絵の基本! 挑戦したいデッサンの種類と目的

デッサンは絵の基本といわれています。
デッサンが描けなくても粘土をこねて上手に立体作品を作ったり、デザイン画を描いたりする人もいます。
しかし、デッサン力がなければ、いずれ表現の限界がやってくるのです。
デッサンは、ものの見方や表現するテクニックを養うために必要なことです。

今回は、デッサンを種類別に取り上げて特徴と目的をお話しします。

かきこみが大切「単体デッサン」

単体デッサンは、りんご1個や立方体1個を描くデッサンです。
目的は、ものの形や構造を理解することです。ものの数を1個にしぼることで、陰影の観察や質感の表現を徹底的に養うデッサンです。

例えば、毛糸玉とりんごでは形も質感もまったく違います。
毛糸はふさふさした感じを表現するためにやわらかい鉛筆を使って紙の目をいかした描き方になるでしょう。
りんごは固い鉛筆を使ってツルっとした質感を表現します。
毛糸とリンゴとでは光の反射も違います。
単体デッサンは、ものをじっくりと観察してかきこむ練習に適しています。

空気を描く「卓上デッサン」

卓上デッサンは、自分のテーブルの上にモチーフを置いてデッサンします。
単体デッサンとは違い「台に置かれたもの」そして「複数のモチーフの関係」を考えながら描くことが目的です。
単体デッサンのようにひとつのものをよくかきこむだけでは完成度は低いです。
卓上デッサンは、台に置かれたものであることが伝わるように「ものを使って影をかくデッサン」です。

ところで陰影の「陰」と「影」の違いを知っていますか? りんごを例にすれば、「陰」はりんごの暗くなっている部分です。
つまり、りんごの光が当たっていない部分です。
「影」は、りんごによって光が遮られ暗くなっている台の部分です。
陰はりんごの立体感を描くために必要であり、影は空間を描くために必要になります。

卓上デッサンの目的は影を描くことで、モチーフとモチーフの置かれている空気感を表現します。

陰影の正確さ「石膏デッサン」

陰影の勉強に適したデッサンが石膏デッサンです。
なぜならば、石膏は真っ白なので陰影がわかりやすいからです。
石膏像の鼻を描くときに「これは鼻の陰」「これは鼻の影」と意識するだけでものの見方が変わります。

石膏デッサンは、大小さまざまな陰影の組み合わせです。
鼻よりも頭、頭と首、頭と胴と比べていくことで陰影の大小にも気がつくようになります。
石膏デッサンは、陰影の観察だけでなく石膏像がもつ雰囲気やパーツの位置の正確さが求められるため、デッサンを総合的に学びたいときに適しています。

高度なデッサン「構成デッサン

構成デッサンとは、モチーフを頭の中で構成して描くデッサンです。
美大受験の試験でも頻繁に出題される高度なデッサンです。

例えば「手のデッサン」でも、構成デッサンになると手で何かをつかんでいたり作業していたりする場面を頭の中でイメージして描きます。
手は自分の手をみながら描くことができますが、他のモチーフは頭の中でイメージして描きます。
美大受験の合格者再現作品では、ろうそくに手をかざしている絵も多く描かれていました。
ろうそくの火という蛍光灯や自然光とは違った反射を描く力が必要です。
また、やわらかいものを握りつぶしている手も描かれています。
やわらかいものの質感や陰影すべてを頭の中でイメージするためには、相当の経験が必要です。

構成デッサンの目的は、デッサン力だけでなく構成力やデザイン力も高めることです。

広い視野で大物を描く「静物デッサン」

静物デッサンと卓上デッサンの違いは、モチーフの大きさや置き方です。
自分の机の上にモチーフを置き、じっくりと観察しながら描く卓上デッサンとは違い、静物デッサンは比較的大きなモチーフを台上に組んで複数人で囲うようにして描きます。
組まれたモチーフのサイズは紙よりも大きくなるため、全体を意識して描く力を養うことができます。

静物デッサンの中でもとくに難易度が高いモチーフは植物といわれています。
植物は、石膏像のように決まった形がありません。
多少茎が曲がっても「間違った形」にはみえないでしょう。

しかし植物は細かな葉や茎が組み合わさり無数の小さな空間を作っています。
適当に描いているだけでは遠近感が表現できずゴチャゴチャした絵になります。
静物デッサンの目的は、細かく描くべきところと大きくとらえるべきところを見分けて全体をバランスよく描き進めることです。

デッサンの応用「人物デッサン」

人物デッサンは、すべてのデッサンの集大成です。
静物デッサンの全体をとらえる力、石膏デッサンの陰影を意識する力、単体デッサンの質感表現の力、そして卓上デッサンの空気を描く力と関係を意識する力すべてが必要です。
一見、構成デッサンは関係ないようにみえますが、服を着ている人物を描くためには服の下にある筋肉や骨格をイメージする力が必要になります。

人物デッサンの目的は、デッサンを描くためには表面的な情報だけでなく、筋肉や骨格など「目に見えない構造の理解」が必要であることを知るためです。

おわりに

「デッサンが上達するためにはものをみる目を養え」と言われます。
みる目とは「ここが暗い」「ここは一番明るい」とみることではありません。
「ここは頭と腕の影が重なっているから一番暗い」と意味が分かってみられるようになることです。

デッサンは短期間で上達するものではありませんが、奥が深く描けば描くほどのめり込む魅力があります。

文筆:式部順子(しきべ じゅんこ)
武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業
サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。
在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。

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