社会人からデッサンを始める! 社会人向けデッサン教室の中身と上達する教室の探し方ポイント

デッサンは「絵を描く人」だけのものではなく、さまざまな職業において必要とされるスキルのひとつです。
実際、当絵画教室にもデッサンを学ぶ社会人の方が多く通われています。

デッサンが求められる職業の具体例

研究・開発職
工学や科学の分野では、アイデアを視覚化することが重要です。例えば、

  • 機械設計者が新しい部品や装置のコンセプトを素早くスケッチし、チームと共有する。
  • 医療機器開発者が、外科手術で使用する新しい器具のデザインを描き起こし、試作品の形状を検討する。
  • 建築家や都市計画専門家が、空間の構成を手描きで素早く表現し、クライアントや関係者とビジョンを共有する。

医療・福祉分野
人の体を扱う仕事では、患者の状態を正確に記録するためにデッサンが活用されます。

  • 皮膚科医が患者の皮膚疾患の状態を記録し、治療の経過をビジュアルで比較する。
  • 外科医が手術前のカウンセリング時に、手術方法や傷の位置を患者にわかりやすく説明するためにスケッチを描く。
  • 理学療法士が、リハビリのための動作指導をする際、患者に理解しやすいよう関節の動きや筋肉の働きを図解する。

デザイン・クリエイティブ職
プロのデザイナーでなくても、ビジネスの場で「伝わるイラスト」を描けることは大きな武器になります。

  • ファッションデザイナーが、デザインのアイデアを素早くスケッチし、生地や縫製の方向性を決める。
  • 広告企画担当者が、プレゼンテーションで商品のコンセプトや構成をビジュアルで説明するためにラフスケッチを作成する。

ビジネス・マネジメント職
アイデアをスムーズに伝えるために、デッサンのスキルは経営や企画の場面でも役立ちます。

  • 飲食業の経営者が、店内レイアウトやメニューの盛り付けデザインを手描きで説明し、スタッフと共有する。
  • 教育者や研修講師が、抽象的な概念を視覚的に表現し、受講者に直感的に理解しやすい講義を行う。

イベント・空間デザイン職
空間をデザインする仕事では、平面ではなく立体的な構成をスケッチで表現する力が求められます。

インテリアコーディネーターが、クライアントの要望をもとに、家具配置や色彩の組み合わせをスケッチで示す。
舞台美術家が、劇場のセットデザインのラフスケッチを作成し、演出家や技術スタッフとビジョンを共有する。

とはいっても、子どもと同じ教室で習うことは「ちょっと恥ずかしい」「時間帯が合わない」という問題があります。

今回は、社会人向けのデッサン教室の中身と社会人向けの上達する教室の探し方をお話しします。

社会人向けデッサン教室とは

デッサンは、絵画教室の一コースとして開設されていることがほとんどです。
「デッサン教室」という看板を掲げてデッサンに特化している教室はあまりないでしょう。

絵画教室の中にデッサンコースがあれば、社会人を対象としたクラスがあるか確認しましょう。
社会人を対象としたクラスは、夕方以降の時間帯や土日に設置される傾向があります。

社会人向けのデッサンは、ひとり一人違ったモチーフや課題を描くことが多いようです。

なぜならば、社会人がデッサンを習う目的はひとり一人違うことが多いからです。
趣味で習う人もいれば仕事で必要に迫られて習いに来る人もいます。
それぞれの目的に応じたデッサンを学べるところが社会人向けデッサンの特徴です。

社会人向けと子ども向けのデッサン教室の中身の違い

デッサン教室で学ぶことは、ものをしっかりみて形をとらえ、光と影、奥行きの表現力です。
デッサンの目的は、社会人も子どもも同じです。
ただし、目的に到達するまでの方法は社会人と子どもとでは違いがあります。

ここからは、社会人向けと子ども向けのデッサン教室の中身の違いを具体的にお話しします。

<描くモチーフが違う>

デッサンは、描くモチーフによって難易度が変わります。
真っ白い球体よりも金属やガラスの球体の方が難しくなります。

一般的に子どもは社会人よりも「簡単なモチーフが選ばれる」と思われがちです。

しかし、子どもに「真っ白い石膏の球体」を延々と描かせたら、子どもはデッサンを嫌いになるでしょう。
そのため、子どもを対象としたデッサン教室では「子どもが興味をもつモチーフ」が選ばれます。

