絵は自己表現のひとつ! 大人になってからも自己表現が大切な理由

自己表現とは、「自分の内側にある感情や思考を、形や行動で外に出すこと」です。たとえば、絵を描くことはその代表的な方法の一つです。しかし、自己表現と芸術は必ずしも同じものではありません。

「芸術は自己表現ではない」と言われることもあります。確かに、自己表現が一方的な自己満足にとどまる場合、それは他者に感動や共感を生むものではないかもしれません。しかし、絵を描く目的や意味は人それぞれです。

誰かに感動を与えたいと願い作品を作る人もいれば、純粋に自分の感情や考えを形にしたいと思う人もいます。自分の内面を表現する過程で、結果的に他者の共感を得たり、感動を与えたりする作品となれば、それは「芸術」と呼ばれることでしょう。

今回は、大人になってからも自己表現がなぜ重要なのか、そして絵を通じてその意義を再確認する方法についてお話しします。

自己表現は大人になるほど必要な力

「好きだから絵を描く」という行為は、単なる趣味にとどまらず、自分と向き合う大切な時間でもあります。特に、大人になってからは、自己表現を意識的に取り入れることが必要になってきます。

(1) 自分を見失わないための手段

子どものころは、自分の感情を素直に外に出すことが自然にできました。喜怒哀楽をありのままに表現し、周囲の人々もそれを受け止めてくれる環境がありました。しかし、大人になると社会の中で空気を読み、状況に応じた振る舞いを求められることが増えます。

  • 職場では、組織のルールや雰囲気に従うことが求められ、個性を抑える方が仕事がスムーズに進むこともあります。
  • 子育て中には、親としての役割を優先し、ママ友や学校のコミュニティに溶け込む努力が必要になることもあります。

こうした日常の中で、自分自身を押し殺してしまう機会が増えると、「自分らしさ」を見失うことにつながりかねません。絵を描いたり、自己表現の時間を設けることは、そんな状況の中でも「自分」を取り戻すための重要な手段となります。

(2) ストレス解消と心の健康

絵を描くことは、ただの趣味以上に、心の健康を保つ方法としても注目されています。自己表現をすることで、自分の内面に溜まった感情を解放することができ、ストレスを軽減する効果が期待できます。

たとえば、絵を描く時間は、自分のペースで心を落ち着け、無心で集中することができる貴重なひとときです。この時間があることで、日々の忙しさやストレスをリセットし、新しいエネルギーを得ることができます。

大人になってからも自己表現が大切な理由

大人になると個の「自分」よりも組織や社会に溶け込むことを優先します。
そうする方が生きやすくなると考えるからです。

しかし、本当に生きやすくするためには溶け込むことよりも自分をしっかりともち、自己表現をする方が大切なのかもしれません。

ここからは、より生きやすくするために自己表現が大切な理由をお話しします。

<人間関係の軸が広げられるから>

自己表現は、自分の内面を外に出すことを意味します。それは、単に絵や言葉にとどまらず、日常のさまざまな場面での行動にも現れます。たとえば、会話の内容やファッションの選び方にも、自分の価値観や考え方が表れるでしょう。

自己表現を積極的に行うことで、周囲の人々に自分の個性を知ってもらうきっかけを作れます。

本当に合う人とのつながりが生まれる
自分の考えや感性を表に出すことで、それに共感してくれる人と深い関係を築ける可能性が高まります。一方で、自分に合わない人が離れることもありますが、それはむしろ健全な人間関係を保つ上で重要なことです。

個性を知ってもらうことで生まれる絆
自己表現が苦手だと、無難な会話や服装を選びがちです。それは嫌われるリスクを減らしますが、逆に「この人ともっと話したい」「一緒にいたい」と思われる可能性も低くなるかもしれません。

自分の価値を実感できる
自己表現をすることで、自分自身の価値を再確認することができます。たとえば、絵を描いてその作品に「自分らしさ」を感じられたとき、それは大きな達成感となり、自信につながります。

また、その表現が他者に共感を生み出したり、ポジティブな反応を得たりすれば、「自分の存在や感性が他者にとって意味がある」と感じることができるでしょう。

絵は、言葉では表現しきれない感情や思考を形にすることができるため、自己表現の強力な手段となります。

<自分の気持ちや心が整えられるから>

絵を描くことで自己表現するメリットは「人の目」を気にしなくていいことです。
しばしば日記を描くことでストレス発散する人がいますが、絵も同じことです。

文字で表現することが得意な人は日記を書き、絵で表現することが好きな人は絵に自分をアウトプットすることができます。
大切なことは内に秘めたことを目に見える形にして外に出すことです。
「描く」もしくは「書く」という工程で少しずつ自分の気持ちや心を整えることができます。

現代美術家の草間彌生氏は、水玉模様で埋め尽くした作品を描きます。
草間氏の目にはすべてのものが水玉でおおわれているようにみえるため、その恐怖から自分を守るためにあえて水玉を自己表現の手段に使っていると言われています。
草間氏は絵を描く理由について「絵を描いている間は恐怖を感じることがないから」とインタビューで答えていました。

自分の気持ちと心を整えるために描いた絵が多くの人たちの心に感動を与え「芸術」となったのです。

<自分の生き方に自信がもてるから>

草間彌生氏のように自己表現が広く認められ「芸術」になればいいのですが、ほとんどの人の自己表現は自己表現にとどまります。

それでも絵を描いて自己表現すれば、目に見える形になります。
草間氏も自己表現が簡単に芸術になったわけではありません。作品が否定された時代もありました。

それでもあきらめず表現を続けられた理由は「自分の生き方に自信をもっていたから」ではないでしょうか。
はじめは恐怖から逃れるために描いていた絵でしたが、描き続けたことによって評価よりも自分の生き方や方向性に自信を持てるようになったのです。

「自己表現は芸術ではない」という声もあります。

しかし、絵を描き続け自己表現を積み重ねることで自信をもてるようになり、評価や呼称を気にすることなく自己表現できるようになります。
そして結果的に自分の生き方に自信をもてるのです。

おわりに

大人になったら自己表現よりも、むしろ自己を隠して社会に溶け込んだ方がいいと思うかもしれません。
しかし自己を消滅させてしまったらやる気も人生の楽しさもなくなってしまいます。

絵を描くことは、文字を描くことと同じくらい簡単です。
難しいと感じるのは「人の目」や「人の評価」を気にしているからです。
絵を描くことが自己満足であったとしても描く価値は十分にあります。

文筆:式部順子(しきべ じゅんこ)
武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業
サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。
在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。

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