やる気がでないときや気分が落ち込むときこそ美術館をすすめる5つの理由

春は新生活が始まります。
しかしゴールデンウィーク明けになると疲れが出始めます。
疲れは体だけではありません。
やる気がなくなったり、気分が落ち込んだりして心も疲れるのです。
そんなときには、美術館に行ってみてはいかがでしょうか。
美術館には、心を元気にするポイントがあります。

今回は、心が疲れているときこそ美術館をすすめる理由を5つお話しします。

全く違う思考になれるから

美術館の敷地に一歩足を踏み入れると、そこは非日常の空気が流れています。
オフィスビルのように敷地いっぱいに建物が建てられている美術館は少なく、広い敷地を贅沢に使っています。
美術館は、それ自体も美術品のように洗練された建築物が多いのです。
例えば、六本木にある国立新美術館は建築家の黒川紀章氏が株式会社日本設計と一緒に設計しました。
「建築は直線的」という常識を打ち破り、外壁は波打つような曲線です。
天気のいい日は、館内にいても日の光がサンサンと入り、東京のど真ん中に居ながらにして、開放的な気持ちになることができます。

多くの人は、美術館といえば「絵を見に行く場所」と考えます。
しかし、美術館には「非日常の空気を感じる場所」「近くにある異世界を感じる場所」という役割もあるのではないでしょうか。
心が疲れたとき、美術館の非日常の空気の中で心を開放してみるといいのではないでしょうか。

悩んでいたり落ち込んでいたりすることを忘れられるから

心が疲れているときは、悩みを抱えていることが多いのではないでしょうか。
家の中に閉じこもっていても、ついいろいろなことを考えてしまいます。
友達と会って話ができればいいのですが、新生活が始まったばかりの頃はなかなか会うことができません。
そんなときには美術館に一人で行ってみることをおすすめします。

ひとりで美術館に行けば「さみしい人と思われそう」と心配になるかもしれません。
そう思うならば、とびきりおしゃれをして「かっこいい人」に見られるようにしましょう。
ひとりで美術館に行けば「どこから回るか」「いつ頃ごはんを食べるか」「おみやげは何を買おうか」といろいろなことを自分だけで考えなければなりません。
しかも、それらすべては「楽しい悩み」です。
適度な緊張と高揚で悩んでいたり落ち込んでいたりしたことを忘れてしまうでしょう。

自分の状況は「ましなほうだ」と思えるから

美術館にはたくさんの作品が展示されています。
作品には作った人がいます。
作品をみるときには、作家の背景を知るとより深く作品を理解することができます。
例えば、草間彌生氏は明るくポップな作品が多いのですが、草間氏の人生は波乱万丈です。
もっと古い時代の画家にも今では考えられない状況下の中で絵を描き続けた人がたくさんいます。
ゴヤの「黒い絵」シリーズは、画面が暗く気味が悪い絵が多いです。
しかし、当時のゴヤは病気に苦しみ、苦しみの中から「黒い絵」が誕生しました。
美術館に作品が展示される有名な画家には、想像を絶する苦しみや苦労をしている人が多いのです。

やる気がでないときには、自分を奮い立たせて頑張る方法もあります。
しかし、奮い立たすことができないときには、自分よりも過酷な人生を歩んできた人の作品をみて「自分はまだましなほうだ」と自分を慰めてもいいのではないでしょうか。

美術館に来ている自分を好きになれるから

筆者が美術館に行く理由は、美術館に行く「自分が好きだから」かもしれません。
数年に1回は、目当ての作品があって美術館に行くこともあります。
しかし、ほとんどは「美術館に行くこと」が目的です。
なぜならば、美術館に行くことはとても知的な行動だと考えるからです。
実は、展示されている作品をみて感動することはあまりありません。
筆者は、感動する作品に出会う可能性がとても低いのです。
それでも美術館に行く理由は「いい作品があるかな」と探しに行く自分を好きになれるからです。

美大生だった頃はお金がなく、美術館の入館料を支払うことは大変でした。
それでも美術館に行った日は「高尚なことをやった」「知的な一日を過ごした」という満足感があったのです。
そして、そんな自分が好きになり、その日は自己肯定感に満たされていました。
筆者の友人は、美術館に行く理由を「あの人、絵がわかる人かも」と周囲の人に思われる快感があるからだと言っていました。

いずれにしても、美術館には絵から得られる感動だけではなく、美術館に行くだけで得られる心の栄養があります。

気持ちが落ち着いて前向きになれるから

美術館に行くだけで、非日常の空間で思考を転換させることができます。
さらに画家の人生や時代背景に思いをはせることで「自分はまだましなほうだ」と思うこともできます。
そして、美術館まで足を運んだ自分を好きになります。

美術館そのものから感じられる空気や足を運んだからこそ感じられる満足感が気持ちを落ち着かせてくれます。
そして、自分の気持ちを客観視する余裕を与えてくれます。

おわりに

5月になると新生活の疲れがでます。しかし、5月は青葉の季節です。
美術館は緑豊かなランドスケープデザインが多く、美術館周辺を散歩するだけでも気分転換になります。

美術が心に栄養を与えて人生を豊かにするように、美術館は心を癒し、人を元気にしてくれる場所です。

文筆:式部順子(しきべ じゅんこ)
武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業
サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。
在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。

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