油絵は知るほどおもしろい! 油絵と油絵画材の豆知識8つ

油絵を描いてみたいけれど「絵の具の扱いが難しそう」「画材の種類が多くて手が出しにくい」と思い、
なかなか始められない人も多いようです。
たしかに油絵画材は種類が多く、選び方や使い方に迷います。
しかし複雑だからこそおもしろさもあります。

今回は、知れば知るほどおもしろい油絵と油絵画材の豆知識をお話しします。

油絵にドライヤーをあてても乾かない

油絵を独学で始めると、最初にぶち当たる悩みが「乾かない」かもしれません。
油絵は、絵の具を重ねて描くことが多いのですが、絵の具が乾かなければ重ね塗りができません。
早く絵を描き進めるために、塗った絵の具の上からドライヤーをあてて早く乾かしたくなります。
しかし、油絵にドライヤーをあてても絵の具が乾くことはありません。
なぜならば、油絵の具は水分が蒸発して乾くのではなく、絵の具が空気中の酸素と結合して固まるからです。
これを酸化重合といいます。
「油絵はくさい」といわれる理由は、酸化重合するときに発生するガスが原因です。

油絵の具の乾燥時間は、絵の具の厚さによっても変わりますが薄ければ1日、厚ければ1週間程度かかります。
完全に中まで乾燥させるためには1年ほどかかるでしょう。

油絵の具の中には白と朱色を混ぜると黒くなるものがある

水彩絵の具を混色するときには、だいたいの変化が予測できます。
例えば、赤色に白色を混ぜればピンク色になるし、赤色と青色を混ぜれば紫色になります。
しかし、油絵の具の中には予測を覆す変化をする絵の具があります。
油絵の具にはシルバーホワイトという白色があります。
そして、シルバーホワイトにバーミリオンという朱色の絵の具を混ぜると黒くなるのです。
一般的には、白色と朱色を混ぜれば薄だいだい色になると予測します。
しかし、油絵の具のシルバーホワイトには鉛白が含まれ、
硫黄を含んでいるバーミリオンと化学反応をおこして黒くなるのです。

油絵の具には毒や害があるものもある

シルバーホワイトとバーミリオンのように油絵の具には、化学反応をおこす組合せがあります。
また、単色であっても毒性のある物質が含まれている色もあります。
「急性毒性マーク」や「CLマーク」がついている場合は扱い方に注意をしましょう。

また、油絵は画溶液や筆を洗った液の適切な処理が必要です。
液が大量にしみ込んだ布をそのままゴミ箱に詰め込んでしまうと発火することもあります。
正しい捨て方を知っておくことも油絵を描くときには必要なことです。

油絵の具の黒白は2色ではない

油絵の具の色数は豊富です。黒と白だけでもいくつも色の種類があります。
例えば黒色はアイボリーブラックとピーチブラックとランプブラックの3種類があります。
アイボリーブラックは、牛の骨から作られている絵の具であたたかい黒色です。
ピーチブラックは顔料で作られている絵の具で青みがかった冷たい黒色です。
ランプブラックは煤(すす)から作られている絵の具で多くの人がイメージする定番の黒色です。
この3つの黒色は単体では区別がつかない黒色ですが、混色すると違いが出ます。
画材店では混色前と後の色見本が用意されています。

白も同じです。パーマネントホワイトやチタニウムホワイト、ジンクホワイトがありそれぞれに特徴があります。
油絵はたくさん描けば描くほど絵の具の色の違いを知り、絵の具を選ぶ楽しさも知るのです。

色の名前から特徴がわかる

油絵の具は、色の名前から使われている材料や特徴がわかります。
例えば、チタニウムホワイトにはチタニウム、ランプブラックはランプの煤から作られたことが名前の由来になっています。
絵の具の名前に「カドミウム」「コバルト」などがついているときには、
絵の具にカドミウムやコバルトの金属が使われていることが多く、毒性に注意が必要です。

「ヒュー」は材料名ではなく特徴をあらわす言葉です。
毒性がある材料を使った絵の具は扱いに気をつけなくてはなりませんが、発色がよく高価です。
「ヒュー」は、毒性のある高価な絵の具を「毒性がない安い材料を代用して作られた絵の具」であることを意味する言葉です。
「ヒュー」もしくは「チント」がついていることもあります。

直接紙に油絵を描くと紙が負ける

油絵は木枠に画布を張った張りキャンバスに描きます。
しかし張りキャンバスは紙よりも高価であり、自分で張るにはコツが必要です。
そのため、油絵を紙に描きたくなることがあるかもしれません。
しかし、紙にそのまま油絵を描いてしまうと油絵の具の油が紙にしみ込んでしまい、
年数が経つと絵がボロボロになります。
もしも、どうしても紙に油絵を描くときには専用の下地材を使って処理する必要があります。

日本に持ち込めない油彩筆がある

油絵に限らず絵を描くときに重要な画材は、絵の具よりも筆かもしれません。
筆者も描けば描くほど絵の具よりも筆へのこだわりが強くなり、
高価な筆を思い切って購入するようになっていました。

昔は、さまざまな動物の毛で作られた筆が流通していましたが、今は天然の毛よりも人工の毛が増えつつあります。
絶滅危惧種の動物はもちろんですが、保護のために輸出入に規制がかかり、
今では日本ではお目にかかれない筆もあるのです。

油絵は奥が深いからこそ「慣れるより習う」

油絵は奥が深いです。絵の具だけでなく絵の具に混ぜる画溶液の選び方ひとつでも作品が変わります。
小学校のときに使っていた水彩絵の具や色鉛筆ならば、使っていくうちに画材の特徴がわかりました。
「習うより慣れよ」です。

しかし油絵は違います。
なんの知識もなく適当に画材を使っていたら、幅広い表現ができないだけでなく、さまざまなリスクもあります。
油絵は「慣れるより習う」です。
絵画教室で正しい知識を学ぶことが一番ですが、難しい場合は画材店で相談しながら初心者に適した画材を選ぶようにしましょう。

おわりに

油絵と油絵画材の奥深さについてお話ししましたが、もしかしたら「油絵ってなんだかこわい」と感じた人がいるかもしれません。
それでも正しい知識は必要です。
もしも「もっと気軽に油絵のような絵を描きたい」と思うならば、まずはアクリル絵の具を選ぶこともできます。
絵を描く画材は想像以上にあるのです。

文筆:式部順子(しきべ じゅんこ)
武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業
サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。
在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。

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