【美術史】知る前と後で絵のみえ方が変わる!? 有名画家の恋話

絵をみるときは、画家の背景を知ると作品を深く理解できることがあります。
さらに画家の人間性までわかると今までとはみえ方や感じ方が変わることがあります。

今回は、有名画家の恋話から画家の意外な一面を知り、新しい絵のみえ方を楽しんでみましょう。

衝撃的すぎる「モディリアーニと恋人ジャンヌ」

モディリアーニの作品には、恋人ジャンヌをモデルとした女性の絵がたくさんあります。
モディリアーニは、とても「モテた」ため女性のモデルに困ったことはないのでしょう。
しかし、ジャンヌはその中でもとくに印象深い女性です。

モディリアーニとジャンヌは、ジャンヌが18歳の時に出会います。
しかしモディリアーニは数年後に病気になり、この世を去ります。
数多くのこされたジャンヌをモデルにした作品は、出会ってから亡くなるまでのわずか数年の間に描かれたものです。

衝撃的な恋話は、モディリアーニがこの世を去った直後のことです。
モディリアーニを失い悲しみにくれたジャンヌは、お腹に子どもがいたにもかかわらず5階から飛び降りてこの世を去ります。

何も知らずにモディリアーニが描いたジャンヌの絵をみれば、一般的な「恋人の肖像画」にしか見えません。
しかし衝撃的な恋話を知った後では「悲しい恋人の肖像画」に見えるのではないでしょうか。

恋が多すぎる「ピカソの恋愛」

ピカソは「青の時代」があるように作品の雰囲気がコロコロ変わった画家です。
何も知らなければ「常に新しい作風を模索していた」と思う人がほとんどではないでしょうか。
しかし、ピカソの意外な一面を知ると、作品の雰囲気がコロコロ変わった理由がわかります。

ピカソは恋多き人だったのです。
恋人から受ける影響が大きく、恋人が変わると作風にも変化があらわれていたようです。
ピカソは、たくさんの女性を描いていますが、同じ画家が描いたとは思えないくらい印象が違います。
ピカソは、女性ひとり一人がもつ個性を敏感に感じて表現していたのではないでしょうか。

ピカソの作品の変遷を何も知らずに見ていれば「年齢を重ねるにつれて描き方も変わっていった」と思うかもしれません。

しかしピカソの恋愛遍歴を知った後では「このとき、きっと恋人が変わったのかな」と新しい視点で見る楽しさがあります。

美しすぎる「ルノワールと妻アリーヌとバラ」

ルノワールは、バラの絵をたくさん描いています。
どれもテーブルの上にきれいに活けられたバラの花束の絵です。

しかし1915年に描かれたバラの絵は一味違います。
何も知らずにみれば「今までよりも大雑把に描いたバラ」「勢いで描いたバラ」に見えるかもしれません。
しかし、この1915年のバラの絵にはルノワールのあふれんばかりの気持ちが込められています。

ルノワールには、アリーヌという妻がいました。
アリーヌは、ルノワールとルノワールの仕事を大切に思い、言葉通り献身的につくしてきました。

ルノワールもアリーヌを愛し、アリーヌをモデルにした作品からは「愛」「やさしさ」がヒシヒシと伝わってきます。

ところが、アリーヌは56歳という若さでこの世を去ります。
悲しみに暮れたルノワールは、アリーヌへ捧げるために1915年の作品「バラ」を描いたのです。

キャンバスには花瓶もテーブルもなく、咲き誇るバラだけが勢いよく描かれています。
この作品は、ルノワールが泣きながら描いたと言われています。

何も知らずに1915年のバラを見れば「勢いで描いたバラ」に見えるかもしれません。

しかし、描かれた背景を知った後では「明るさの中に秘められた悲しみや愛」を感じることができるのではないでしょうか。

絵はその背景や歴史を知るほどおもしろい

外国語の歌を聞いたとき「なんとなくメロディが好きだから」という理由で好きになったことはないでしょうか。
しかし「歌詞の意味を知ったら嫌いになった」という話も聞きます。

絵を感じるとき、キャンバスに描かれた要素だけではメロディを聞いただけの状態です。
歌詞の意味を知るためには、絵を描いた画家の人生や歴史的背景を知ることが大切です。

美術史は「何年に誰が何を描いた」という歴史事実を知るだけではありません。

「なぜ、この画家はこんな作品を描いたのか」「この絵が本当に言いたいことは何か」を知るために美術史があるのではないでしょうか。

デッサンやデザインが上手に描けなくても「美術」は堪能することができます。
その一つの方法が美術史だと筆者は考えます。

おわりに

美術史には、世界情勢の歴史だけでなく、画家自身の歴史もあります。
モディリアーニとジャンヌの関係は、時代を超えても衝撃的であり、作品の見え方をガラッと変えるインパクトがあります。

ピカソは歴史的背景というよりもピカソ自身の人生遍歴を知ることで作品の見え方が変わります。
ルノワールは、ルノワールの人生を知れば「ルノワールのやさしい世界観」を理解することができるでしょう。

現在、美術史は教養として注目されています。
「絵は描けないけれど、絵を語ることはできる」という美術の楽しみ方もあります。

文筆:式部順子(しきべ じゅんこ)
武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業
サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。
在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。

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