【大人の絵画】絵が上手になりたい人におすすめの模写したいお手本作家

絵を上達させる方法のひとつに模写があります。
とはいっても、どんな絵をお手本にして模写をしたらいいのかわからない人も多いのではないでしょうか。
今回は、知名度が高く比較的お手本が手に入りやすい作家の中から模写に適した作家を紹介します。

古いのに新しい構図「川瀬巴水」

川瀬巴水は、新版画と呼ばれるジャンルで活躍した人です。
新版画とは、浮世絵と同じ技法で刷られてはいますが、その構図は葛飾北斎の時代とは全く違った近代的なものになっています。

川瀬巴水の作品は、風景画が多く、絵画というよりもデザイン画にちかい雰囲気を持っています。
新版画は、油絵や日本画のように色の境目があいまいではないため、模写が初めての人でも描きやすいのではないでしょうか。

川瀬巴水の作品をとくにおすすめする理由は構図です。
絵を描く技術が高くても、絵の構図が上手でないと、作品全体が不安定だったり、どこを見たらいいのかわからない作品になったりします。
川瀬巴水の作品は、誰が見ても「これが描きたかったのか」と感じられるシンプルな構図です。
川瀬巴水の作品は、近年急激に人気が高まっているため、多くの作品集が出版されています。
書店に行けば簡単に作品集が手に入るでしょう。

また「新版画」というテーマで展示会も多く開催されるようになりました。
新版画は、川瀬巴水のほかにも物語的な雰囲気がある小林清親や色鉛筆を使って繊細に模写してみたくなる吉田博など魅力ある作家がたくさんいます。
展示会でカタログを購入し、好きな作品を模写してみると楽しいのではないでしょうか。

正確なデッサン力「レオナルド・ダ・ヴィンチ」

レオナルド・ダ・ヴィンチの作品といえば「モナ・リザしか知らない」という人も多いのではないでしょうか。
モナ・リザを模写することはとても難しいです。

実は、レオナルド・ダ・ヴィンチは手のデッサンをたくさん描いています。
手はいつでも描ける身近なモチーフであり、形を変えることで動きのある作品になります。
手のデッサンは、絵の上達にかかせない訓練のひとつです。

レオナルド・ダ・ヴィンチの手のデッサンは、美術解剖学に基づいているためデッサンの基礎を学ぶときに役立ちます。
手のデッサンは意外と難しいものです。
手の甲や指の付け根は、見ただけでは凹凸がないように見えるかもしれません。
しかし、解剖学に基づいてみると、皮の下には筋肉があり骨があります。
それらを意識して描いてみると、凹凸がない場所なんてないことに気がつくでしょう。
レオナルド・ダ・ヴィンチの手のデッサンの模写は、ものの見方を学ぶときに役立ちます。

絵を描く楽しさを感じる「ゴッホ」

模写とは、写し絵のようにお手本を写し取ることとは違います。
お手本にしている絵の作風や描き方を真似ることです。

ゴッホの作品は、レオナルド・ダ・ヴィンチや川瀬巴水の作品とは雰囲気が違います。
正確さよりも情熱や絵の雰囲気を大切にした作品です。
絵を描く技術が足りず高度な模写が難しいと思うときには、ゴッホの作品を模写してみましょう。

そっくりに描くのではなく、描き方や情熱を真似るのです。
「ひまわり」や「種まく人」よりも「星月夜」や「花咲くアーモンドの木の枝」の方が自由に描けるでしょう。
「絵を描くのがこわい」と思う人は、ゴッホの活気ある作風を真似ることから始めてみるといいのではないでしょうか。

絵の上達を目指すならテクニックの幅を広げるべき

紹介したお手本にしたい作家の作品は、ベタ塗や鉛筆の線で描けるものがほとんどです。
絵を描く技術や色の重ね方がわからない人でもそれなりに完成度が高い模写作品が描けます。

しかし、絵の上達をさらに目指すならば自己流の模写から、さらにステップアップする必要があります。
絵を描くことに臆病でなくなったら、色の微妙なグラデーションや技術の幅を増やしてみましょう。

絵画教室で絵を習うときには、目標とする「描きたい絵」があると具体的な指導が受けやすくなります。
「パステルを使ってゴッホのような絵が描きたい」や「ポスターカラーで川瀬巴水のような絵を描きたい」という希望があれば、先生は生徒が好む作風を知ることができ、もっと多くの作品や描き方を伝えることができます。

模写によって多くの作品や描き方を知り、好みの作家がみつかると「描きたい絵」もみつかるでしょう。

おわりに

美術館で絵を鑑賞するとき、「一枚だけもらえると言われたらどの絵が欲しいか」と考えながら館内を回ると違った楽しさがあります。
同じように「どの絵を模写したいか」と考え見ると、また違った見方ができます。

模写するという視点で絵をみるときには「描き手」になっていることに気がつくでしょう。
模写は、絵を描く楽しさを知るきっかけになります。
そして、もっと技術力を高めたいと思ったときには、絵画教室で描き方を習うことで模写ではなく、ゼロから自分の作品を生み出すことができるようになるでしょう。

文筆:式部順子(しきべ じゅんこ)
武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業
サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。
在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。

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