親からみて「絵が下手な子」は絵画教室に入れるべき? それともあきらめるべき?

「うちの子は絵が下手だ」と思ったことはありますか?
学校に入学すると図工や美術の授業が始まります。
親の立場からすると「絵画教室に入れて絵を改善するべきか」それとも「あきらめるべきか」悩みます。

今回は、親からみて絵が下手な子を絵画教室に入れるべきなのかについてお話しします。


絵画教室は「絵を矯正する所」ではない

「絵が下手だから絵画教室に入れたい」と考える親は、子どもの絵を「普通」にしたいと思っているのではないでしょうか。
「桜はピンク色で塗るべきなのに、うちの子は白色で塗る」
「信号は青色で塗るべきなのに、うちの子は緑色で塗る」という理由ならば、けして絵が下手な子ではありません。
むしろモノを客観的にみる目をもっている子どもです。

例えば、梨狩りの思い出を絵に描いたときに、人間の頭よりも梨を大きく描く子がいたとします。
親からみたら「梨が頭より大きいわけがないのに」と思うかもしれません。
親がこの絵をみて「絵が下手な子」と思ったならば、親に絵をみる目がないだけです。
絵は写真とは違います。心に強く残ったものを一番大きく描けばいいのです。

「うちの子は絵が下手だから絵画教室に入れよう」と思ったときには、絵の技術を習うために絵画教室に入れたいのか、それとも「普通の絵」に矯正するために絵画教室に入れたいのかを考えてみるといいのではないでしょうか。
絵画教室は、絵を矯正することはしません。
なぜならば「普通の絵」は「個性がない絵」ともいえるからです。

親からみて「絵が下手な子」が先生からみたら「絵が上手い子」であることもある

親自身が「普通の絵」を求めていると、親が勝手に「うちの子は絵が下手」と思い込んでいる可能性があります。
もしも、自分の子どもの絵に心配があるならば、矯正する目的ではなく、プロの目から可能性をみつけてもらうために絵画教室に入れる方法もあります。
親の目からは「下手な絵」にみえても、多くの子どもの作品に接してきた先生の目には、魅力や可能性が見えるかもしれません。

大切なポイントは、親の基準で子どもの絵を矯正しないことです。
「桜はピンクで塗るのが普通」「太陽は赤色で塗る」と教え込んで描いた絵の方が「表現」という視点でみれば下手な絵です。
ピアノを習うときでも、変な癖がついてから習い始めるよりも、まっさらな状態から習い始めた方が上達ははやいです。
なぜならば、変な癖がついてしまったら、癖をなおすことから始めなければならないからです。
絵も同じことです。

親のあきらめは子どものやる気をつぶしてしまう

親の基準で「普通の絵」を描かせることはよくありません。
しかし、もっと悪いことは親が子どもの絵をあきらめてしまうことです。
子どもが描いた絵をみて「私も下手だからしょうがない」「絵が描けなくても勉強ができた方がいい」と言ってしまったら、あきらめている気持ちが子どもに伝わります。
子どもは親が大好きです。
親が自分の絵を褒めてくれたり、喜んでくれたりすることが原動力になります。
親のあきらめは、子どものやる気をつぶしてしまい、上達どころか描く意欲を奪ってしまうのです。

絵画教室の先生に「あきらめる」はありません。
なぜならば、絵を描くことに対して上手下手は気にしていないからです。
上手下手よりも「自分の表現をしたいと思う気持ち」「こわがらずに手を動かす気力」をみています。
そして、それらは誰にでも備わっている力であり、先生はそれを引き出すことができるからです。

絵画教室は「絵が上手い子」ではなく「絵が好きな子」を育てるところ

筆者の子どもは小学校低学年から美大受験予備校の小学生コースに通っていました。
クラスの中には、いわゆる「絵が上手い子」といわれるデッサン力がある子も多くいました。
筆者の子どもは「絵が上手い子」の仲間ではありませんでした。

ある日、「好きなモノ」というテーマで、筆者の子どもは犬の絵を描きました。
クリーム色の毛で鼻が赤い犬です。筆者が子どものころに飼っていた犬のポチです。
先生は、絵をみて「マヨネーズが好きなのね」と言ったのです。
クリーム色のボトルに赤いキャップがついているマヨネーズに見えたのでしょう。
筆者の子どもが「犬のポチだ」と答えると、先生は「なるほど! 先生はこの絵好きだな」と言ってくれたのです。
「先生はこの絵が好きだ」という一言で、子どもは自分の絵が好きになりました。
そして先生は、数ある上手い絵の中から、マヨネーズのようなポチの絵をパンフレットに小さく掲載してくれたのです。
とても小さな掲載でしたが、子どもの自信になりました。

絵画教室は「絵が上手い子」を求めていません。
上手い子を求めているならば、パンフレットには上手い絵だけを掲載するでしょう。
マヨネーズのようなポチの絵は、会ったことがない写真で見続けた犬に対する思いがあふれた作品でした。
「絵が好き」という気持ちが伝わる絵だったのです。

おわりに

親からみて「絵が下手な子」は、親だけがそう感じているのかもしれません。
そこで親があきらめてしまったら、どんなに可能性がある子どもでも描く気力を失ってしまいます。
絵画教室は、絵を矯正する所ではなく、絵が好きな子どもを育てて、描くことの楽しさを教える所です。
描く楽しさを知った子どもは、誰からどう思われようと自分の絵を描き、本当の上手さを獲得します。

文筆:式部順子(しきべ じゅんこ)
武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業
サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。
在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。

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