自分は絵が上手いと思っている人の落とし穴と対処方法

趣味で絵を描きSNSに投稿する人が増えています。
プロ顔負けの人も多く、中にはSNS投稿をきっかけにして本当にプロになる人もいます。
しかし中には「絵が上手い」と思ったことで落とし穴にはまってしまった人もいるようです。

今回は、自分は絵が上手いと思っている人の落とし穴と対処方法をお話しします。

現状に満足してしまい進歩しない

自分の作品をSNSに投稿すると、人からの評価を得ることができます。
友達から「いいね」「さすが」と言われれば気持ちはよくなるかもしれません。
SNSは公開範囲を指定することができます。
親しい友人や家族など「自分の絵をみせたい」と思う人にだけみせることができるのです。

褒められることが続けば「自分は絵が上手い」と自信をもつことができます。
自信をもつことはいいことです。
しかし、間違った自信は進歩を止めてしまいます。

親しい友人や家族の評価は客観的な評価とはいえません。
親ならば自分の子どもを褒めたくなります。
友人ならば思っていることを正直には言いづらいかもしれません。
いってみれば条件付きの評価の中で得た自信は、現状に満足させて「私は絵が上手い」と思わせてしまい、それ以上の進歩を止めてしまうことがあるのです。

「自分は絵が上手い」と思っている人は、自信の根拠を考えてみます。
そして、条件付きの評価の中で得た自信が根拠となっている場合は、自分を進歩させるために客観的な評価を得るようにするといいのではないでしょうか。

本当のスゴイ人を知らず自分の「のびしろ」に気づかない

自分は絵が上手いと思っている人は、自分よりもスゴイ人を知らないのかもしれません。
もしくは、本当にスゴイ絵や画家を知らないからこそ「自分はスゴイ」と思えるのかもしれません。
つまり、井の中の蛙大海を知らず状態ということです。

葛飾北斎は、誰もが知る有名な絵師で絵のスキルが非常に高い人です。
それでも、この世を去る間際に「あと5年生きられれば本物の絵が描けるのに」と言っています。
つまり、葛飾北斎は、けして「私は絵が上手い」と現状に満足せずに自分の「のびしろ」の可能性にかけていたのです。

「私は絵が上手い」と思っている人には、自分の絵に自信をもちつつ努力をし続ける人と本物のスゴイ絵や画家を知らず井の中の蛙になっている人の2種類があります。
もしも後者ならばもったいない話です。
たくさんの素晴らしい作品や人と出会い、自分の「のびしろ」に気がつくべきではないでしょうか。

自分の不得意なところから目をそらしてしまう

自分は絵が上手いと思っている期間が長くなると、無意識のうちに「上手い人であり続けたい」と願っていることがあります。
しばしば「いい子」と言われている子どもが、自分のよい評判を落とさないようにするために、素の自分を隠して「いい子」を演じ始めてしまうことがあります。
それと同じように「絵が上手い評判」を落とさないようにするために、苦手な絵は描かないようになってしまうのです。

絵は自己表現とも言われます。
「いい子」や「上手い人」を演じて描いた絵は本当の自己表現ではありません。
絵を描くときに「得意な絵」ばかり選んでいる人は、実は絵が上手い自分であり続けるために不得意なところから目をそらしているのかもしれません。
もう一度初心にかえって「なんのために絵を描くのか」を考えてみると素の自分に戻れるのではないでしょうか。

他の人の作品と比べて「勝ち負け」にこだわってしまう

自分は絵が上手いと思っている人は、他の人の作品と自分の作品を比べることで優越感を味わっていることがあります。
筆者も美大受験予備校で絵を描いているとき「作品の優劣は順位である」と思い始めた時期がありました。
入試で高得点をとれる作品は優れた作品、そうでない作品は劣った作品と線引きをしていたのです。
そして初めて1位をとったとき「私は一番絵が上手い」と優越感にひたりました。
しかし、絵の良し悪しは勝ち負けではありません。美大受験予備校の1位の意味は「優れた作品」ではなく「いちばん合格に近い作品」だったのです。

優れた作品と合格に近い作品は全く違う意味です。
例えば、ゴッホの作品は優れた作品ですが合格に近い作品とはいえません。
有名な「ひまわり」の花瓶は形が歪んでいるようにみえます。
合格作品は、印象よりも正確さが重視されています。

他の人の作品と自分の作品を比べて勝ち負けにこだわり、勝つことで「自分は絵が上手い」と思っている人は「優れた作品」の意味が「勝てる作品」になってしまっているのではないでしょうか。
筆者は100人中99人が「嫌い」と答えても、最後の一人に人生を変えてしまうほどの感動を与えられたら、その作品は優れた作品だと考えます。
本当に自分の絵に自信がある人は人と比べず、常に自分で自分の作品の優劣を決めています。

自分は絵が上手いと思っている人の対処方法

自分は絵が上手いと思うことはいいことです。
自分の絵に自信があれば堂々と表現することができます。
しかし自信の根拠が間違えていると、絵の進歩を妨げてしまうのです。

SNS投稿は、さまざまな人からの評価を得られますが、その評価が必ずしも建設的な意見とは限りません。
評価される範囲を限定すれば井の中の蛙になってしまいます。

絵画教室は、作品を客観的に評価する先生がいます。
また、自分よりも描ける人と出会うチャンスがあります。
自分は絵が上手いと思っている人こそ、真っ向から絵に向かい合える環境で「客観的な根拠がある自信」をつかみ、さらに作品を進歩させるといいのではないでしょうか。

おわりに

筆者は「美大だから絵が上手いでしょ」と言われます。
しかし「絵が上手い」と自信をもてたことはありません。
デザインの発想力には自信があります。
それは美大受験予備校や大学で多くの作品や人と出会い、客観的に自分の作品と向き合った中で得られた根拠です。
本当に「自分は絵が上手い」と心から思えるようになるためには、相当の年月と多くの出会いが必要なのではないでしょうか。

文筆:式部順子(しきべ じゅんこ)
武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業
サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。
在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。

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