絵画教室と他の習い事の決定的な違いとは? 違いがわかれば魅力がわかる

絵画教室には、他の習い事とは違う雰囲気があります。
「昇級がない」「正解がない」「チーム戦がない」など小さな違う点はいくつもありますが、
実は決定的に違う点がひとつあるのです。

今回は、絵画教室と他の習い事との小さな違いと、それらの小さな違いが生み出す決定的な違いをお話しします。
絵画教室の魅力に気がつくことで、新しい役割を発見します。

「できる子」と「できない子」の区別がない

絵画教室には「できる子」と「できない子」の区別がありません。
お習字やピアノ、サッカーや空手などの一般的な習い事には級やポジションがあり、
スキルによって「できる子」と「できない子」に分けられてしまいます。

スキルによって区別されることは、「できる子」や負けん気の強い子にはメリットもあります。
しかし「できない子」にとっては劣等感を生んでしまうデメリットもあるのです。
絵画教室の「できる子」と「できない子」の区別は優劣ではありません。
「できる子」は、絵が好きで集中して作品に向き合える子であり、
「できない子」は絵の魅力や作る楽しさに気がついていない子です。
つまり「できない子」でもスキルに関係なく、先生のアプローチやきっかけによって、すぐに「できる子」になる可能性を秘めています。

先生は教える人ではなく支える人

絵画教室での先生の立ち位置は「教える人」ではなく「支える人」に近いでしょう。
一般的な習い事は、先生やコーチが子どもたちに「指導」をします。
自然と先生やコーチの方が子どもたちよりも立場が上という雰囲気になるのではないでしょうか。
一方の絵画教室は、先生は「指導」というよりも「案内」をします。
絵画や工作には正解がありません。
道具や画材の基本的な使い方は指導をしても、表現は自由です。
自由な表現ができるように案内し、支える人が先生です。
子どもが持っている可能性をみつけて、可能性を引き出すように案内します。
そのため、先生と子どもたちの間には上下関係というよりも、
アーティスト同士の関係に近い「お互いを認め合う関係」になります。

上下関係は、マナーや師弟関係を学べるメリットがあります。
一方で上下関係が強くなると居心地の悪さを感じたり、言いたいことが言えなかったりするデメリットもあります。
絵画教室のアーティスト同士の関係は自由な表現を守るためにも有意義な関係です。

目指すゴールが共通ではない

習い事には目指すゴールがあります。
例えばピアノならば「両手で弾けるようになる」、空手ならば「黒帯」がゴールかもしれません。
一般的な習い事には、多くの人が目指すゴールが共通しているのです。

絵画教室には多くの人が目指す共通したゴールがありません。
作品を制作するペースは人それぞれであり、目指す作品も人それぞれです。
作品には、級や段のようにスキルを線引きするものはありません。

例えば「展示会に作品を出品する」というゴールを目指したとしても、展示会の内容はさまざまです。
出品者全員分が展示される展示会もあれば、受賞した作品だけが展示される展示会もあります。
人それぞれで自分に合った展示会を選ぶことができるのです。

目指すゴールが共通していないことで「私の年齢では2級取得がふつう」や「自分のチームだけ優勝経験がない」という焦りが生まれません。

習い事にとって「焦り」はやめる理由になります。
例えば、同年代の子どもたちがみんな2級を取得し、自分だけが取得できていなければ焦ります。
焦りから「恥ずかしい」という思いが生まれて、居心地が悪くなるのです。

絵画教室は教室という名の居場所になる

絵画教室と他の習い事の小さな違いは

「優劣の区別がない」
「先生との関係が上下関係ではなく同士」
「目指すゴールは人それぞれ」

の3つです。
そして、小さな3つの違いが生み出す決定的な違いが「居心地のいい居場所になること」です。

一般的な習い事の教室は「習いに行く場所」であり、スキルが向上することで行く意味があります。
スキルを向上させるためには、ある程度の優劣の区別や先生との上下関係、共通のゴールが必要です。
しかし一方で、周囲の波に乗れなかった子どもは居心地が悪くなります。

絵画教室は、スキルの向上の前に「表現する楽しさ」を知る場所です。
スキルと楽しさは比例しません。

「あそこでは劣等感なくありのままの自分を出せる」
「あそこにはさりげなく支えてくれる人がいる」
「あそこなら自分のペースで進むことができる」

と思える場所が絵画教室です。

おわりに

絵画教室の雰囲気が他の習い事と違うように感じる原因は、
教室の子どもたちがマイペースで過ごしているからかもしれません。
レッスン時間は共通していますが、時間の過ごし方は個々で違います。
黙々と制作に取り組む子どももいれば、周囲の制作を眺めて終わる子どももいます。
どの過ごし方も否定せずに認めてくれる雰囲気が居心地のよい雰囲気につながっているのです。

文筆:式部順子(しきべ じゅんこ)
武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業
サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。
在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。

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