大人も絵に興味がわく「おすすめ絵画4選」とエピソード

絵画というと難しいイメージがあるかもしれません。
しかし、絵画の描かれた背景やエピソードを知ると身近に感じることができます。
今回は「私、絵はわからなくて」と言いがちな大人でも絵に興味がわくきっかけとなる作品4点を紹介します。

描いた動機がかっこいい「アスパラガス」マネ

「アスパラガス」は、テーブルの上に1本だけアスパラガスが置かれた作品です。
ただ「置かれている」というよりは、「落ちてしまった」と表現したほうがしっくりくるかもしれません。

この作品には、関連するユニークなエピソードがあります。画家のマネは、まず「一束のアスパラガス」という作品を描きました。束ねられたアスパラガスを描いたこの絵を、彼は800フランで売ります。しかし、買い手が非常に気に入って1,000フランを支払ったため、マネは200フランの差額に気づきました。

そこでマネは「お礼」として、1本のアスパラガスだけを描いたこの作品を買い手に贈ります。そしてその絵には「アスパラガスの束から1本抜け落ちていました」という粋なメッセージが添えられていたそうです。

多く受け取ったお金を単に喜ぶのではなく、ユーモアを交えたお返しをするマネの姿には、余裕と気品を感じます。ちなみに、200フランは現在の価値で約28,000円。「1本28,000円のアスパラガス」を、高いと感じるか安いと感じるかは、見る人次第かもしれませんね。

「これゴッホ? 」と言いたくなる「花咲くアーモンドの枝」ゴッホ

ゴッホといえば、黄色が印象的な作品や、少し風変わりな画家というイメージを持つ人も多いかもしれません。
実際、「ひまわり」や「黄色い家」など、彼の代表作には黄色が多く使われています。また、自ら耳を切ったという有名なエピソードも、彼を「一風変わった人」と思わせる要因の一つでしょう。

しかし筆者は、ゴッホを「強い感受性ゆえに苦しみ、もがきながらも懸命に生きた画家」だと感じています。
そのことを象徴する作品の一つが「花咲くアーモンドの枝」です。

この作品では、ゴッホの特徴的な黄色は感じられません。静かな青い背景と白い花が、爽やかで穏やかな印象を与えます。初めてこの絵を見る人の中には、「これがゴッホの作品なの?」と驚く人もいるでしょう。

「花咲くアーモンドの枝」は、ゴッホの弟テオに子どもが生まれた際に描かれた作品です。
テオはゴッホの理解者であり、どんなときも彼を支え続けた大切な存在でした。
甥っ子の誕生を心から喜び、ゴッホはこの絵を贈ったのではないでしょうか。
テオはこの絵をリビングに飾り、大切にしていたそうです。

ゴッホの作品には、「情熱と孤独」「努力と新たな始まり」といった、陰と陽のキーワードが共存しているように感じます。しかし、「花咲くアーモンドの枝」からは、それらを超えた「幸せ」という純粋な感情が伝わってくる気がしてなりません。筆者だけでしょうか、この作品にそんな特別な温かさを感じるのは。

子への愛が伝わってくる「麗子像」岸田劉生(きしだりゅうせい)

「麗子像」は、「美術の教科書に載っていた」や「ちょっとこわい」と言われることが多い作品です。
見方によっては、たしかに「こわい」と思うかもしれません。
しかし「麗子像」の背景を知れば「こわい」という感想は吹き飛ぶでしょう。

麗子とは、岸田劉生の子どもの名前です。
岸田劉生が、自分の子どもを愛する気持ちを込めて描いた作品が「麗子像」なのです。
「麗子像」は、麗子の成長にあわせて進化します。
「麗子像」の魅力は、大人にならないとわからないのかもしれません。

麗子の手には、岸田劉生の思いをあらわすアイテムがのっています。
幼いときにはおもちゃを持たせ、大きくなると青いミカンを持たせています。
「岸田劉生は、なぜ熟したミカンではなく青いミカンを麗子に持たせたのか」という問題がありました。
正解のない問題でしたが、まだ子への愛を十分に理解できない年齢の子には難しい問題だったのではないでしょうか。

絵画には年を重ねたから理解できる作品、苦労をしてきたから感動できる作品があります。
「麗子像」は、まさに大人になると興味がもてる作品かもしれません。

こういう描き方もあるのか「山型食パン」今井麗(いまいうらら)

今井麗は1982年生まれ多摩美術大学卒業の油絵画家です。
ルノワールやゴッホのようなタッチとは違い、ポスターカラーで描いたイラストのようなタッチで油絵を描きます。大人が絵を描くとき「油絵はこうあるもの」「イラストはこう描くもの」という先入観を持ちがちです。
しかし、絵の描き方には決まりがありません。
今井麗の作品をみれば「こういう描き方でもいいのか」と思うのではないでしょうか。

中でも2019年に描かれた「山型食パン」は「おうちに飾りたい」と身近に感じる作品です。
パン屋でみかけるビニル袋に入った1斤の山型食パンのみです。
色数は少なく、ステンレス台に乗せられた作品からは冷たさを感じるはずなのに、なぜかパンの香りや生活感があります。

おわりに

大人は「絵に描くなら美しい風景」「油絵ならルノワールみたいなタッチ」と自らハードルを上げて絵を遠ざけてしまいます。しかし有名な作品の陰には、意外と庶民的で人間味あふれるエピソードがあります。
そして絵や芸術には正解がありません。「大人だから」とあきらめるのではなく「大人だからできる表現」に挑戦してみてはいかがでしょうか。

文筆:式部順子(しきべ じゅんこ)
武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業
サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。
在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。

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