知っているようで知らない「絵の魅力」3つ

絵ほど好き嫌いがわかれるものはないのではないでしょうか。
絵が嫌いな人は、一生美術館に行くことはないかもしれません。
絵が好きな人は、食費を節約してでも欲しい絵があります。
しかし、絵が嫌いな人は、絵の魅力がわからないだけかもしれません。
絵の魅力がわかれば絵の見方が変わります。

今回は、絵が嫌いな人もちょっと絵をみてみたくなるかもしれない「絵の魅力」をお話しします。

言葉が通じなくても心を通わせることができる

絵の魅力は、ゴッホやセザンヌのような有名な作品以外でも、ふとした日常で感じることがあります。
例えば、言葉が通じない外国の人に何かを説明するとき、絵ならば言葉の壁を越えて説明することができます。
「リンゴ」は、英語で「アップル」になり、フランス語ならば「ポム」です。

言葉だけならば3つの単語を知らなければ、3人の人にリンゴを伝えることはできません。
しかし、リンゴの形は世界共通です。
リンゴの絵を描くことができれば、英語やフランス語どころか世界中の人たちにリンゴを伝えることができます。

さらに表現力があればモノ自体だけでなく、人の気持ちも伝えることができます。
ピカソのゲルニカはゲルニカ爆撃をテーマにして描かれた作品です。
ピカソが感じた悲しみや反戦の気持ちが作品からヒシヒシと伝わってきます。
この作品は、発表当初はさほど注目されませんでしたが、時代とともにこの作品に共感する人や感じ方が変化し反戦のシンボル的作品となりました。
時代も国も超えて反戦という共通のテーマを感じさせる作品です。

絵の魅力は、言葉や知識がなくても感じる心があれば心を通わせられることです。
一般的に学問や技術は最新のものに惹かれます。

大昔に描かれた作品が現代人の心にささったり、会ったこともない国の人の作品が欲しくなったりすることは絵や美術の特徴でしょう。

心をタイムスリップさせることができる

子どものころにみた絵本をみて「なつかしい」と思ったことはないでしょうか。
写真をみたときにも「なつかしい」と思います。

ただ、写真と絵では「なつかしさ」の中身が違う気がします。
写真は、写真に写っている情景をなつかしいと感じるのですが、絵は当時の心を思い出してなつかしいと感じるのです。

絵を描く立場になって考えてみても同じことがいえます。
子どものころに描いた絵には、当時の感動や思いが詰まっています。

例えばフルーツ狩りの思い出を描いた子どもの絵は、実物ではありえないぐらいフルーツや手が大きく描かれています。
もぎ取ったときの嬉しさやフルーツの重さが強烈に心に残っているため大きく描かれるのでしょう。

有名な作品にも心をタイムスリップさせる作品がたくさんあります。
ラスコーの壁画は、2万年ほど前に描かれたといわれています。洞窟の壁に大きな牛が描かれています。
忙しい現代では、洞窟にこもってこんなに大きな絵を描く時間がある人は、かなり有名な画家くらいでしょう。

しかしラスコーの壁画を描いた人は名もない庶民です。
筆者は「2万年前は庶民がこんなにも大きくておおらかな絵を描けるゆとりある生活をしていたのか」と思うのです。

場所や立場を超えて心を解き放つ

映画「ショーシャンクの空に」のワンシーンが、まさに芸術の魅力を語っています。
映画の舞台は刑務所です。

ある日冤罪によって刑務所に入った主人公が、きれいな歌声の音楽を刑務所に流します。
その瞬間、冤罪という理不尽な理由で大変な生活を送ってきた主人公の心が解き放たれ、そのほかの囚人たちも仕事の手を止めて歌声に耳を傾けるシーンがあるのです。

歌声によって「刑務所」という閉ざされた空間が、おだやかでやさしい空間になります。
映画では音楽でしたが、絵を含めた美術も同じではないでしょうか。

セザンヌの「首吊りの家」という作品があります。
題名は衝撃的ですが、作品自体はのどかな風景画です。
筆者はこの作品をみたとき「その場に吹いている風を感じる絵」と思ったのです。
真っ白い壁にかければ、その場にいなくても街の空気やにおいを感じる気がします。

感染症の流行で行きたい場所に行かれない時代でも、絵は場所や時、立場を超えて心を解き放つのです。

おわりに

絵の魅力は描くだけでなく、鑑賞する魅力もあります。
絵が嫌いという人は、絵の魅力を上手と下手で考えているのかもしれません。
上手な絵は魅力的、下手な絵はよくないということはありません。
自分の子どもが描いた絵は、どんなに有名な画家の作品よりも魅力的にみえます。
それは見る側の見方が違うからです。「自分を思って描いてくれた絵」「あのときの感動を描いた絵」と描いた子どもの立場になって絵をみられるから魅力が理解できるのです。

絵の魅力は、絵をみる人の見方で決まります。有名な作品のすべてに感動することはありません。
「首吊りの家」からのどかな空気を感じる筆者のように、絵の魅力は自分の感性で感じられればいいのです。
感じ方に正解はありません。

文筆:式部順子(しきべ じゅんこ)
武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業
サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。
在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。

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