「絵を習う」というと小さな子どもや高齢者の趣味というイメージがあるかもしれません。
中高生になれば受験を意識する年代であり「絵を習う余裕はない」と思われがちです。
美大を受験するわけでもないのに絵を習う必要はないと考える人も多いのではないでしょうか。
しかし中高生が絵を習うメリットは受験以外にもあります。
今回は中高生が絵を習うメリットについてお話しします。
目次
人に伝わる絵が描けるようになる
中高生になるとレポートやノート提出も成績に大きな影響を与えます。
内容がよくても見栄えが悪いノートは厳しい評価になりがちです。
絵が描ける中高生は、文字だけでなく絵を使って「伝わるノート」を作ることができます。
絵には自己表現という役割のほかに「伝える役割」もあります。
文字では書き表せないことでも一枚の絵が言葉を超えてコミュニケーションに役立つことも多いのです。
筆者がカナダに留学したとき、まったく英語ができませんでした。
それでも絵を描くことでホストファミリーや多くの国のクラスメイトとの距離を縮めることができたのです。
毎朝「Have a nice day」という言葉とともに笑顔の自分を描いてホストファミリーに渡しました。
「おしゃべり」ができないけれど絵を通してコミュニケーションしたい気持ちを伝えたのです。
中高生は、これから多くの出会いが待っています。
言葉が通じない相手、言葉では表現できないことでも「絵を描きなれていること」が思わぬ時に役立つかもしれません。
本当のかっこよさを知ることができる
中高生になれば受験や就職を意識します。
一流大学に入って一流企業に入社できることが「かっこいい」と思われる時代は終わっています。
そうはいっても、受験となれば少しでもレベルの高い高校や大学に合格できた人がかっこよく見えるのではないでしょうか。
「受験」は、中高生の視野を狭めてしまうことがあります。
絵を習うことは、受験を客観的に考えるきっかけになるかもしれません。
絵を習いに行く目的は人それぞれです。
絵本画家を目指して習いに来る人もいれば、美大で映画を学ぶために美大受験を目指している人もいます。
目的は違っても共通していることは「夢を追いかけていること」です。
本当ならば受験は夢を実現するための通過点であり手段です。
しかし、あまりにも「受験」を意識して視野が狭まってしまうと、受験合格が目的になり夢を見失ってしまいます。
中高生で絵を習う人たちは、夢を追っている人や心に余裕がある人がほとんどです。
日々、自分の夢を堂々と語っている姿は本当の意味で「かっこいい」のではないでしょうか。
「無」になって自分と向き合うことができる
絵や作品作りに集中すると周囲の音が聞こえなくなる「無」の状態になることがあります。
学校の授業で彫刻刀を使い、一心不乱に木を彫った経験はないでしょうか。
「無」になるとあっという間に時間が過ぎていきます。
そして周囲の雑音が一切耳に入らず、自分と向き合うことができるのです。
自分と向き合っているからといって何かを急にひらめくわけではありません。
しかし、余計なことを考えず、自分の本当の気持ちに触れることで気がつくことがあるのです。
進路を決めるとき、学費や体裁など自分の気持ちとは関係のないことが迷いの原因になることがあります。
そんなときに「無」になって自分と向き合う時間をつくることで本当の自分の気持ちに気がつくことがあるのではないでしょうか。
自己分析ができる
絵を描いたり作品を作ったりすることは自己を表現することです。
人は外見からはイメージできない一面をもっています。
物静かな人が横尾忠則のような絵を好んで描いたり、にぎやかな人が東山魁夷のような澄んだ世界観をもっていたりすることもあります。
中高生は、進路を決めるために自己分析をします。
学校からは自己分析カードが配られ、机にむかってせっせと記入しているのではないでしょうか。
「友達から楽しい人と言われたから自分は楽しい人」や「家庭科の成績がいいから家庭的な人」というように他者からの言葉を基準にして自己分析することが多いようです。
しかし、本当の自己分析はカードに向かっているだけではできません。
他者からの言葉は、分析ではなく評価です。自分でも気がつかない一面は、自己を表現し外に出すことで気がつくのです。
「絵を習う」ということは、自分を表現して第三者にみてもらうことです。
同年代の人たちの表現と自分の表現の違いに気がつくことこそが本当に使える自己分析になるのではないでしょうか。
おわりに
中高生は忙しいです。学校の授業が終われば部活があり、塾から帰ってきたら夜です。
忙しい日々の中で「絵を習う」ということは的外れなことに思うかもしれません。
しかし「ひらめき」や「発見」は、「暇」「ゆとり」の中でみつかるものです。
忙しい日々の中で自分を解き放ち、発散する時間をもつことは受験だけでなく、多感な心にも大きなメリットがあるのではないでしょうか。
文筆:式部順子(しきべ じゅんこ) 武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業 サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。 在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。