかし今は、美大にも絵を描いたり制作したりするだけではない新しい学部が誕生しています。
そして美大の卒業生は、デザイナーや画家だけではなく、地方自治体で地域プロジェクトをプロデュースしたり、サービスデザイナーとして自治体の運営や問題解決したりするアイデアを提供しています。

筆者の母校である武蔵野美術大学には2019年に造形構想学部クリエイティブイノベーション学科ができました。
作品を制作する授業だけでなく、産学プロジェクトやビジネス論も学びます。
入学試験には絵を描く試験はなく、文系でも理系でも得意な学科で挑戦することができます。
つまり「絵が描けること」よりも発想力やプレゼンテーション能力(伝える力)を重視しているのです。

公務員も事務能力が長けているだけでは採用が難しい時代です。
先行き不透明な時代の中では事務能力よりも問題解決能力が求められているのです。
「絵を描く人は芸術家」「事務仕事ができる人は公務員」という線引きの時代は終わっています。
言い換えれば、どちらかしかできない人は物足りないと思われてしまう可能性があるのです。

おわりに

働き方改革や新型コロナウィルスによって、今までの当たり前が大きく変わっています。
筆者が子どものころは「公務員は安定しているから」と言われたものですが、今は必ずしも安定しているとは言えないのではないでしょうか。
公務員にしても芸術家にしても共通していることは「時代を読んで何が求められているか」を見抜くことです。
今求められていることは「予測不可能な時代に立ち向かえる発想力と解決力」ではないでしょうか。
「作品を制作する」ということはゼロから何かを生み出すことです。
何かを生み出せる力は、これからの公務員に必要不可欠な力かもしれません。

文筆:式部順子(しきべ じゅんこ)
武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業
サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。
在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。

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