筆者の子どもは、タヌキの剥製を数週間に渡って描いていました。
デッサンの経験がない子どもにいきなりタヌキの剥製を描かせることは無謀な挑戦ですが、筆者の子どもは「あのタヌキの剥製が欲しいな」と言いながら、毎週楽しそうに教室に通っていました。

子どもは、デッサンの技術よりも楽しさを感じるモチーフや課題を行います。

一方の社会人は、デッサンスキルの向上を目的としているため、現実的なモチーフが選ばれます。
真っ白い石膏の球体から始まり、金属製の円柱をたして写りこみを描く練習をします。
徐々に難易度をあげて、最後は不規則な形で難易度が高いと言われている植物や動物に挑戦します。

<生徒のモチベーションが違う>

デッサン教室に来る社会人は、必要に迫られてデッサンを習うことも多く、モチベーションが高いです。
「絵が描いてみたい」という社会人ならば、油絵教室などの絵の教室に通います。

数ある絵の中でも基礎である「デッサン」を選ぶ人は、絵に対して楽しさよりもまじめかつ真剣な目的があることが多いのかもしれません。

デッサンだけを行う子ども向けのクラスはあまりありません。
美大を目指す年齢になれば、受験対策としてデッサンクラスが設けられます。

小さな子どもにとって、デッサンは「色のない絵」という認識であることも多く、色をつけたり粘土をこねたりする課題よりはモチベーションは低くなりがちです。

社会人が上達できるデッサン教室を探すポイント

社会人向けのデッサン教室を探すとき、基準は「仕事と両立できる教室」「上達できる教室」の2つがあります。
ここからは「上達できる教室」を探すポイントを2つお話しします。

<短期や回数制限なく通えるクラスがある>

社会人向けのデッサン教室には、チケット制で好きなときに習えるクラスや全3回の短期間クラスなどがあります。
チケット制や短期間は、働きながら通う社会人には便利に感じるかもしれません。

しかし、上達することを優先するならば、チケット制ではなく定期的な通学、短期間ではなく長期間を選びましょう。

なぜならば、デッサンは日数をあけてしまうと感覚が鈍ります。また、デッサンは描けば描くほどうまくなりますが、上達のスピードはとてもゆっくりです。短期間で一気に上達させることはできません。

チケット制や短期間クラスは「デッサンのお試し」「教室の体験レッスン」としては便利な方法です。
デッサンを本気で学ぶのならば、そのあとは長期間の定期的なクラスに切り替えましょう。

<モチーフの種類が豊富にある>

デッサンは、さまざまな大きさや質感のモチーフを描くことが上達するポイントです。
大きな石膏像は高価なため、個人の絵画教室にはおいていないかもしれません。

デッサンを上達させる目的があるならば、リンゴや造花など家庭でも用意できるモチーフだけでなく、石膏像や木製の樽、牛骨など個人では用意できないモチーフが豊富にある教室を選びましょう。

<デッサンが得意な先生がいる>

デッサンは、テクニックです。
描き方を具体的に指導されるほど早く上達することができるでしょう。

デッサンは得手不得手があります。
筆者は、美大受験予備校時代に「デッサンに対する熱い気持ちは人一倍ある。それなのになぜ、こんなに描けないかな」と講評されていました。

デッサンは今でも大好きです。
しかし、けして上手ではありません。

デッサンが得意な先生はデッサンの指導も上手です。
「絵がうまいからデッサンがうまい」とは限りません。
「有名だからデッサンがうまい」とも限りません。
「デッサンがうまい先生」をみつけることが、上達できる教室をみつけるポイントです。

おわりに

デッサンは、色数は少ないけれど奥が深い絵です。
ぬり絵のようにすべてを塗り終えた完了ではなく、終わりは自分で決めなければならない「大人な絵」です。
本気の社会人が集まる教室を探して、デッサンを始めてみてはいかがでしょうか。

文筆:式部順子(しきべ じゅんこ)
武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業
サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。
在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。

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