絵を描くには個性が必要ですか? そもそも個性とはなんですか?

同じものを描いていても、描き手が異なればその雰囲気や特徴が全く異なる絵になることがあります。これが、絵において個性が現れるという現象です。
例えば、一つの花をテーマにしたとしても、ある人はその色彩の鮮やかさに注目し、明るい色で生き生きと描くかもしれません。一方で、別の人は花の儚さに心を惹かれ、淡いトーンで柔らかく描くでしょう。

「美術に関わる人は個性が強い」という話を耳にすることがあります。では、美術に携わることで個性が強くなるのでしょうか?それとも、個性が強い人が美術に惹かれるのでしょうか。そして、そもそも「個性」とは何を指すのでしょうか。
今回は、「絵を描くには個性が必要か」「個性とは何か」を深掘りしていきます。

絵を描くために必要なものは「自分なりの見方と考え方」

絵を描くために必要なものは、自分なりの見方と考え方です。
決められた見方とルールに従った描き方をすれば、機械が描いたようにみんな同じ絵になるでしょう。

「自分なりの見方」には、上手いも下手もありません。
正解も不正解もありません。

ガラス瓶を描くとき「ツルツル感」に魅力を感じた人はツルツルした質感が出るように描きます。
ただ、絵を描くときは基礎的な知識も必要です。
ガラスのツルツル感を出すためにどんな画材をどのように使ったらいいのかを習えば、あとは自分なりの見方と考え方次第で絵の魅力は増していきます。

個性とは、その人が持つ特有の「ものの見方」や「考え方」を指します。これらは、人生経験や感受性、環境によって形成されるものです。同じモチーフを描いても、描き手の個性が異なれば、作品に表れる雰囲気や表現方法が異なるのはこのためです。

たとえば、同じ風景を見ても、ある人はその美しさを色彩で表現しようとし、別の人は線の強弱や構図でその魅力を描き出すかもしれません。この違いは、描き手の経験や感覚、さらにはその瞬間の気持ちにも左右されます。

個性は、他者との差異を作るだけでなく、その人らしさを明確に示す大切な要素です。そして、絵において個性があることは、作品に独自の価値や魅力を与えます。

個性は「作るもの」ではなく「自然とにじみ出るもの」

個性は、ものの見方や考え方なので「つくるもの」ではありません。
個性がある人の作品は、デッサンをしてもデザイン画を描いてもなんとなく「あの人の作品だ」とわかります。
とくに派手でも目印があるわけでもないのですが、作品からにじみ出る共通した魅力があるのです。

個性は、その人が経験してきたことや見てきたことの蓄積によって徐々に構成されるものではないでしょうか。
なにかを経験したときに受けた衝撃や感動が想像力を掻き立てて、ものの見方や考え方に影響を与えます。

感受性が強い人は、小さな経験でも大きな影響を受けます。
逆に「感じにくい人」は、なにかを経験しても事実だけを受け止める人なのかもしれません。

同じ空を描くときでも、感じにくい人は青色一色で塗るかもしれませんが、感受性が強い人は紫色や灰色などたくさんの色を使って自分の見方でみえた空を描きます。

自分の個性に気がつけば個性は自信になる

筆者は「美大の人は個性が強いから」という理由でお見合いを断られたことがあります。
当時は意味が理解できなかったのですが、おそらく「美大の人は自分なりの考え方が頑としてあるから一緒に生きていくのは難しい」ということだったのかもしれません。

たしかに結婚はふたりで譲り合い、お互いの考え方や見方を尊重しあいながら生きていくことが大切です。
服装も話題も「私は」という雰囲気が強かった当時の筆者には結婚は遠かったでしょう。

しかし美術のように自分の内面を表現するときには、自分の中に「自分にしかない見方と考え方」がなければ作品がぶれてしまうのです。

結婚のように協調や譲り合いが求められるときには、強すぎる個性が邪魔をすることもありますが、作品を生み出すときには個性はなくてはならないものであり、武器になります。
そして「自分には個性がある」と気がついたとき、それは自信になります。

個性は、感性とセットです。
感性がある人、感受性が強い人は、多くの刺激を受けながら自分の中に個性が生まれます。
たくさんの経験をして、たくさんの作品をみて、自分の感性を磨くことが個性を生み出すポイントです。

ひとりで描いていても自分の個性には気づきにくい

「私に個性はあるのかしら」とひとりで考えていても答えはでません。
個性は、多くの人の中に入ったり、たくさんの作品と並べたりしたときに気がつきます。
たくさんの作品と並べてみることで自分の作品の共通点がみえます。
その共通点こそが「自分なりの見方」です。

「絵を描くには個性が必要ですか」の答えは「YES」です。個性がない絵は飽きてしまいます。
だれかの真似をして個性を出そうとしても、本物の個性でなければすぐに限界がやってきます。

例えば、草間彌生の特徴である水玉模様を真似して絵を描いても、数枚描けば限界がやってくるでしょう。
絵を描くためには、自分の個性が必要です。

ただし、最初から個性が確立している人はいません。
はじめは絵画教室で絵の基礎を習い、たくさんの作品をみることで感性を養い、たくさんの制作経験を積みます。
そして徐々に個性は出てくるのです。

おわりに

個性とは、その人特有のものの見方や考え方です。
個性は美術だけでなく、これからの時代を生きるためはとくに必要なものではないでしょうか。

ものが豊富にあり、想定外の事態が次から次へと起こる時代に「自分なりの考え方」という芯を持っていることはとても大切なことだと筆者は考えます。

「絵を描くこと」は自己表現だけでなく、それ以前の「自分」や「個性」に気がつくためにもいい方法なのではないでしょうか。

文筆:式部順子(しきべ じゅんこ)
武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業
サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。
在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。

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