「絵を教える」とは? 年齢別のポイントと絵画教室の役割

絵画教室は「絵を教える場所」と書きます。
しかし、絵は計算のようにすべての子どもが同じ答えを出すものではありません。
ひとり一人の答えが違うだけでなく、子どもの絵は心の発達とも深い関係があります。

今回は、子どもの心の発達と絵の関係を年齢別に解説し、「絵を教える」絵画教室の役割についてお話しします。

1歳から2歳は画材を使うことに意味がある

2歳までは絵を求める必要はないでしょう。
画材を使うことに意味があります。
厚生労働省の保育所保育指針によれば1歳3か月から2歳未満の子どもは、
歩き始めて手を使い簡単な言葉を話すようになります。
身近な人や物に自発的に働きかけて急速に発達するときです。
そして2歳ごろになると「真似」を盛んに始めます。

1歳から2歳は、さまざまな画材を与えて大人と一緒に「なにか」を描きましょう。
画材はクレヨンだけでなく、フェルトペンや色鉛筆もおすすめです。
先がとがった画材は危ないと思われるかもしれません。
しかし色鉛筆にはクレヨンよりも緻密に描けるメリットがあります。
大人がしっかりと目を配り、安全に配慮できるときには使ってみてもいいのではないでしょうか。

2歳ちかくになると、大人の行動を真似するようになります。
大人が渦巻きを描いたり、線と点を結んだりする様子を見せることで子どもは自ら「描く」を学びます。
避けたいことは「こう描きなさい」と指示することです。
指示するのではなく「お手本」を示し自発的に描かせることが手先と考える力に刺激を与えます。

2歳から3歳は「テーマを与えて描く」ではなく「想像力で描いてからテーマをつける」

2歳を超えると運動機能が発達し思うように画材を使えるようになります。
渦巻きやジグザクの線や丸も描けるようになるでしょう。
しかし「人の顔を描こう」とテーマを先に決めてから絵を描くことは難しい段階です。
例えば、大きな丸の中にいくつか小さな丸を描いてみます。
意図なく描いた丸ですが、描いてみたら人の顔に見えたから「人の顔」というテーマをあとからつけるのです。
あとからテーマをつけるためには、テーマ付けの材料になる知識と創造力が必要です。
丸の中に丸が2つあれば、豚の鼻に見える子もいれば月のクレーターに見える子もいます。

知識が豊富にあり、知識から想像する力が長けている子ほど描く楽しさを感じられるのではないでしょうか。
2歳から3歳は、画材を使い手先の発達を促しつつ、さまざまな体験をして創造力を鍛えたいときです。

3歳から8歳は大人の常識を押しつけずに発見力を育てる

3歳から8歳はどんどん絵を描く時期です。
テーマを決めてから絵を描き進められるようになり、仕上がった絵も何を描いたのかがわかるレベルになります。
しかし、絵の完成度は完ぺきではありません。

多くの子は5歳ごろまで「頭足人」とよばれる丸い頭から胴体がなく、直接足や手が生えている人を描きます。
大人は「顔から足や手が出ていないでしょ」「胴体はどうしたの」と訂正を求めます。
しかし頭足人は「間違った絵」「描いてはいけない絵」ではないのです。
子どもの目にはそう見えているのかもしれません。
そして心の発達とともに「自分の絵と実物は何かが違う」と気がつき、正しく描く工夫をするのです。
大人が頭足人の段階で正しい絵を見せてしまい、正しい描き方を教えてしまったら、
子どもの描く工夫は必要なくなります。

3歳から8歳は個人差が大きく、頭足人を卒業する年齢にも幅があります。
親は他の子と比べて焦ることもありますが、この時期は大人の常識を押しつけずに、
子ども自身の発見力を促し、育てたいときです。

8歳以降は成長に応じたアドバイスで見方を育てる

8歳以降になると絵を描く気持ちで絵を描くようになります。
今までのように「とりあえず描く」という成り行きまかせの描き方ではなく、
記憶や知識を駆使して絵になるように工夫をしながら描き進めることができます。
言葉の理解力も発達しているため、成長に応じたアドバイスをすることで絵のスキルは向上します。

例えば、円柱状のコップの絵を描くときに底面の円の形は視点によって変化します。
視点から遠くなればなるほど円に近づき、近くなればなるほど細くなります。
「コップがうまく描けない」と悩んでいる子に、視点と円の形の変化をアドバイスすることで、
格段に上手くなる可能性があるのです。

しかし上手くアドバイスすることは意外と難しいことです。
「コップがうまく描けない」と言われたときに「よくみてごらん」とアドバイスしても子どもは困惑するだけです。
8歳前後は、大人が子ども一人一人の発達を用心深く観察して、成長に応じた的確なアドバイスをすることでものの見方が育ちます。
ものの見方は、絵を描くうえでとても重要なポイントです。

絵画教室の役割は「心を育てる」

絵画教室は絵を教える場所ですが「リンゴの描き方を教えます」という指導ではありません。
リンゴを描くために必要な見方や考え方を子どもの発達に応じた方法で伝える場所です。
2歳までは画材の持ち方や使い方、8歳まではリンゴを自分で観察し工夫して描き込む力、
8歳以降は必要に応じてものの見方の「ハウツー」を教えることで壁を突破します。
絵には「ハウツー」なしの根性論だけでは突破できない壁があります。
個人差が大きい子どもの発達状況を見抜ける人、そして「ハウツー」指導のできる人が先生です。

絵画教室は、年齢や発達に応じた指導をすることで絵を描き続ける心を育てる場所です。

文筆:式部順子(しきべ じゅんこ)
武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業
サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。
在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。

関連記事