「絵心がない」と思う大人が試すべき3つの方法

「絵を描いて説明してほしい」と頼まれても、「私、絵心がないから」と尻込みしてしまう──そんな経験はありませんか?
大人になると、絵を描くことへのハードルがぐっと高くなるものです。しかし、絵は楽しむもの。上手に描くことだけが目的ではありません。

今回は、「絵心がない」と思い込んでいる大人のために、絵を描く楽しさを取り戻すための3つのアプローチをご紹介します。

絵心と画力の違いを理解する

「絵心がない」という言葉を使うとき、多くの人は「自分の絵が下手」だという意味で使っています。
しかし、「絵心」と「画力」は異なるものです。

  • 画力:絵を上手に描くための技術やスキル
  • 絵心:絵を見て感動したり、楽しんだりする心

絵心がある人とは、絵や美術に興味を持ち、それを楽しめる人のことです。「絵は苦手だけど描いてみたい」と思うなら、その時点で絵心を持っているのです。

画力はトレーニングで向上します。底孤になりがちなラインや形の見方を習得するだけで、ハードルは低くなり、自分の絵を見る目が変わることもあります。それにより、持ち前の絵心と相まって、絵を描くことや美術との距離がぐっと近ずくです。

絵心を込めて画力を向上させると、自分の絵を見る観点が変わり、他人の絵に対する観方も広がります。ファーストステップとして、スケッチブックなどでライン描写をすることを始めてみましょう。

「知識偏重」の鑑賞をやめる

絵心は知識ではありません。
有名な作品「モナ・リザ」は、さまざまな見方がある作品です。
「右と左が違う」「空気遠近法」「モデルは誰だ」「未完成」など、モナ・リザの豆知識をたくさん持っていれば絵心があるというわけではありません。

大人になると「進歩したいなら勉強」と考えがちです。
しかし、絵や芸術については「勉強」の仕方が違います。
絵や芸術は、知識を勉強しすぎると作品を知識でみるようになってしまいます。
ルーブル美術館でモナ・リザの本物を目の前にしても「これは空気遠近法で描かれている」「レオナルドの作品だ」と知っている知識で鑑賞してしまうのです。

しかし絵や作品をみるときに一番大切なことは感動です。
「後ろの景色が遠くに感じる」「絵の中の空気を感じる」「手がふっくらしている」と感じることこそが絵心です。筆者は、モナ・リザの手のふっくらした感じに感動しました。
しかし、その後「左手は未完成の可能性」という知識を得てしまったため、右手の「ふっくらさ」の感動よりも左手の未完成さに目が行くようになってしまいました。
知識が純粋な見方の壁になることもあるのです。

絵心をみにつけるために知識の勉強をしているならば、やりすぎは禁物です。
それよりも美術館を訪れて本物の作品を直接みる機会をつくったほうがいいでしょう。
自分の素直な感想に耳を傾けることが絵心を育てることです。

消しゴムを使わず最後まで描いてみる

絵心ではなく「画力がない」と思っている人は、絵に興味があり、絵が好きだからこそ自分の絵に自信が持てないのかもしれません。
上手に絵が描けるようになれば、自分の絵に自信を持つことができるでしょう。

絵が上手になりたい大人に多い失敗が「消しすぎ」です。
デッサンをするとき、真っ白い紙に線を描くたびに「間違えた」と消しゴムを頻繁に使ってはいないでしょうか。
消しゴムの使い過ぎで、紙の目がつぶれてしまい、ぼやけた作品になった人をたくさん見てきました。

たくさんの絵を並べてみたとき、鉛筆の色が薄い作品や線が少ない作品は弱くみえてしまいます。
多少、形がゆがんでいても手をたくさん動かして鉛筆で真っ黒になった作品からは力強さを感じるのです。
大人は完成度が高い絵を知っているだけに自分の描いた線が「間違い」と感じてしまうのでしょう。

美大受験予備校で初めてデッサンを描くときには鉛筆ではなく木炭を使いました。
木炭の方が黒色を一気に紙の上にのせられるからです。
初めてのデッサンは、みんな気持ちだけが前のめりになり、真っ黒い作品になります。

そして、徐々にモチーフの見方や光を考えられるようになると、黒色をのせるだけでなく、食パン(木炭デッサンでは食パンを消しゴムとして使います)や練り消しゴムで色を抜きながら描けるようになります。
線を描くたびに「間違えた」と消してしまっては、いつまでたっても「色を抜いて描く」ということができません。

「絵心がない」「画力がない」と思っている大人に一番必要なことは成功体験です。
一枚の作品を描き上げた達成感を積み重ねることで自信が持てます。
そのためには「消さずに線を重ねてみること」がポイントです。

おわりに

「私、絵心がないから」という言葉には、絵を描くことから遠ざかっている雰囲気があります。大人になると、いい意味でも悪い意味でも「わきまえる」ということを知っています。しかし「絵を描くこと」は、相手や周囲の人に気を使ってわきまえる必要はありません。「絵心がないから」というのではなく「私、絵が苦手だけど」と言いながら鉛筆を持ってみてはいかがでしょうか。「絵を描きたい」と思う気持ちがあれば「絵心がある人」です。

文筆:式部順子(しきべ じゅんこ)
武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業
サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。
在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。

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