「絵を習えば美術の成績が上がるの?」という質問を、私たちは中学生や高校生、そしてその保護者の方々からよくいただきます。数学や英語と違い、正解が一つでない美術という科目。だからこそ、どう成績に反映されるのかが見えづらく、不安に思う方が多いようです。
この記事では、教育と表現の専門家として、絵を習うことで美術の成績がどう変わるのか、どのような効果が期待できるのかを、具体例を交えて丁寧に解説します。特に「子ども 表現力 育て方」や「絵画教室 習い事 不安」といったキーワードが気になる方にとって、有益なヒントが見つかるはずです。

目次
成績アップのカギは「観点別評価」を知ることから
中高生の通知表では、美術の成績は「観点別評価」で決まることが多いです。つまり、単に絵がうまい・下手というだけでなく、授業態度や意欲、知識など、さまざまな角度から評価されているのです。
例えば、どれだけ高度な作品を描けたとしても、授業態度が悪かったり、提出物を出していなかったりすると評価は下がってしまいます。逆に、作品がそこまで上手でなくても、前向きな姿勢や工夫、努力が見られれば好評価につながることもあります。
このように、「なぜ自分の成績がこの点数なのか」を知ることが、成績アップの第一歩です。定期テストで高得点なのに通知表の評価が低い場合は、実技や表現の観点が弱い可能性があります。そのような場合、絵を習うことはとても有効な手段になります。
美術の成績にも「基礎力」が影響する
数学の成績を上げるために計算練習や応用問題の演習を繰り返すように、美術にも基礎があります。それが「デッサン力」です。
どんなに華やかな着彩画でも、どんなに個性的なデザインでも、デッサン力という土台がなければ完成度の高い作品にはなりません。形の取り方、陰影のつけ方、質感の出し方――こうした基礎があるかどうかで、作品全体の説得力は大きく変わってきます。
「絵が苦手」と感じている子の多くは、このデッサン力が不足しているケースがほとんど。学校でよく言われる「よく見て描きましょう」は、ただ目を凝らせばいいという意味ではありません。正しい“見方”を身につけることが、実はとても大切なのです。
絵画教室では、この“見方”を丁寧に教えるところから始めます。どこをどう観察するか、どう線を引くか。その基礎がわかることで、ぐんと描けるようになる子がたくさんいます。

「成績のため」だけじゃなく「自分らしい表現」を大切に
中高生になると、「成績がいい作品=評価される作品」と考えがちです。でもそれが、制作に迷いを生む原因になることも。
たとえば、「この先生は明るい色の絵が好きそうだから、暗い色は使わないでおこう」といったように、先生の好みを意識しすぎるあまり、自分の表現がブレてしまうのです。
美術の本来の目的は、「自分の感じたことや考えたことを、自由に表現すること」。成績のために作品をつくるのではなく、自分の感性を信じて描く。その姿勢こそが、本当に評価される“いい作品”につながります。
絵を習うことで、自信をもって自分の感性を出せるようになる子が増えています。「この色で描いてもいいんだ」「こんな形もアリなんだ」――そんな発見が、表現の幅を広げ、ひいては成績にも良い影響を与えるのです。
数学は、お金の計算や面積の計算のように生活に必要な知識です。
英語や国語もコミュニケーションに欠かせない科目です。そう考えると、絵の技術や知識は生きるために必要なことと思えないかもしれません。
しかし筆者は、美術こそ、これからの時代を生き抜くために必要な科目だと思います。
美術は、個性を表現し認め合う科目です。
さらに時代をさかのぼれば、つらい気持ちや悲しみ、尊敬の気持ちや愛おしさを表現した作品は時代を超えて人々の心に響いています。
1+1=2というように決まった答えではない答えを生み出す力こそ、人生では必要になるのです。
1枚の絵がつらい気持ちを楽にすることもあります。
ひとつの彫刻が多くの人を笑顔にすることもあります。
美術とは、生きるための術を学ぶ科目ではなく、人間らしく豊かに生きる力を身につける科目です。
美術を学ぶ目的から考えると「先生受けのいい作品」や「表向きの作品」は、美術の目的とは大きくぶれています。
成績を意識した作品は、思い切りがなく、四角四面のルールに則った作品になりがちです。
そのような作品は「いい作品」にはみえません。
習い事としての絵は“成績”と“自己表現力”の両方を育てる
「絵を習えば美術の成績は上がりますか」という質問の答えは、ひとりひとり違います。
技術力があるけれど授業態度が悪いならば、絵を習うよりも授業態度を改める方が成績アップにつながります。
しかし、意欲もあり態度もいいのに成績が上がらないときには基礎力と表現の幅を広げてみるといいでしょう。
基礎力は、努力だけでは限界があります。絵を描くコツは「モノの見方」です。
さらに質感ある表現方法や表現の種類は教えてもらうことで一気に扉が開くこともあります。
中高生は、大人とは違い「成績」という結果を出すために時間のリミットがあります。
効率よく弱点をみつけだし、基礎をみにつけて自分らしい表現方法と出会うためには「絵を習うこと」は手段のひとつとなるでしょう。
おわりに
筆者は美術が大好きでしたが「絵がうまい人」ではありませんでした。
美大受験予備校に入学した時も講師に「絵に対する情熱は人一倍ある。でも不器用だね」と言われました。
デッサン力はなかなか身につかず、頭部を描けば「なんか怖いね」「こういう動物いるよね」と言われるほどでした。しかし美術の成績は5だったのです。
美術に対する情熱と作品へのこだわりが評価につながっていたのだと思っています。
美術の成績を上げるコツは、美術を好きになり作品にこだわることです。
絵を習うことは、絵を好きになるきっかけになり、こだわれる幅を作ってくれるのではないでしょうか。
文筆:式部順子(しきべ じゅんこ) 武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業 サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。 在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。