絵が大人のストレス解消に与えるポジティブな影響

大人になると、仕事や家庭、社会の中での人間関係など、ストレスを完全に避けることは難しくなります。しかし、ストレスをゼロにすることを目指すのではなく、上手に解消し、折り合いをつけることが大切です。

今回は、絵が大人のストレス解消に役立つ理由をお話しします。

小さな達成感を積み重ね、日々を充実させる

毎日同じことの繰り返しになると充実感や達成感が減ってしまいます。
大人は、子どものころのように何かができるたびに褒められたり認められたりする機会は激減し「できて当たり前」という日々になりがちです。

毎日が充実していると、多少のストレスが気にならなくなります。
充実した日々にするためには「今日もやった」「できた」という満たされた気持ちになれることをやってみるといいのではないでしょうか。

絵は、描き上げると達成感があります。
小さな絵でもひとつの作品として仕上がると「描きあげた」と満たされた気持ちになるのです。
お昼に食べたお弁当をスケッチすることを1か月続ければ30枚の絵が貯まります。
最近は、すぐにスマホで写真を撮りますが、スマホをメモ帳とペンに置き換えるだけで小さな達成感を積み上げることができるでしょう。

雑念を追い払う「心の瞑想」としての絵

絵を描く時間は、集中することで余計な考えを排除できる「心の瞑想」のような役割を果たします。ストレスの多くは、過去の出来事を思い返したり、未来を不安に思ったりする「頭の中の雑念」から生まれます。

たとえば、「あのとき、こう言えばよかった」「なぜあのとき言えなかったのか」といった後悔や反芻思考は、ストレスをさらに増幅させます。しかし、絵を描いているときにはモチーフや色使いに集中するため、そうした雑念が入り込む余地が少なくなるのです。絵を描くことで、自然と小さな悩みから解放される時間を作り出せます。

ストレスを「創作のエネルギー」に変える

絵は、感情を表現する強力なツールでもあります。過去の偉大な芸術家たちの多くも、ストレスや困難を創作の原動力として活用してきました。

例えば、ゴッホはゴーギャンと一緒に暮らす部屋を飾るために「ひまわり」を描きました。
弟のテオに子どもが生まれたときに「アーモンドの花咲く枝」を描きました。
うれしい出来事は、絵を描くきっかけになります。

しかし一方で、大きなストレスや悲しみが絵を描くきっかけになることも多いのです。
ミレーの「落穂ひろい」は貧しい農民のつらい生活がきっかけになっています。
草間彌生は自身の病がきっかけで絵を描いています。

貧困や病は大きなストレスであり、マイナスに働くことが多いです。
しかし、大きなストレスにつぶされるのではなく、絵を描くきっかけにしたり、原動力にしたりすることでプラスに変えることもできます。

つらいストレスを感じても「私には絵がある」と前向きになれる

会社や学校で嫌なことがあったとき、自分の居場所が会社や学校と家だけでは煮詰まってしまいます。まっ
たく人間関係も雰囲気も違う居場所がもうひとつあるだけで、ストレスの感じ方は大きく変わるのではないでしょうか。

筆者が会社員だったとき、会社の近くでバレエを習っていました。
会社でストレスを感じても、バレエ教室に行けば会社での出来事が嘘のように「ずっと前のこと」のように感じていました。
会社帰りに「全く違う場所に通う」というだけでもワクワクしたものです。

ストレスを感じても「私にはこっちの道もある」「ここがすべてではない」と思えるだけで心は楽になります。

ストレス発散で絵を始めるポイント

「趣味を仕事にすると嫌いになる」と聞いたことがあります。
それは、楽しんでやっていたことが「やらなければならないこと」になったからではないでしょうか。

ストレス発散で絵を始めるならば「自分のペース」が大切です。
デッサンが嫌いなのに「上達するためにやらなければならない」と思えば、それだけでストレスになります。
デッサンが嫌いならばイラストから始めればいいし、片づけが嫌いならタブレットで絵を描くこともできます。

「大人の塗り絵」がヒットした理由は、スキルに関係なく始められるからではないでしょうか。
ストレス発散で絵を始めるならば塗り絵でもいいし、写し絵でもかまいません。
ストレスにならないものから始めましょう。

そして、絵を描くことがストレス発散から趣味に変わったら本格的に学んでみることをおすすめします。
絵を本格的に学びスキルがあがれば自信につながります。
自信がある人はストレスに強い気がします。

おわりに

絵を描くことでストレス発散できる人もいれば、絵を描くことでストレスがたまるという人もいます。
絵を描くことでストレスがたまる人は、仕上がりに一定のレベルを求めています。

プロであっても描いた絵すべてに満足できることはありません。
何枚も描いた中でときどき「これは気に入った」と思う絵が描ける程度です。

絵を描くときには、気負わずに気楽描いてみることが絵を楽しむコツかもしれません。
また、日々の生活の中でも気負わずに自分らしく生きていくことがストレスと上手につきあうコツなのではないでしょうか。

文筆:式部順子(しきべ じゅんこ)
武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業
サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。
在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。

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