絵を習っていると「将来は美大を目指すの? 」と聞かれることがあります。
たしかに、絵を習う子どもの中には、美大受験を考えている子もいます。
しかし、美大受験をしなくても子どもが絵を習うことには意味があります。
今回は、意外と多い疑問「美大を目指さない子どもが絵を習う意味」についてお話しします。
目次
絵や作品を作るときの集中力は美大受験以外でも役立つ
受験に一番必要なことは何でしょうか。集中力です。
受験は自分との戦いであり、長さよりも深さが重要になります。
集中力がある子どもは、短時間でも集中するため知識がしっかりと頭に固定されます。
一方、集中力がない子どもは「勉強しなきゃ」と思っている時間は長いのですが、結果として頭に入った知識は少ないのです。
集中力とは、ひとつのことにのめり込む力です。
「絵を習う」ということは、絵を描くための環境で絵を描くことだけに集中することになります。
嫌々ながらやらされることは、時間の経過が長く感じます。
しかし、子どもたちが作品作りや絵を描いていると「えっ、もうこんな時間!?」という声があちこちから聞こえてきます。それだけ集中しているということなのです。
幼いころから「集中する」という経験を重ねてきた子どもは、美大受験以外の受験でも役立つ集中力を養うことができるのではないでしょうか。
作品作りやデッサンに必要な計画性は美大受験以外でも役立つ
絵を習う教室では、レッスン時間が決められています。
学校の図工や美術の時間も決まっています。
決められた時間の中で制作をするためには、時間配分やスピードを考えて作業しなくてはなりません。
学校ならば、時間内に作品を完成できなければ減点されるのかもしれません。
「もっと細かく描きたい」と思っても、時間がないから1色で塗りつぶすということもあるでしょう。
しかし絵を習う教室では、時間制限はありつつも、作品を妥協させることはありません。
本人が納得できる制作をしつつ、計画性も育てることができます。
美大に限らず、受験は本番までの勉強計画、試験での時間配分など計画性が必要です。
子どものころから時間と完成度のバランスを意識する習慣を身につけることで、美大受験以外でも役立つ計画性を養うことができます。
1+1の答えが2だけではない広い視野をもつことができる
絵や作品作りには、正解はありません。正解はありませんが答えはあります。
一人ひとりが制作した作品こそが答えです。
生きていく中では、1+1=2のように正しい答えがない問題の方が多いです。
ハードルにぶつかったとき、柔軟な発想力と広い視野を持っている人は、さまざまな視点から物事を考えて、答えを出すことができます。
絵を習うことは、絵の技術力向上を目指すことだけが目的ではありません。
「ゴッホは、どうしてグルグルと渦を描くのか」「ピカソのどこがうまいのか」を考えることで、さまざまな視点や立場からモノを見る力が育ちます。
そして「マグリットみたいにありえないことを描いてもいいんだ」「人と違うことを表現しても大丈夫なんだ」と思えることで、広い視野とともに自分の考えに自信を持つことができます。
絵を習う場所では、個性を大切にします。
人と違う表現をしても否定したり修正したりせず、個性を尊重します。
自分以外のさまざまな表現方法や考え方をもつ子どもと接することで、広い視野と考え方をもつことができるのではないでしょうか。
親自身の認識が変わる可能性が出てくる
「美大はお金がかかるから無理」「美大を卒業しても就職が難しそう」という声をよく聞きます。
美大には、さまざまなイメージがあるものです。
「受験はしないけど、絵が好きみたいだからとりあえず習わせたい」ということも多いです。
美大受験は、ゴールではありません。
「芸術家になりたい」「美術の先生になりたい」など、さまざまな夢をかなえる通過点に美大があるのです。
そして絵を習う場所は、夢をみつける場所です。
絵を習うきっかけが「美大受験」という子どもは少ないです。
絵を習い続けていくうちに、先生から大学時代の話を聞いたり、絵に深く興味をもったりして「美大」が候補にあがってくる子どももいます。
親も同じです。
はじめから子どもに美大受験を考える親は、自身が美大を卒業したり、美大が身近な存在だったりした人ではないでしょうか。
絵を習うことで、親も美術を身近に感じることができます。
その中で、自然と「美大」が頭に浮かんできたとしたら、そのときに美大受験を考えても遅くありません。
おわりに
「習って得られるもの」が具体的である方が、コスパがいい習い事にみえるかもしれません。
「美大を目指す」ということは、合否という具体的な結果があります。
一方で絵を習うということは、感性や表現力のように数字にできないスキルを身につけることです。
美大を目指さない子どもが絵を習う意味は「これから生きていくために必要な目に見えないスキルを身につけるため」ではないでしょうか。
筆者:式部順子(しきべ じゅんこ) 武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業 サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。 在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。