自分の絵心に自信がもてる! 「美術って奥が深い」と感じる絵画作品3選と共通点

「私は絵のセンスがない」「私には絵心がない」と思っている人は、
自分の中に「固定されたうまい絵」のイメージがあるのではないでしょうか。
美術は奥が深いです。
美術の長い歴史の中には「これはどこがすごいの? 」と思うような作品もたくさんあります。

今回は「こんな作品もアリなのか」と自分に自信がもてる絵画作品を3点紹介します。

「ホワイト・センター」マーク・ロスコ

現代美術は、理解が難しい作品がたくさんあります。
筆者は美大を卒業しているため、よく「絵のすばらしさ」について質問されます。
しかし、現代美術はゴッホやルノワールの作品とは違い「なにが描かれているのだろう」と悩んでしまう作品が多く答えに困ります。

中でもロスコの作品は難しいです。
ロスコの作品は、キャンバス全体をいくつかの四角に区切り、色を塗り分けています。
静物が描かれているわけでもなく、ただ色が分けられているように見えるのです。
「これなら私も描ける」と思う人も多いのではないでしょうか。

2007年に約87億円で落札され作品「ホワイト・センター」は名前の通り、真ん中に白い区切りがある作品です。
これも「私にも描ける」と言いたくなる作品ですが、ロスコの作品には表に見えている以上に深い意味があります。
人間の感情や呼吸を表現しているのです。
たしかにロスコの作品の前に立って対面してみると吸い込まれるような感覚、うったえかけてくる言葉が聞こえるような気持になります。
ただ、それが「これだ」とはっきりと言い表せないのです。

ロスコの作品は「細かく描いてある作品だけが素晴らしいのではない」と思わせてくれるでしょう。

「水浴する人」アンリ・マティス

マティスが好きな人に作品の魅力を聞くと多くの人は「青色が素晴らしい」と言います。
しかし筆者は色よりも人間の描き方に魅力を感じます。

「水浴する人」は、1909年に描かれた作品で、水の中を歩く裸の人間の後ろ姿を描いています。
立体感はなく、平面的に描かれています。
やはり「水浴する人」も「私にも描ける」と言いたくなるくらいシンプルな作品ですが、画家であり彫刻家でもあったマティスだから描けた「線」があるのです。
描かれているモデルは男なのか女なのかもわかりません。
それでも人間の重量感や水の抵抗を「線」から感じます。

マティスの作品は「表現するときにひとつでも強みがあれば自信がもてる」と思わせてくれるでしょう。

「愛はごみ箱の中に」バンクシー

「愛はごみ箱の中に」の元の題名は「風船と少女」でした。
「風船と少女」の段階では、解釈が難しく、みる人によって解釈は違ったようです。

しかし、2018年のオークションで事件は起こりました。
落札された途端に額縁に仕掛けられたシュレッダーが作動し、作品をズタズタに切り裂き始めたのです。
半分だけ切り裂かれた作品は「風船と少女」から「愛はごみ箱の中に」に題名が変わりました。

同じ一枚の絵だったにもかかわらず、シュレッダーにかけられたことによって内容がガラリと変わったのです。
のちに公開された動画で、バンクシーは「破壊の衝動は創造の衝動」というピカソの言葉を引用しています。
やはり解釈が難しいことに変わりはありませんが、バンクシーの作品は「見せ方によって絵の見え方を変えることができる」と思わせてくれるでしょう。

「奥が深い絵」に共通していること

紹介した作品3点は、見方によっては「シンプルな絵」「私でも描けそうな絵」です。
しかし、有名になっているということはそれなりの意味があり、人を惹きつける魅力があります。

ここからは、一言では言い表せない「奥が深い絵」に共通していることをお話しします。

<画家自身の強い思いがある>

自分の作品に自信がない人は、作品への思いが弱いのかもしれません。
紹介した3点は、どれも個性が強く、好き嫌いが分かれる作品ばかりです。
しかし、共通していることは画家自身の強い思いが込められていることです。

ロスコは、ロスコの紆余曲折の人生から感じたことを作品に込めています。
マティスは、代表作「ダンス」も「水浴する人」と似たような雰囲気で描いています。
「ダンス」は「粗野である」と非難を浴びました。
それでもマティスは独特の表現を貫いています。
バンクシーは、作品自体を有名にしたいと思っている画家ではありません。
社会批評など「うったえる手段」として作品を描いています。
シュレッダー事件は、オークションという場がバンクシーの意に反するため実行されたともいわれています。
お金でも名声でもなく、強い思いをもっているアーティストです。

「奥が深い絵」には、画家自身の強い思いがあります。

<作品の背景にストーリーがある>

ロスコもマティスもバンクシーも、紹介した作品が登場するまでには伏線のような作品がたくさんあります。
また、画家の人生をみると作品の深さに気がつきます。
画家自身が作品にストーリーを作ることで、作品を魅力的にしています。

そして、まったく同じ絵でも自分の絵に自信がない人が「これ、ちょっと描いてみました」と発表するよりも、
自信をもった人が「構想3年を経て、やっと完成しました」と発表したほうが重みを感じます。
作品の背景にあるストーリーや見せ方はとても大切です。
バンクシーは、見せ方が作品にインパクトを与えています。

<似ている作品がない>

ロスコもマティスもバンクシーも、自分の作品の中には似たような作品があります。
しかし、他の画家で似たような作品を発表している人はみかけません。
マティスはセザンヌに影響を受けていますが、完成した作品はセザンヌのものとはまったく違います。

「今までにないもの」は、見る人に刺激を与えるのです。

おわりに

自分の作品を魅力的に見せるコツは、自信をもつことです。
写真のように見える絵が上手い絵ではありません。
描いた人の強い思いが込めてある絵に人は惹かれるのです。

誰かに「うまいね」といわれることを目指すのではなく、「私の思いをぶつけた」と言い切れるような作品を描いてください。
きっと自分の絵に自信がもてます。

文筆:式部順子(しきべ じゅんこ)
武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業
サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。
在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。

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