中高生からよくある質問「絵画とイラストの違いは何ですか」

絵画とイラストの違いは、なんとなくわかるけれどはっきり答えられない人も多いのではないでしょうか。
美術部という看板を掲げていても、実際はマンガやイラストばかり描いている部活もあります。

今回は、知っているようで知らない「絵画とイラストの違い」をわかりやすく解説します。

絵画とイラストは「目的」が違う

絵画とイラストの大きな違いは、描く目的ではないでしょうか。
絵画は、画家が感じたことを表現するものです。
つまり絵画には、画家の世界観が広がっています。
そのため、抽象画のように一目で描かれた内容が理解できないこともあります。
また、みる人によって解釈が違うこともあるのです。

一方、イラストはみる人に伝えることが目的です。
例えば、リンゴのイラストを描くときには、みた人が一目で「リンゴだ」とわからなければなりません。
さらにイラストで描かれたリンゴは、可愛かったりきれいだったりと付加価値をつけることで魅力あるイラストになります。

東急電鉄のキャラクター「のるるん」は、アートディレクターの池澤樹氏が描きました。
東急電鉄の車両をイメージした配色ですが、絵画としてみれば電車の車両とは程遠い形です。
「のるるん」は、絵画として描かれたわけではないため感性を刺激するという目的ではありません。
東急電鉄をより身近に感じ「「のるるん」といえば東急電鉄」というブランディングが目的で制作されています。

絵画とイラストは「用途」が違う

絵画の用途は鑑賞です。みる人は、作品を鑑賞して画家の世界観を共有し感性を刺激します。
一方のイラストの用途はさまざまです。
例えば、文房具のイラストならば対象年齢の子どもが好みそうなイラストを添えることで売上をあげます。
また書籍の説明文をわかりやすく伝えるためにイラストが使われることもあります。

絵画の用途は、鑑賞して感性を刺激することのため、一点物がほとんどです。
複製画が描かれることもありますが、複製画の用途も絵画と同じで手軽に感性を刺激することです。
イラストは、大量生産されることがほとんどです。
絵画は商用を意識しないで制作されますが、イラストは制作段階から商用利用されることを意識して制作されることも大きな違いでしょう。

東急電鉄の「のるるん」は、さまざまなグッズになっています。
はじめから商用目的で描かれているため、印刷時のことを考えて形はシンプルで色数もおさえてあります。

絵画とイラストは描き方が違う

絵画とイラストでは描き方が違います。
絵画は、デッサンのようにモノの形や陰影をとらえて描きます。
デッサンはモノの見方の訓練でもあります。

一方のイラストは、モノの形や陰影よりもモノ(描く対象)の特徴をみつけて描きます。
多少形がおかしくても、特徴がとらえられた個性的な作品が求められます。

東急電鉄の「のるるん」は電車をモチーフにしています。
陰影は一切なく、電車の特徴であるパンタグラフと東急電鉄車両の特徴の赤いラインで構成されています。

絵画とイラストの境界線はなくなりつつある

絵画とイラストに違いはあります。
しかし、歴史上で長く残っているイラストは絵画として扱われることが多いです。
例えば、ノーマンロック・ウェルは雑誌の表紙の絵を多く描いてきたため、イラストレーターとして紹介されることがあります。
しかし残された作品はイラストのような内面をデフォルメした面白さと絵画的な写実さが共存しています。
絵画ともイラストともいえる作品です。

また、最近のイラストは紙の印刷物で使われるよりもウェブサイトで使われることの方が多くなっています。
そのため、紙に印刷するときのように色数の制限や形のシンプルさは考慮せず、より自由に表現できるようになっています。

デジタルイラストが普及し、絵画とイラストの境界線はさらになくなりつつあります。
少し前までは画家とイラストレーターは、まったく畑の違う職業でした。
しかしデジタルイラストが主流になった今では「絵師」と呼ばれる人が登場しています。

絵師の元々の意味は浮世絵の原画を描く人です。
葛飾北斎や歌川広重などが有名です。
現代で「絵師」と呼ばれる人は、浮世絵ではなくゲームやアニメのオリジナルイラストを描く人をいいます。
現代の絵師は、自分の作品をSNSで発信しファンを獲得しています。

現代は「絵画は画家が描き、画廊で個展をする」と決めつける時代ではなく、誰もが絵を描きイラストも描きます。
そしてSNSを使ってどこでも作品を発信することができる時代です。

おわりに

中学校の美術部の中にはマンガやイラストだけを自由に描く部活もあります。
しかし、有名なマンガやイラストは正確なデッサン力に基づいています。
絵画とイラストの境界線はなくなりつつありますが、デッサン力がなければいずれ限界がやってきます。
そして、魅力的な絵画はモチーフの内面までも絵にあらわれています。
つまり魅力的な作品は、絵画の要素とイラストの要素の両方を持ち合わせているのです。

文筆:式部順子(しきべ じゅんこ)
武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業
サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。
在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。

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