アートの道を迷っている中高生へ! よくある迷いに答えます

中高生は、小学生のころとは違い、現実を考えながら将来の夢を語ります。
例えば「医者になりたい」と思っても学費や難易度を考えてあきらめることもあります。
さらに「アートの道」となれば、学費や難易度だけでなく不安定さも加わるのかもしれません。

今回は「アートの道に進みたいけれど迷っている中高生」の悩みにスッキリ答えます。

成功までのつらい修業期間を乗り越えられるか不安です

「アートの道」というと、道の先にはゴールがあるように感じます。
道は修業期間であり、成功という名のゴールに向かって突き進むイメージです。
しかし、アートの道にゴールはありません。

有名なゴッホは、ゴールどころか自分がこんなにも有名な画家になることを知らずにこの世を去りました。
モナ・リザで有名なレオナルド・ダ・ヴィンチも、モナ・リザを完成することなく、この世を去りました。
葛飾北斎は90歳のときに「あと5年生きられたら本当の絵描きになれるのに」と言ってこの世を去ったのです。

アートの道にゴールはありません。
なぜならば、芸術家はひとつの作品ができあがると「次はこういうものを作りたい」「描きたい」という気持ちが湧き上がるからです。
言い換えれば、常に制作意欲を持っている人を芸術家と呼ぶのではないでしょうか。

では、芸術家はずっとつらい修業の道を歩き続けているのでしょうか。
筆者は違うと思います。
制作している期間は、修行の期間ではなく「好きな制作ができる期間」「絵が描ける期間」なのです。
成功までの期間を「つらい」と表現することは、きっと経済的につらいからです。筆者が美大生だったころは、美大生の多くがお金に困っていました。

しかし、生活費を節約して画材を買うことを苦痛とは感じていませんでした。
成功とは、アートの夢を追い続け、いつか振り返ったときに、なんとなく形となって現れているものです。
むしろ、歩んできた道での思い出や経験のほうが色濃く心に残っているはずです。
そして、それは「つらい修業期間」ではなく「やりたいことをやり続けてきた花道」になっています。

「成功までのつらい修業期間を乗り越えられるか不安」という悩みを解決する手段は、進みたい道を進む意志をもつことです。
強い意志を持てたとき、修業期間は乗り越える期間ではなく、満喫する期間になるでしょう。

「美大に進学するか」「専門学校に進学するか」迷っています

「美大」と「専門学校」のどちらに進学するべきかの迷いには、いくつかの種類があります。
経済的な迷いならば、希望を優先させて解決方法を探るべきです。
学びたい内容で迷っているならば、美大と専門学校の違いを知るべきでしょう。

美大と専門学校の違いは、学ぶ期間と内容です。美大は4年制で専門学校は2年制が多いでしょう。
学ぶ内容は、専門学校のほうが具体的です。

例えば「CGを学びたい」と思うならば、専門学校の方が技術を学べます。
美大では「CGの将来性」「CGの可能性」のような理論が多く、手取り足取りCGの制作方法を習う機会は少ないです。
技術力を高めたいならば、美大よりも専門学校のほうがいいのかもしれません。

専門学校よりも美大で多く得られることは、アートの道を進む覚悟かもしれません。
専門学校は、CGやアニメなど分野に特化した学校が多くあります。

一方、美大は美術の総合大学です。
絵の具まみれのつなぎを着た学生もいれば、スタイリッシュなデザイン科の学生、中高年の学生もいます。
まったく違う環境でアートへのあこがれを培ってきた人たちが美大で出会い、4年間お互いを刺激します。
美大の卒業生は、必ずしも安泰なアートの道を進んではいません。
しかし、体の中に「自分はアートの人」という芯をもっています。
専門学校の卒業生は、卒業後に即戦力となれる技術を持つことができます。
美大の卒業生は、4年間でアートの道を進む芯ができます。

どちらの学校を選んでもアートの道です。

絵本画家になるには油絵と日本画どっちがいいですか

「絵本画家になるには油絵と日本画どっちがいいですか」という質問は、筆者が美大受験予備校時代に実際に講師に聞いた質問です。
答えは「どっちでもいい」でした。
正確にいえば「彫刻でも映像でも、なんでもいい」でした。
このときの筆者は、まだ「アート」の意味がわかっていなかったのです。

絵は、世界観を表現することです。
油絵や日本画は、表現の手段です。
作品にとって大切なことは世界観であり手段ではありません。

つまり、絵本画家になって絵本を描きたいのならば「描く世界観が大切なのであって手段を先に選ぶものではない」ということだったのです。
実際に、有名な絵本画家は油絵でも日本画でもないさまざまな手段で表現をしています。
例えば「はらぺこあおむし」で有名なエリック・カールは、グラフィックデザイナーとして働いていた人です。
作品も絵の具を使って描いたのではなく、コラージュという貼り絵で描いています。

「油絵科と日本画科、デザイン科と映像科どれにするか」は、入学試験を受けるために選ぶ必要があります。
しかし、それは入口を決めるだけです。
「もっと表現しやすい方法はないか」「もっと世界観が出せる表現方法は」と高みを目指す気持ちが出口を決めます。

アートの道は不安定だから迷っています

アートの道は、道すら見えないような道です。
子どもが「芸術家になりたい」と言えば反対する親の方が多いかもしれません。
しかし「会社員になりたい」と言えば安定するのでしょうか。
つり橋と石橋ならば、石橋の方が安定しています。

しかし、つり橋を渡ってドキドキしたい人が、自分をごまかして石橋を渡って満足できるのでしょうか。
石橋を渡り終えたとき「多少揺れてもつり橋を渡っておけばよかった」と後悔しても遅いのです。
渡りなおすためには、再びスタート地点に戻らなければなりません。

筆者は、高校生のときにアートの道を志しました。
当時の志望動機は「有名なアーティストになって稼ぐ」「芸術で自然環境を守る」という2つです。
それから、いろいろな出会いがあり、現在は「美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」という新たな魅力をみつけて活動しています。
一般的には「不安定な道を選んだ」と思われるでしょう。
ただ、アートの道を志し、多くの仲間との出会いによって築かれた「芯」は年を重ねてもぶれることはありません。

アートの道は不安定です。
しかし、自分の気持ちにふたをして違った道を進んでしまっては、肝心の自分が不安定になってしまいます。

おわりに

筆者の好きな写真家である星野道夫の本に「人生とは何かを計画している時に起きてしまう別の出来事」という言葉があります。
何かを始めるときには不安や迷いは必ずあります。
大切なことは「自分の気持ちにふたをしたりごまかしたりしないこと」です。
自分に正直に道を選べば、たとえ計画通りに人生が進まなかったとしても後悔はしないでしょう。

文筆:式部順子(しきべ じゅんこ)
武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業
サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。
在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。
  • 参考書籍:「イニュニック 生命―アラスカの原野を旅する」新潮文庫 著者 星野道夫

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