現代はとくに「自己肯定感が大切」と言われています。
何が正解で何が間違っているのかがわかりにくくなっている今だからこそ、自分の基準になる芯が必要です。
その芯となるものが自己肯定感ではないでしょうか。
何かに迷ったとき「私はこう考える」と自分の答えを出すために必要な芯が自己肯定感です。
今回は、美術で子どもの自己肯定感が育つ理由と自己肯定感を育てる方法をお話しします。
目次
自己肯定感とは
自己肯定感は、多くの研究者がさまざまな言葉で説明しています。
「自分は生きている価値があると思うこと」という人もいれば「自分を好きであること」という人もいます。
簡単にいえば「自分はこれでいい」という自信ではないでしょうか。
自分自身が自分のことを否定するようになれば、なにをやっても満足できないし、人生すべてが投げやりな気持ちになります。
自己肯定感がある人は、他人と自分とを比べて卑屈になったり、置かれた環境を恨んで投げやりになったりせず、常に自分を大切にして人生を楽しめる人ではないでしょうか。
美術は自分で考えるから自己肯定感が育つ
自己肯定感を育てることは子育てで大切なポイントです。
子育て相談や講演会では「子どもを認めることで自己肯定感は育つ」や「愛された子は自己肯定感がある」と言われることがあります。
しかし、多くは抽象的な方法で具体的にどのような言葉をかけて、どうすればいいのかわからない人も多いようです。
美術は、自己肯定感を育てることに役立ちます。
なぜならば、美術には正解が存在しないからです。
正解は自分で作り出さなければ存在しません。
言い換えれば、自分で考えて作品にできれば、それはすべて正解です。
美術は数学に比べてたくさんの正解があります。
しかし、その正解を出すプロセスは数学よりも工程が多く、さまざまな角度から物事をみる力が必要です。
美術が好きな子どもは、自分なりの正解を出した経験をたくさん持っています。
その経験は、成功体験として蓄積されています。
ゼロから何かを生みだし認められた経験は自己肯定感につながっているのです。
美術は点数化できなから自己肯定感が育つ
自己肯定感を育てるためには、成功体験の積み重ねが大切ともいわれています。
勉強が得意な子どもはテストの高得点が成功体験になります。
受験合格が成功体験になることもあります。
しかし、すべての子どもにとびぬけて得意なことがあるとは限りません。
ほとんどの子どもは、みんなについていくことで精いっぱいです。
美術にもコンクールがあり入賞したり発表したりして成功体験を積むことができます。
しかし、美術が勉強と大きく違う点は「小さな成功体験」「自分だけの成功体験」を積み重ねられることです。
テストの点数は、点数が高い方が優秀です。
友達より点数が低く怒られる生活では自己肯定感は生まれません。
しかし美術は点数化できません。
一つ一つの作品の完成形が満点であり、小さな作品でも大きな作品でも作品を作り上げた達成感は成功体験であり、自己肯定感につながるのです。
美術はすべてが自分の個性として認められるから自己肯定感が育つ
勉強はマルかバツかです。
美術には、三角も四角もなんでもあります。
そして、それらすべてが「個性」として認められるのです。
自己肯定感を育てるためには「自分は認められている」と心から感じられる機会に恵まれていることが大切です。
「おまえはダメだ」「もっと頑張らなくてはいけないよ」と言われる毎日では自己肯定感どころか自信を失ってしまいます。
大切なことは「認めてくれる人」がいることです。
どんなに絵を描かせても、絵をみた親に「これは変」と言われたら自信をなくします。
また、やたらと認めることも問題です。
「うまいね」と適当に受け流すことは子どものやる気を奪ってしまうでしょう。
自己肯定感を育てたいと思うならば、子どもに伝わるオリジナルの言葉で「認めた」という気持ちを伝えることが大切です。
美術で自己肯定感を高めるなら第三者に任せてみる
自己肯定感を意識しすぎると過保護になったり過干渉になったりすることもあります。
自己肯定感を子どもに持ってほしいと願う親はとても子ども思いだからです。
「かわいい子には旅をさせよ」という言葉があります。
子どもを思うのならば、信頼できる第三者に任せてみる方法もあります。
とくに美術は専門的なスキルが必要な分野です。
子どもの作品を親が認め続けることは意外と大変かもしれません。
絵画教室には、プロの先生や子どもたちがいます。
子どもが親の視線から離れて作品を描き、家族とは違う人から褒められる経験は成功体験として蓄積されるのではないでしょうか。
そして、絵画教室には同年代の子どもたちもいます。
ときにはライバルとなって刺激しあうことで自己満足で終わらない成功体験をすることができます。
おわりに
筆者が美大在学中には個性が強い人がたくさんいました。
入学するまでは「変わった人」という扱いを受け、自分に自信がもてない人もいました。
しかし、美大では個性がないほうが変わった人です。
個性が強い人は、みるみる自信をもち自己肯定感を高めていました。
教育の場ではよく「生きる力」という言葉が登場します。
生きる力は、まさに自己肯定感が要になっています。
文筆:式部順子(しきべ じゅんこ) 武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業 サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。 在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。