「一流大学から一流企業に就職できれば人生は安泰」と思っている人はほとんどいないでしょう。
目まぐるしく変化する現代では、自分の頭で考えて行動できる人が充実した人生を送ることができるのではないでしょうか。現代社会において、自己の判断で考え行動できる力が充実した人生を切り開く鍵となっています。そこで注目されているのが、アントレプレナー教育(起業家教育)です。今回は、アントレプレナー教育とアートセンスの共通点を探り、アートセンスが果たす重要な役割についてお話しします。

目次
アントレプレナー教育(起業家教育)とは
アントレプレナー教育は単に起業家を育成するための教育ではありません。その本質は、環境や経済的制約を言い訳にせず、自ら課題を発見し、解決し、新たな価値を創造できる精神を育むことにあります。従来の「与えられた課題に正解を出す」学習とは異なり、課題そのものを発見し、それに対する独自の解決策を見出す能力が求められます。
学校教育でもアントレプレナー教育は始まっています。
例えば、地元商店街の活性化をテーマにして、課題解決に向けてアイデアを出し合います。
学校内だけで完結させるのではなく、企業と連携しながらプレゼンテーションを行うプログラムなどがその一例です。
アートセンスとは
アートセンスとは単に絵が上手いことやファッションセンスが優れていることを指すのではありません。本質的には、物事を独自の視点で解釈し、感動や価値を見出す能力を意味します。
例えば、有名な絵画を見た際に「知っている作品だ」と認識するだけではなく、「この微笑みには悲しみが宿っている」と独自に解釈することがアートセンスです。正解のない世界で自分なりの視点を持ち、多様な解釈を許容できる力こそ、アートセンスの真髄と言えます。
アートセンスがなければ、モナリザをみても「これ知っている」と思うだけです。
しかしアートセンスがあれば、モナリザの知名度は関係なく「このほほえみの中に悲しみを感じる」と思うかもしれません。アートセンスに正解はないため、100人いれば100通りの解釈があってもいいのです。
また、ビジネスの成功者にはアートに関心を持つ人が多いことが知られています。ビジネスとは、未来の不確実性の中で課題を見つけ、独自の解決策を提示し、実行することの連続です。その過程は、アートの創作プロセスと共通点が多いのです。近年、ビジネスパーソンがアートを学び直す動きが加速しているのも、この関連性が認識されてきた証拠と言えるでしょう。
最近は、ビジネスマンとして働きながらアートを学びなおす人が増えています。
アートセンスを磨くことでビジネスにもいい影響が出ることを期待しているのです。
アントレプレナー教育とアートセンスの共通点
アントレプレナー教育とアートセンスは、まったく違うものに感じるかもしれませんが、実は大切な部分で共通点があります。
ここからは、アントレプレナー教育とアートセンスの共通点をお話しします。
<ゼロから立ち上げる>
アントレプレナー教育は、課題をみつけることから始まります。
課題をみつけるためには、今自分が生きている環境を俯瞰し、そこから感じる社会やサービスへの解釈、思い描く未来像、そして理想から逆算したときに「何が問題なのか」と観察する力と発想力が必要です。
芸術の世界でも、何もない状態(ゼロ)から独自の解釈や感性を用いて新たな作品を生み出します。観察力や発想力が求められる点で、両者には強い共通点があります。
なにもない状態「ゼロ」からなにかを生み出し立ち上げる点は、アントレプレナー教育とアートセンスの共通点です。
<自己満足ではなく相手に伝える必要がある>
アントレプレナー教育は、課題をみつけたら関係者や仲間と相談しながら解決策を決定します。
コミュニケーション能力が非常に大切です。アートセンスも同じです。
どんなに感性が鋭くても感じたことを誰かに伝えられなければ自己満足で終わってしまいます。
<権力や地位に頼らない>
アントレプレナー教育は、組織や制度に頼るのではなく、個人がリーダーシップを発揮し、新たな価値を創造する力を育みます。アートセンスもまた、権威や他者の意見に左右されず、自分自身の感覚や解釈を信じることが求められます。自らの視点を持ち、主体的に行動できる点で、両者は共通しています。

アートセンスを養うことは「生きる力」を養うこと
アートセンスが身についている人は、単に芸術作品を鑑賞する際だけでなく、日常生活や仕事においても独自の視点を持ち、自ら考えて行動する力を発揮します。
未来が不確実な時代においては、課題発見力と解決力がますます重要になります。大多数の意見に流されるのではなく、「自分はこう感じる」と主体的に発信できる能力が、強い生き方を支えるのです。
アントレプレナー教育は「これからの日本のために」という目的で導入され、文部科学省も力を入れています。
アートセンスの目的は、言ってみれば「これからの時代を生きる自分のために」でしょうか。
教えられたり指示されたりすることを待つのではなく、自ら感じて発信する力であるアートセンスはこれからの時代を生きる力になります。
おわりに
アートセンスは、日々の生活や制作活動で鍛えることができます。
何かをみたときに「自分はどう思うのか」と考えることを習慣にするだけでもいいのではないでしょうか。
絵画教室はアントレプレナー教育の始まりに似ています。
絵画教室では、ゼロから作品を作り、先生や仲間にコンセプトを発表します。
よりよい作品にするためにはどうしたらいいのかを考えて解決する工程は課題解決力を養うことになります。
子どものころから制作に取り組み、楽しみながらアントレプレナー教育を感じてみてはいかがでしょうか。
文筆:式部順子(しきべ じゅんこ) 武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業 サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。 在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。