難解な絵をわかりやすく解説! 理解すれば絵を描く勇気がわいてくる有名作品2つ

有名な絵や有名な画家の絵をみても「どこがいいのかがまったくわからない」と思うことがあります。
しかし難解な絵は奥が深く、知れば知るほど面白さがわかります。

今回は、難解な絵を2つ挙げてわかりやすく解説します。
「上手い絵だけがいい絵ではない」とわかれば描く勇気がわいてきます。

マグリット「リスニングルーム」

マグリットの作品には難解なものがたくさんあります。
暖炉から汽車が飛び出している絵や顔が隠された恋人たちの絵、「パイプではない」と書かれたパイプの絵など何が言いたいのかわかりにくいものが多いのです。

「リスニングルーム」も難解です。
部屋の中に天井に届くくらい大きな青リンゴが1個だけ描かれています。
タイトルにある「リスニング」をイメージするヘッドホンやオーディオ機材は一切描かれていません。
しかもマグリットは、同じタイトルで2枚の絵を描いています。
違う点は部屋だけで青リンゴは同じです。
マグリットは、他の作品にも青リンゴを頻繁に登場させています。
青リンゴへの思い入れがとても強い画家であることはわかります。

「リスニングルーム」に限らず、マグリットの絵には哲学的な意味が込められています。
例えば「パイプではない」と書かれたパイプの絵は「イメージの裏切り」というタイトルがつけられています。
意味は「絵に描かれたパイプは本物のパイプではない」ということです。
そう考えてみると「リスニングルーム」にも哲学的な意味が隠されているのかもしれません。
マグリットの作品には、自分自身や緊張感を青リンゴに置き換えて描いた絵がたくさんあります。
実は「リスニングルーム」は「盗聴の部屋」と訳されることもあるのです。
つまり、盗聴という行動をすることで、単なる一つの部屋がはちきれんばかりの緊張感に包まれている様子を描いているのではないでしょうか。

「リスニングルーム」は、現実的にはあり得ない光景を描いた絵です。
単純に「非現実的でおもしろい」とみることもできます。
ただ、マグリットの生い立ちや他の作品を知ることで、マグリットが青リンゴに込める意味を知り、まったく違った見方もできるようになるのです。

ダリ「記憶の持続」

ダリの「記憶の持続」は、多くの人が一度はみたことがあるのではないでしょうか。
だらりと垂れた時計の絵です。
実は「記憶の持続」の絵の中にはもうひとつだらりと垂れているものがあります。
それはダリ自身の頭です。
「記憶の持続」は、ユニークな絵やデザインされた絵というイメージがありますが、実はちょっとこわい意味が隠されているのかもしれません。

「記憶の持続」に込められた意味は強迫観念といわれています。
時間に追われる強迫、寿命が近づく強迫など、ダリ自身が苦しんでいた時間に関する強迫観念が描かれているのではないでしょうか。

ダリといえばおしゃれな髭やユニークな表情が思い浮かびます。
しかし、実際のダリの人生は波乱万丈であり、幼少期から結婚後も「強迫観念」が常にあったのでしょう。
ダリの難解な絵には、ダリの難解な人生が隠されているのです。


シュルレアリスムとは

紹介した2つの作品は「シュルレアリスム」と呼ばれています。
シュルレアリスムとは、1924年頃に生まれたモダンアートの運動です。
今では「シュール」という言葉も生まれ、意味は「非現実的」と解釈されることが多いでしょう。

ただ本当のシュルレアリスムの意味は、単なる非現実的なということではなく、哲学的な考えから生まれた「夢と現実の間」です。
夢と現実にはギャップがあり、矛盾もありますが、「矛盾点もまるごと受け入れて描いちゃえ! 」という考えがシュルレアリスムです。
マグリットが描いた「リスニングルーム」もダリの「記憶の持続」も現実的にはあり得ない光景です。
しかし、画家自身が夢(無意識)と現実とのはざまで感じていることをまるごとぶつけています。

シュルレアリスムの作品にはデペイズマンという技法が多く使われています。
デペイズマンとは、想像しなかった場所や状況を組み合わせることで「驚き」を与える技法です。
たしかに大きすぎる青リンゴや溶けている時計は想像しづらい状況で、見る人に驚きを与えます。
しかし「驚き」だけならば人は飽きます。
これだけ長い時間を経ても多くの人たちに受け入れられる原因は画家自身の哲学や思い入れにあるのではないでしょうか。

マグリットの絵は、けして複雑ではありません。
iPadでお絵かきソフトを使えば、誰でも簡単に描けるでしょう。
しかし、絵の背景にある哲学や思いがなければ、同じ絵でも薄っぺらの作品になってしまうのです。
言い換えれば、どんなにシンプルで簡単な絵でも哲学と思いに裏打ちされた作品は人の心を打ちます。

おわりに

シュルレアリスムの作品は、パッとみただけでは意味がわかりません。
画家の性格や人生を知ることで少しずつ言いたいことが見えてくるのです。
難解な絵は理解するまでに時間と根気が必要です。
しかし、難解だからこそ込められた意味は深く、飽きないのです。

パッとみて「上手い」と思える絵だけがいい絵ではありません。
画家自身の思いや哲学が込められていれば、プロでなくても「いい絵」は描けます。
「私は絵が下手だから」と思っている人は、小手先の技術にこだわるのではなく、自分の哲学を絵に込めることから始めてみてはいかがでしょうか。

文筆:式部順子(しきべ じゅんこ)
武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業
サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。
在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。

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