絵画教室に行けば「絵を描くテクニック」を学ぶことができます。
しかし実は、もっと絵を描くためには大切なことがあるのです。
そして絵画教室に通う本当の目的は、テクニック以外の「大切なこと」を学ぶことにあるのかもしれません。
今回は、絵画教室で学べるテクニック以外の4つのことをお話しします。
目次
同じものやことでも人によって見え方が違うこと
絵画教室では、ひとつのモチーフをみんなで描くことがあります。
台に置かれた牛骨(牛の頭の骨)を囲むように座り、みんなでデッサンすることもあります。
全員が同じものをみて描いたはずなのに、出来上がった作品は全く違うものになります。
これは、同じものを見ていても、見る人の見方によって感じ方は変わることが原因です。
牛骨をみて恐怖を感じた人はおどろおどろしい作品になります。
牛骨に魅力を感じた人は、細部まで入念に描きこみたくなるでしょう。
絵画教室には、自分とは全く違う考え方や見方をする人たちがいます。
作品を通して「同じものやことでも人によって見え方が違うこと」を学ぶことができます。
これは、作品を作るためだけでなく、生きていくためにも大切なことです。
大変なことやつらいことにぶち当たったときでも、くじけてしまう人もいれば、気にしない人もいます。
ものの見方や考え方次第で、作品も生き方も変わっていくものです。
表現方法は無限にあること
絵画教室では基本的なテクニックは学びますが、それ以降の表現は自由です。
「りんごは赤で描かなくてはいけません」や「さいころは立方体でなければなりません」ということはなく、色も形も自由に表現します。
絵画教室に行かずひとりで絵を描いていると「りんごは赤」「さいころは立方体」という思い込みを覆すきっかけに出会うことができません。
自分は「りんごは赤」と思い込んでいたけれど、絵画教室ではりんごを白で描く人がいるかもしれません。
また、絵の具ではない材料で表現する人もいるでしょう。
美大の卒業制作で服を輪ゴムで編んだ作品がありました。
「服は布で作るもの」という思い込みを覆した作品です。
絵画教室で多くの作品に出合うことで、表現方法は人の数だけあることを学ぶことができます。
「表現方法は無限にある」「表現方法に決まりはない」と知ることができるだけで、自分の表現の幅も一気に広がります。
ジャンルを超えた知識や情報を得られること
絵画教室には、展示会情報や美術館情報が掲示されています。
小中学校から夏休み前になるとおすすめの美術展の案内が渡されることもありますが、絵画教室には1年中情報があふれています。
たくさんの情報が得られることは、自分の世界を広げるチャンスがたくさんあるということです。
また、絵画教室ではさまざまなジャンルのプロが先生として指導しています。
個人の絵画教室では先生がひとりしかいないことが多いため、油絵専攻の先生からグラフィックデザインを学ぼうと思っても難しいのかもしれません。
しかし、複数人の先生が在籍している絵画教室ならば油絵専攻の先生もいれば、イラストや彫刻を専門にしている先生もいるかもしれません。
多くのジャンルの先生と接することで、今まで知らなかったジャンルの知識を得ることができます。
「絵といえば油絵か日本画」というよりもイラストもロゴマークもテキスタイル(布デザイン)も絵の一部と考えることができれば、美術の視野はグッと広くなります。
人と違っていいこと
筆者の子どもは3歳から空手とスイミングを始めました。
どちらもみんなと同じ動きや決められた動きができなければならない習い事です。
とくに空手の型は全員が同じ動きをするため、人と違う動きをした段階で「できない子」になってしまいます。
小学校入学のころになると、できる子とできない子の差が開き始めます。
運動が苦手な筆者の子どもは「できない子」になってしまいました。
本人も空手やスイミングに行くことを嫌がり始めたのです。
筆者は「このままでは劣等感をもって小学校入学になってしまう」と考え、両方の習い事をやめて絵画教室に通うことにしました。
絵画教室の雰囲気は、空手やスイミングとは全く違います。
共通の課題は出されても、みんなと同じように描く必要はありません。
むしろ人と同じではダメなのです。
その後、筆者の子どもは小学校卒業までの6年間を絵画教室に通うことになりました。
絵画教室の先生たちは、どんな作品を作ってもいいところをみつけて褒め、すべての作品を大切に扱ってくれました。
「人と違っていい」「人と違う発想こそ強み」であることを学べる習い事は意外と少ないものです。
おわりに
紹介した絵画教室で学べる4つのことは、年齢を問わず生きていくために大切なことではないでしょうか。
大人になってからはとくに「個性より協調性」が重視されるシチュエーションが増えます。
これからを生きる子どもたちはもちろんですが、個性や自分らしさを見失いがちな大人にも絵画教室は「自分に帰れる場所」としておすすめです。
文筆:式部順子(しきべ じゅんこ) 武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業 サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。 在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。