「絵で食べていく」という夢を叶えるためには、どうしたらいいのでしょうか。
「上手い絵が描けるようになる」や「大きな賞を受賞する」などが思い浮かぶのではないでしょうか。
しかし実際は「絵のスキル」とは離れた努力や心構えも必要です。
今回は、中高生には厳しいけれど、絵で食べていくためには必要なことであり、
夢を実現するためのポイントにもなることをお話しします。
目次
絵で食べられるようになるまで続ける「根性」
絵で食べていくということは、絵で生計をたてるということです。
「たまたまコンクールに出したら賞金をもらえた」ではなく、プロとして周囲に認められて「お金を出してでも作品が欲しい」と思ってくれる人が複数いなければ生計をたてるほどの収入にはなりません。
絵で生計をたてられるようになるまでには時間がかかります。
少なくても数年間は絵だけで食べていくことは難しいかもしれません。
中には、その数年間で夢をあきらめ、生計をたてられる仕事に切り替える人もいます。
「絵で食べていく」という夢を叶えるために一番必要なことは「夢を叶えるまであきらめない」ということです。
とても基本的なことですが、これが一番難しいことであり、一番大切なことなのです。
求められる絵や必要とされる絵をみつける「先見性」
絵で食べていくためには、絵を売らなければなりません。
つまり買い手をみつける必要があるのです。
絵に限らず、モノを買うときには「欲しいモノ」を探します。
どんなに素晴らしい作品を描き上げても「欲しい」と思う人がいなければ売れません。
売れる絵は時代や場所によっても違います。
例えば、バブルの時代ならば重厚な額縁に入った絵が今では考えられないほどの高額な値段で取引されていました。
「銀座の画廊で、10万円で買った絵を3件隣の画廊まで運んだら20万円で売れた」なんていう話もあったほどです。
しかし時代は変わりました。今はNFT(Non-Fungible Token)アートの出現からもわかるようにデジタルアートの需要が高くなっています。
「売れる絵」を描きたいのならば、今求められている絵や必要とされている「需要が高い絵」をみつける必要があります。
そして「需要がある絵」は、需要が高くなってから描き始めるのでは遅いのです。
需要が高くなったときには、すでにライバルがたくさんいます。
ポイントは「需要が高くなりそうな絵」をいち早く見つける「先見性」です。
描きたい絵ではなく求められる絵を描く「柔軟性」
自分の作品にこだわりがあることはいいことです。
しかし強すぎるこだわりは、絵を売ることの足かせになるかもしれません。
収入に一切こだわりがなかった葛飾北斎のような芸術家になるならば自分のこだわりを優先させることもできます。
しかし「絵で食べていく」ということは「稼ぐこと」と「こだわり」の妥協点をみつけることでもあるのではないでしょうか。
描きたい絵が求められている絵とは限りません。
描きたい絵は自分の夢であり、求められている絵は現実です。
「現実の中でいかに自分の描きたい絵を描けるか」がプロであり、プロに求められる「柔軟性」なのではないでしょうか。
絵をお金にするための方法や人脈をつかむ「社交性」
絵を売るまでには、たくさんの人がかかわっています。
例えば、絵本作家になるためには出版社や書店がかかわっています。
どんなに素晴らしい絵を描いたとしても、その作品に目をつけて市場に出してくれる人や手段と出会わなければ売ることはできないのです。
筆者が美大生だったとき、同級生に上手い絵を描く人がいました。
しかし彼女は作品を人に見せたからず、積極的に売り出す方法をつかもうとしない人でした。
現在は結婚し子育てに専念しています。
一方、絵のスキルはとくにすぐれ優れてはいませんでしたが、とても社交的で目上の人とも上手に会話ができる人もいました。在学中から先輩を通じて多方面に人脈を広げ、卒業後は専門外でありながらもCMの制作やプロデューサーとして活躍しています。
「美大や専門学校に行かなくても絵が描ければ絵で食べていかれる」と思っている中高生は多いのかもしれません。
しかし、美大や専門学校にはその道で成功している先輩がいます。
そして現役で活躍している先生もいます。
つまり、絵のスキルを磨きつつ、絵をお金にするための方法や人脈があふれている場所なのです。
そして、それらの縁をつかむために必要なことが社交性です。
「私は絵本作家になりたいと思っています」とストレートに夢を伝えてもいいし「どうやったら絵で食べていかれますか」と疑問を投げかけてもいいのです。
「自分らしい積極性で夢を語ること」が絵で食べていくために必要な社交性です。
おわりに
夢は夢見ているだけでは叶いません。
絵は個の市場に見えますが、実は人と人とのつながりが大きい市場です。
「これから求められるものは?」と世界に目を向けて、「置かれた世界で自分にできることは?」と考えて、
「自分の絵を売り出してくれる人は?」と積極的に人とかかわって、そして夢を叶えるまであきらめないことが絵で食べていくために必要なことだと筆者は考えています。
中高生には厳しい現実のように聞こえるかもしれません。
しかし、見栄やしがらみが少なく、パワーあふれる中高生だからこそできることでもあるのではないでしょうか。
文筆:式部順子(しきべ じゅんこ) 武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業 サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。 在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。