小学生と中高生の「美術を学ぶ効果」の違いとは

絵画教室は未就学児や小学生に人気の習い事ですが、中高生になると進学を意識した習い事に変更する傾向があります。
実は、進学に直結しなくても中高生が美術を学ぶ効果はあります。

今回は、小学生と中高生の「美術を学ぶ効果の違い」に触れ、中高生が美術を学ぶことでどのような力を育めるのかをお話しします。

小学生は「感動」と「好奇心」を育む

小学校の図工の時間は図画工作という名前の通り、絵を描いたり工作をしたり幅広い制作をします。
図工の授業を通して、子どもたちが作ることの楽しさを知ることが目的です。
つまり、小学生の美術(図工)を学ぶ効果は作ることの楽しさであり、完成したときの感動にあります。

完成した作品がよくわからないものであっても「本人が満足していればよし」とされるのが小学生までの美術です。
そして、作る楽しさを知ると「次はこんなものを作りたい」「もっと違う画材を使ってみたい」という好奇心が生まれます。

小学校の図工の課題は「おしゃれな怪獣」「わたしの町」のように自由な発想で正解がないものがほとんどです。
絵が描いてあればすべてが正解です。
すべてが肯定されることで自己肯定感が生まれる授業が小学校の美術の効果ではないでしょうか。

中学生は「観察力」から「自信」を育む

中学生になると図工は美術に名前を変えます。
名前だけでなく課題もガラッと雰囲気が変わるのです。

小学生の授業では自由な発想で正解がない課題が中心でしたが、中学生になると作品に主題が求められるようになります。
例えば「わたしの町」というテーマでも「一点透視法を使いなさい」という条件が与えられ、制作の前に一点透視法や二点透視法で描かれた作品の授業を受けます。
そして、完成した作品には主題が求められます。

主題とは「何を表現した作品なのか」です。
小学生とは違い、中学生になると目に見える作品だけでなく「中身」も大切になります。
主題を考えるためには、制作する前にじっくりと考える力が必要です。
モチーフがあるならば観察力も求められます。

小学生の多くは図工の時間が大好きで、みんな目をキラキラして取り組みます。
しかし中学生になると求められるハードルは高くなり、「美術は受験に関係ない」という思いもあるからか無気力になってしまうこともあるのです。
しかし、それはもったいないことです。
主題が求められる美術は「自己表現」ができます。
「私は言いたい」という主題を作品にぶつけることで内に秘めたものを発散し、完成させることで自信につながるのです。

高校生はより幅広く学び社会とのつながりや資質を育む

高校生になると芸術科目は選択制になり、美術か工芸か音楽か書道の中から好きなものを選ぶことが多いようです。
文部科学省の高等学校学習指導要領には「生活や社会の中の芸術や芸術文化と豊かに関わる資質・能力を育成することを目指す」とあります。
学びのもっと先までを考えた目標になっているのです。

具体的に説明すると、例えば「明るい」という文字をデザインする課題ならば、小学生は「おもしろい字で書いてみよう」だったものが、高校生になると「ユニバーサルデザインを意識した字で書いてみよう」になるのです。
ユニバーサルデザインとは、見る人や使う人を選ばずにどんな人がみても理解できるデザインです。

ただ自分が楽しむ美術から「人のためになる美術」「社会の中での美術の役割」を学びます。

そして学習指導要領には「創造的に考えを巡らせる資質・能力の育成」という言葉もあります。
これは予測不可能な現代にもっとも必要とされている「ゼロから何かを生み出す力」ではないでしょうか。

「美術を学ぶ効果」の最終目標は「生きる力」を育むこと

文部科学省の中学校学習指導要領には、美術を学ぶ目標がかかれています。
その中に「心豊かな生活を創造していく意欲と態度を育てる」という一文があります。
筆者はこれが「生きる力」になる根幹だと考えています。

文部科学省は「生きる力」を学習指導要領の理念としました。
テストでいい点数をとることは褒められるためではなく、より高い生きる力を身につけるためです。

小学校の図工の授業では、美術につなげるための好奇心を育みます。
そして中学生になったら、より深く美術を知り、物事を深く観察する力をつけて自信を育みます。
生活や心を豊かにする美術の世界を知ることで「もっと豊かな生活を創造したい」という意欲が生まれ、生きる力が湧いてくるのではないでしょうか。
「もっと」という気持ちは、美術とは関係がないと思われている「受験」にもいい影響を与えるはずです。

おわりに

数学や英語は受験科目のため「学ぶ効果が高い」と思われることが多いのかもしれません。
しかし学ぶことの目的は「人生を生きやすくするため」と筆者は考えています。

数学ができれば物事を客観的に考えることができます。
英語ができればより多くの人とコミュニケーションがとりやすくなります。
そして美術はオリジナルの生き方や考え方の基準を作る基盤になります。

文筆:式部順子(しきべ じゅんこ)
武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業
サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。
在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。

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