やっぱり絵はステキ! 絵画にまつわるステキなエピソード3選

絵画は目に見えたものをそのまま描くのではなく、画家の思いを絵に込めていることも多いのです。
込められた思いや絵画が描かれた背景を知ると絵の見え方が変わります。

今回は「やっぱり絵はステキだな」と思えるステキなエピソードをもつ作品を3点紹介します。

絵は言葉以上に語る! ゴッホの贈りもの「フィンセントの寝室」

ゴッホは、オランダで生まれました。
その後フランスのパリに行き、モンマルトルでゴーギャンやロートレックと出会います。
そしてゴッホは、パリでみた浮世絵のような明るい光に満ち溢れたアルルに向かいます。
アルルで過ごしたひと時は、ゴッホにとって一番画家らしい日々だったのではないでしょうか。
ゴッホの代表作である「ひまわり」「アルルの跳ね橋」などはアルル時代に描かれています。
「フィンセントの寝室」もアルル時代に描かれたものです。
ベッドやデスクが置かれたゴッホの部屋の光景が描かれた作品です。
アルル時代に描かれた「フィンセントの寝室」には、壁に2枚の肖像画が描き込まれています。
2枚の肖像画のモデルは当時の友人だったといわれています。

ゴッホは、アルルで耳切り事件をおこし、サン・レミの病院に入院することになります。
入院生活では楽しかったアルル時代に描いた作品と同じものを繰り返し描くようになりました。
「フィンセントの寝室」も複数枚描いています。
ただし、画中に描かれた肖像画のモデルは違います。
モデルが誰だったのかはわかってはいませんが、ゴッホは描き上げた絵を大切な人たちに贈っているのです。
おそらくゴッホは、絵を贈る相手の肖像画を絵の中に描き込んだのではないでしょうか。
ゴッホが人生で一番楽しかった時代を過ごした部屋の中に大切な人の肖像画を描くことで、ゴッホは感謝の気持ちを伝えたかったのかもしれません。

ゴッホは「フィンセントの寝室」を複数描き、大切な人に贈った約1年後にこの世を去りました。

サン・レミで描かれた「フィンセントの寝室」は、自分が輝いていた時代を懐かしむさみしさも含まれていますが「ありがとう」という言葉以上に人を思う気持ちが伝わる作品です。

かっこいい自画像! ベルト・モリゾの「自画像」

ベルト・モリゾは、画家マネのモデルをしていた女性で、のちにマネの弟と結婚します。
モリゾ自身も印象派の女性画家です。

モリゾは、マネのモデルでしたが、モリゾ自身はモデルではなくマネから絵を習いたいと思っていました。
しかし、マネはモリゾより後から入ってきた女性に熱心に指導をするのです。
モリゾは、マネのもとを離れ、第1回印象派展に参加し印象派グループに入ります。
はじめのうちはマネも怒っていましたが、モリゾがマネの弟と結婚したことで流れは変わります。
モリゾが描く女性像が注目されるようになり、モリゾの知名度も高くなったのです。

モリゾは、女性印象派画家として活躍し始めたころに1枚の「自画像」を描いています。
40代半ばになったモリゾの自画像は、白髪があり年相応の女性に描かれていますが、とても凛としてかっこいいのです。
絵筆を握りこちらを見据えているまなざしは、それまでの苦労と意志の強さを感じます。
それまでのモリゾの描き方はマネと似た大胆でやわらかなタッチでした。
しかし「自画像」は、どちらかといえば粗くスピード感があるタッチです。
背景はきれいに塗られず、描き込まれている部分は顔回りだけです。

たった1枚の絵ですが、モリゾの自画像は「1枚の絵が長い人生を語ることもある」と教えてくれます。

自分の母を描いた!? レオナルド・ダ・ヴィンチの「モナ・リザ」

絵に込められた思いを語るならば「モナ・リザ」ははずせません。
「モナ・リザ」は、レオナルド・ダ・ヴィンチの代表作です。

「モナ・リザ」のモデルは誰でしょうか。
タイトル通りならば「リザさん」です。
しかし筆者は、モデルはリザさんではなく、レオナルド・ダ・ヴィンチのお母さんだと思っています。
レオナルド・ダ・ヴィンチは、幼い頃にお母さんと別れています。
しかし、レオナルド・ダ・ヴィンチが大人になってから再会することができます。
再会後にお母さんは病気でこの世を去り、悲しい気持ちの中で描き始めた絵が「モナ・リザ」です。
「モナ・リザ」の背景には、自然が描かれています。
レオナルド・ダ・ヴィンチの故郷の風景という説もあります。
お母さんと離れさみしい気持ちで育った故郷を背景にお母さんの肖像画を描いたのではないでしょうか。

レオナルド・ダ・ヴィンチは最期まで「モナ・リザ」を手元に置いていました。
「モナ・リザ」のほほえみには、さみしさとやさしさ、厳しさとやさしさのように相反する感情が織り込まれていると分析されています。
レオナルド・ダ・ヴィンチの心の中にある「厳しいお母さん」「やさしいお母さん」「さみしいお母さん」のすべてを詰め込んだ絵が「モナ・リザ」なのかもしれません。

おわりに

絵は描く楽しみ方もありますが、鑑賞する楽しみもあります。
さらに絵を調べる楽しみもあるのです。
「この絵は誰がいつどうして描いたのだろう」と調べてみると、意外と自分の心にささる絵と出会えることがあります。
そして心にささる絵と出会うたびに「やっぱり絵はステキ」と思えるのです。

文筆:式部順子(しきべ じゅんこ)
武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業
サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。
在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。

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