日本の美術は難しくまじめなイメージがあり、
草間彌生や奈良美智のような現代アートしか興味がないという人も多いのではないでしょうか。
しかし名作には「知識不要」でみるだけで感動する作品があります。
今回は日本美術に興味がない人でもみるだけで「あー、すごいな」と感じる作品を4点紹介します。
目次
「炎舞(えんぶ)」速水御舟
速水御舟(はやみぎょしゅう)は、40歳という若さでこの世を去った画家です。
「炎舞」は、30歳で描いた作品です。
現在は重要文化財として山種美術館(東京都)にあります。
「炎舞」のすごさは「炎の明るさ」です。
日本画や美術の知識が一切ない人でも、作品を目の前にしたら「火が目の前で燃えている迫力」を感じるのではないでしょうか。
素晴らしい作品は知識や条件をすっ飛ばして感激を与えます。
まさに知識や条件をすっ飛ばして「わーっ」と思わせる作品が「炎舞」です。
とくに暗闇が真っ黒ではなく、茶色とも赤色ともいえない色で表現されているところに「スゴ味」があります。
筆者が今までにみた作品の中で「リアルな明るさ」を感じた作品が2点あります。
一つ目はゴッホの「種まく人」です。
鮮やかな黄色で描かれた太陽が本物の光のように感じ、作品の裏側からライトが当てられているのではないかと思ったほどです。
二つ目が「炎舞」です。
「炎舞」は目の前に火があって熱さえも感じるようでした。
炎の上を飛ぶ蛾からは嫌な印象は受けず、炎とは違い静かに白く輝く体からは妖艶さを感じました。
「日本の美術は難しそうでよくわからない」と思う人に最初にみてほしい作品です。
「年暮る」東山魁夷
「年暮る」は、とても静かな作品です。
大みそかと正月は1日しか違いませんが、大みそかの風景と正月の風景が全く違うようにみえた経験はないでしょうか。
まさに「年暮る」は、大みそかの雰囲気が伝わってくる作品です。
画面には雪が積もった屋根が一面に広がり、人は描かれていません。
ただ家の中から漏れる明かりだけで大みそかの忙しさと人の気配を感じさせ、
深々と降る雪だけで去る年のさみしさを感じさせます。
描かれている要素はとても少ないのですが、作品から感じることはとても多くあります。
筆者が「自分の部屋に飾りたい絵NO1」の作品です。
「年暮る」も「炎舞」と同じ山種美術館にあります。
対照的な作品ですが、どちらもみるだけで「日本の絵ってすごい」と感動する作品です。
「島原九十九島」川瀬巴水
川瀬巴水は、筆で描く絵ではなく新版画の絵師です。
新版画とは、わかりやすく説明すると「江戸時代の浮世絵に近代の芸術センスを加えて明治時代によみがえらせたもの」です。
「島原九十九島」も川瀬巴水による版画作品です。
日本の美術といえば、水彩画や水墨画のように輪郭がぼやけた絵をイメージするのではないでしょうか。
新版画は、版画のため輪郭がはっきりとしています。
川瀬巴水の作品は、構図や色が現代的です。
「島原九十九島」は、島原市沖に浮かぶ島を描いた作品で空に大きく描かれた雲が魅力的です。
「島原九十九島」を初めてみたときアニメ映画「君の名は」を思い出しました。
映画の中では、時間経過とともにさまざまな雲が描かれています。
夕方のピンク色で描かれた雲に川瀬巴水の「島原九十九島」の雲が重なったのです。
「島原九十九島」は、日本の美術に固定概念をもっている人にみてほしい作品です。
吉田博の作品もイラストやアニメに通じる雰囲気があり「えっ、これも日本の美術なの!?」と思う人が多いのではないでしょうか。
「金魚づくし」歌川国芳
「金魚づくし」は、江戸時代に描かれた作品です。
「歌川」といえば広重が有名で「よくみる富士山の浮世絵」を連想します。
しかし歌川国芳の「金魚づくし」は、ユーモアあふれるイラストです。
杖をついた年寄りの金魚や背中におんぶされた赤ちゃんの金魚など擬人化された金魚によってストーリーのある絵が描かれています。
筆者は葛飾北斎の浮世絵が好きです。
正確なデッサン力で描かれたしなやかな動きの人物は躍動感があります。
ただ、浮世絵は日本の美術の王道ですが、描かれているモチーフは富士山か女性か歌舞伎役者が多く、
興味がない人にはどれも似たようにみえるかもしれません。
「金魚づくし」は、浮世絵の中でもわかりやすくユーモアのある作品です。
思わず「これTシャツにしたい! 」と言いたくなるようなかわいい作品です。
2014年に山種美術館で展示会「Kawaii(かわいい)日本美術」があり話題になりました。
「Kawaii(かわいい)」という感覚は時代を超えても共通の感覚です。
「金魚づくし」には時代を超えて感じるKawaiiがあります。
おわりに
美術史を学ぶと美術の楽しさがわかるといわれています。
しかし、楽しさを知るために学ぶことは相当のやる気が必要です。
普通の人は「なんだか楽しそうだからもっと知りたい」と思うのではないでしょうか。
紹介した4つの作品は、みるだけで「なんだか日本の美術って面白そう」「もっと知りたい」と思える作品です。
映画をみにいく感覚で日本の美術に触れてみるといいのではないでしょうか。
文筆:式部順子(しきべ じゅんこ) 武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業 サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。 在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。