絵本は身近な教科書! 大人が楽しめる「絵がステキな絵本」

絵のお手本は身近なところにあふれています。
お菓子のパッケージや駅でみかけるポスターもプロが描いた絵のお手本です。絵本はもっとも身近な教科書です。
憧れの作家や自分の作風にちかい絵本は立派なお手本になります。

今回は、まったく描き方や表現方法が異なる5冊の絵本を紹介します。
表現方法や描きたいけれど描けないときの参考になるのではないでしょうか。

静かで広大な絵がステキ「よあけ」(福音館書店)ユリ・シュルヴィッツ

「よあけ」は、夜の暗い空が徐々に明るくなっていく様子を描いた絵本です。
タイトル通り、夜が明けていくまでの短い時間ですが、空と水面の変化が静かでありながらも大胆に描かれています。
絵本は音がない世界ですが「静寂」という「音」が聞こえるかのような大人の絵本です。

「よあけ」から学べることは「細かくこった絵だけがステキというわけではない」ということではないでしょうか。
「よあけ」に登場する絵は、構図が大胆で色数も限られています。
しかし「無駄は一切ない」という研ぎ澄まされた構図は、デッサン力や色彩力がなければ描けないでしょう。

パワーあふれる版画がステキ「ちいさなヒッポ」(偕成社)マーシャ・ブラウン

「ちいさなヒッポ」は、かば親子の一日の様子を描いた絵本です。
絵の具で描かれた絵ではなく、木版画で構成されています。
木版画は絵の具で描く絵とは違い、木目のいかし方や彫り方を変えることで表現の幅が増えます。

「ちいさなヒッポ」の中には、植物がたくさん登場します。
水辺の低い草や遠くにある木々、しだれている葉もあります。
植物の種類によって彫る方向や彫り方を細かく変えています。
さらに木版画の魅力は木目です。
大きな木目をそのまま生かすことで水中のぼやけた様子を表現している絵は一枚の絵としてみてもステキです。

画材の使い方がステキ「ちびゴリラのちびちび」(ほるぷ出版)ルース・ボーンスタイン

「ちびゴリラのちびちび」は、小さなゴリラの成長を描いた絵本です。
黒色のゴリラを主役にすると絵の雰囲気は黒色になるはずです。

しかし、絵本のすべての絵には鮮やかな色が使われ、ゴリラの黒色がメリハリとなって絵全体を引き締めています。
とくにステキなところは、画材の使い方です。
凹凸がある紙を使い、紙の目をいかしています。
紙の目をいかすために、絵の具ではなくパステルが使われています。
パステルならではの色の重ね方で、よりやさしい雰囲気があふれています。

パステル画のお手本を探すと、ほとんどが淡い色合いのやさしいタッチです。
「ちびゴリラのちびちび」は、フワフワした表現もあれば、筆圧を強くしてグッと描かれた表現もあります。
パステルのさまざまな使い方を1冊で学べる絵本です。

愛らしい表現がステキ「よるくま」(偕成社)酒井駒子

「よるくま」は酒井駒子が描いた絵本です。
酒井駒子は、東京芸術大学で油絵を専攻した作家で子どもの絵を得意としています。

一般的な絵本の雰囲気とは違い、油絵ならではの「絵画的な雰囲気」が漂う絵がステキです。
中でも子どもの微妙な表情の表現は素晴らしく、大人のファンが多い理由のひとつでしょう。

「よるくま」は、小さな男の子と小さなくまが夜に小さな冒険をする様子が描かれた絵本です。
人間の男の子の表情はもちろんですが、くまの子の表情も人間に負けないくらい愛らしく表現されています。
酒井駒子の絵本は画集のような雰囲気があるものが多いのですが、「よるくま」は身近に感じられる絵本です。

色の使い方がステキ「ゆきのひのうさこちゃん」(福音館書店)ディック・ブルーナ

オランダを代表する画家ディック・ブルーナの絵本です。
けして難しい絵には見えない絵ですが、実はとても高度な技術で描かれています。

ディック・ブルーナは、ブルーナカラーと呼ばれている「赤・青・白・緑・黄色」そして黒の6色で絵を塗り分けています。
「うさこちゃん」だけでなく、背景まで6色で塗り分けるためには、絵の「地と図」の関係を考えることが大切です。

地とは「背景」、図は「うさこちゃん」です。
「ゆきのひのうさこちゃん」は、雪の日の様子を描いています。
そのため、地は白色が多くなります。

絵に白色を使うと「塗り残し」に見えたり、絵が弱くなったりすることがあります。
しかし「ゆきのひのうさこちゃん」は白色が多くても、自然と「白=雪」と思わせる描き方なのです。

これは「地と図」の関係がうまい絵でないとできないことです。
地を背景と思わせず、背景すらも絵になっている「ゆきのひのうさこちゃん」は、デザインのお手本としても役立ちます。

おわりに

紹介した絵本は長年読み継がれてきた絵本ばかりです。
ストーリが素晴らしいだけでなく、人を惹きつける絵が魅力的です。
最近は、誰でも簡単にきれいな絵が描けるソフトが登場しています。
しかし「きれいな絵」が人を惹きつけるわけではありません。
その人にしか描けない絵、独特の雰囲気をもった絵は人を惹きつけるステキな絵です。

文筆:式部順子(しきべ じゅんこ)
武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業
サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。
在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。

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