「ピアノを習っている」と聞けば、ピアノに先生と生徒が並んで座り、手の動かし方から音の強弱など具体的な指導を受けている様子が頭に浮かびます。
しかし「絵を習っている」と聞いても具体的なイメージが浮かばない人が多いのではないでしょうか。
今回は、意外と知られていない「絵のレッスン」で習えることをわかりやすく解説します。
目次
絵のレッスンの種類
絵のレッスンには、たくさんの種類があります。
子どもを対象とした絵画教室では、絵の種類を問わず「制作活動」を行いますが、大人が対象になると種類別にクラスが開講される傾向があります。
絵の種類によってレッスンの中身は少し変わります。
まずは、絵の種類を知り、自分が習いたいものをみつけてみましょう。
<油絵>
「絵を習っている」と聞いて一番に思い浮かぶ絵が油絵でしょう。
油絵のレッスンは、デッサンや絵の具の使い方、色の表現方法などを習います。
油絵は、モチーフをみて写実的(写真のように本物そっくり)に描けるようになると、徐々に自分の心の目で見たモチーフを描けるようになります。
例えば、真っ白い石膏像でも「きれいな女性」にみえる人もいれば「強そうな女性」にみえる人もいます。
「きれいな女性」にみえた人は、パステル調のやさしい雰囲気の作品で描き、「強そうな女性」にみえた人はしっかりした線で濃淡をはっきりさせた作品を描くかもしれません。
油絵のレッスンでは、最初は油絵に共通した基礎を習い、その後は自分の表現をみつけて作品に個性的な表現ができるような指導がされます。
芸大や美大の油絵科の学生は、最初は油絵の具で描いていても、徐々に自分の表現方法をみつけます。
卒業時には、油絵にはみえない油絵や現代美術のような立体作品を制作する人がほとんどになります。
<水彩>
水彩はテクニックが大切な描き方です。
レッスンでは、多くのテクニックを習い表現の幅を広げます。
水彩絵の具は、水の量や色の重ね方で同じ色でも全く違う表現ができる画材です。
そして、濡れた状態と乾いた状態とでは色がガラッと変わる色も多くあります。
つまり、頭で考えるテクニックと、実際に手を動かして絵の具を溶き描くことで学べることがあるのです。
レッスンでは、より多くのテクニックに触れながら、絵の具を実際に使い「感覚」を養う課題をこなします。
芸大や美大の日本画科(芸大美大には水彩画科はない)の学生は、入学時には写実的な日本画を描きますが、卒業制作になると今までに培ったテクニックをすべて使った独自の表現で作品を描いています。
写真以上にモノの本質に迫った作品も多く、高度なテクニックと感性に驚かされます。
<イラスト・マンガ>
イラストとマンガのレッスンを受ける人は、すでに描きたい方向性が決まっていることが多いようです。
自分が持っている「描きたいイメージ」を形にするためにレッスンに通う傾向があります。
レッスンでは、その人が描きたいイラストを描くための具体的なアドバイスがされます。
例えば「水の質感を上手に出したい」という人には、水の質感が出しやすい画材を紹介します。
「人間の表情がたくさん描けるようになりたい」という人には、表情の描き方の基礎を指導するでしょう。
イラストやマンガのレッスンは、現役で活躍している先生が指導にあたることも多く、先生も生徒もやる気に満ちた雰囲気の教室が多いです。
かつては、イラストやマンガは美術とは一線を画したジャンルとして扱われてきましたが、今はマンガやイラストも美術として扱われています。
東京工芸大学では、2007年にマンガ学科が誕生しています。
卒業生はマンガ家やイラストレーターとして活躍しています。
<デジタル画>
デジタル画のレッスンは、ここ数年で急速に需要が増えています。
デジタル画のレッスンは、準備するものも少なく、かつ大人になってからでも始めやすいため年代を問わず人気のあるレッスンです。
デジタル画のレッスンでは、レイヤーの使い方など具体的な「使い方」の指導を受けることができます。
アナログからデジタルに移行したとき、一番悩むことがレイヤーかもしれません。
「すでに描いた部分の一部だけを修正する」というレイヤーの「層になっている感覚」に慣れることがポイントです。
デジタル画レッスンは、オンラインレッスンも普及していますが、レイヤーの感覚がつかめるまでは指導が一方通行のオンラインレッスンよりも対面やリアルタイムの相互で話せるオンラインレッスンのほうがいいでしょう。
<その他>
絵のレッスンは、紹介した以外にも増え続けています。
絵は時代とともに進化しています。
今から20年前はデジタル画もごく一部のプロが描くジャンルであり、描くツールも一般の人が買えるような値段ではありませんでした。
最近は、墨絵や砂絵そして色鉛筆画も人気です。
絵のレッスンで習うこと
絵にはたくさんの種類があります。
種類ごとに習う内容は変わりますが、すべてのレッスンに共通して習うポイントがあります。
ここからは、すべての絵のレッスンに共通する「習うこと」をお話しします。
<モノをみる力>
モノをみる力は、物をみる力とは違います。
物は形と色がわかればみることができます。
モノは、形や色だけでなく本質や印象も含めた総合的なモノです。
「私はこう感じる」という正解のない見方こそ「モノをみる力」であり、絵の種類を問わず表現するために一番必要な力になります。
<色の知識>
知識は習って覚えます。
すべての絵には色があり、色の知識があればあるほど表現力がつきます。
黄色には、クロムイエローもあればレモンイエローやカドミウムイエローもあります。
色の知識があれば同じ黄色でも数多くの中から一番いい色を選ぶことができます。
<画材の使い方>
レッスンでは、必ず画材の使い方を習います。
正しく画材を使うことは、絵を続けるために必要なことです。
画材の中には有毒なものもあります。
色の知識で紹介したカドミウムイエローにはカドミウムが使われています。
正しい使い方をすれば心配はいりませんが、口に入れたり、大量の絵の具を下水に流したりすれば問題です。
正しい画材の使い方を習えることは、絵のためだけでなく自分自身のためにも大切なことです。
<絵の楽しさと新しい表現>
絵のレッスンの目的は「絵の楽しさ」を知ることです。
上手に描けなくても「絵を描いているときは楽しい」「絵が好き」と思ったらレッスンの成果は十分に出ています。
そのうえで、新しい表現を習って、少しずつスキルを上げることができれば絵に「描きがい」を感じ、絵を描き続けることができます。
絵のレッスンでは、先生たちが自らの経験をもとにして絵の楽しさを伝えます。
おわりに
筆者は、絵のレッスンを受けてもなかなかスキルは上達しませんでした。
それでもレッスンの時間は大好きで、アトリエに入って絵の具のにおいをかいだ瞬間や筆先を整える瞬間は至福の時でした。
絵のレッスンは、絵を描き続けるための幹を築くためのものです。
しっかりとした幹ができれば、絵の種類が変わったとしても大きく枝葉を広げることができます。
文筆:式部順子(しきべ じゅんこ) 武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業 サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。 在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。