大人になってから「絵を学びたい」と思っても、どうしてもコストが気になり一歩を踏み出せないことがあります。「絵はお金がかかる」と思われがちですが、実はポイントをおさえれば少ないコストで学ぶことができます。
今回は、大人が少ないコストで絵を学ぶためのポイントを5つお話しします。
目次
画材にお金がかからない方法で絵を描く
絵を描く方法はたくさんあります。
岩絵の具を使う日本画や油絵の具を使う油絵、ポスターカラーや色鉛筆もあります。
使う画材によってコストは大きく変わります。
子どものころに使った色鉛筆ならば、家にあるものがそのまま使えるかもしれません。
ポスターカラーならば、美大受験に対応できるものでも24色セットで9,000円程度です。
一度購入すれば、あとは買い足すだけなのでそれほどお金はかかりません。
ただ、日本画で使う岩絵の具や油絵で使う油絵の具は色によって値段が変わります。
安い絵の具ばかりにこだわっては表現が制限されてしまいます。
絵のコストは、画材の選び方で大きく変わるのです。
三原色で広がる色の世界を楽しむ方法
絵画教室でもよく使う方法として、色を混ぜて幅広い表現を楽しむ方法を学ぶとコストを抑えられます。すべての色をそろえる必要はありません。絵の具を買い揃えると意外とコストがかかりますが、実は三原色(赤・青・黄)と白・黒だけで、無限に近い色を作り出すことが可能です。この方法を使えば、色彩感覚を養うと同時に、絵の基礎知識を効率的に身につけられます。
三原色とは?
三原色とは、絵画の基本となる「赤・青・黄」の3色のことです。これらの色を組み合わせて、ほぼすべての色を作ることができます。以下に、三原色を使った色の混ぜ方と具体例を解説します。
色の混ぜ方を学ぶ:具体例と色相環を使った解説
- 色相環を理解する
色相環とは、色を輪の形に配置した図で、色の関係性を視覚的に理解するためのツールです。以下のように三原色から始め、混ぜることで二次色、三次色を作る流れを覚えましょう。- 赤 + 黄 = オレンジ
温かみのあるオレンジ色は、明るい風景画や果物の絵に使われます。 - 青 + 黄 = 緑
自然の風景に欠かせない緑は、この組み合わせで作れます。明るめの黄緑や深い森の緑は混色比を変えることで表現可能です。 - 赤 + 青 = 紫
高貴な印象を与える紫は、花の絵やファンタジー風のイラストに役立ちます。
- 赤 + 黄 = オレンジ
- 三原色に白と黒を加える
- 白を混ぜる:明度を調整
白を混ぜることで、パステル調の柔らかい色が作れます。例えば、青に白を混ぜると「空の色」、赤に白を混ぜると「桜の花びらの色」になります。 - 黒を混ぜる:暗さと深みを出す
黒を少量加えると、影や奥行きを表現できます。緑に黒を混ぜると深い森の色に、オレンジに黒を混ぜるとレンガのような色合いになります。
- 白を混ぜる:明度を調整
- 実験で学ぶ色彩感覚
初心者におすすめの練習法として「色見本作り」を試してください。以下のような手順で進めると効果的です。- ステップ1: 赤、青、黄をベースに、それぞれを少量ずつ混ぜて二次色(オレンジ、緑、紫)を作る。
- ステップ2: 白と黒を使って、明度(明るさ)と彩度(鮮やかさ)の違いを体感する。
- ステップ3: 混色した色をグリッド形式で記録し、色の組み合わせを把握する。
- 具体的な色の活用例
- 風景画: 青と黄で作る緑を使い、木々や草原を表現。白を加えれば朝霧に包まれた森を描けます。
- 静物画: 赤と黄でオレンジを作り、果物の肌や花びらに使用。黒を加えた影で立体感を出します。
- ポートレート: 肌色は赤、黄、白のバランスで表現できます。例えば、赤多めで暖かい肌色、青を少し加えると冷たいトーンの肌色が作れます。
デジタルツールを最大限に活用する
デジタル絵画は、初期投資さえ済めば長期的には非常にコスパの良い選択肢です。もし手持ちのタブレットがあれば、iPadやApple Pencilを使ってすぐに始められます。無料または低価格のアプリ(例: Procreate、Clip Studio Paint)を利用すれば、高価な画材を買わずにさまざまな表現技法を学べます。
また、デジタルツールは試行錯誤に最適です。キャンバスを無限に増やせるため、失敗を恐れずに描き続けることができます。さらに、独自のブラシやテクスチャをダウンロードして使用すれば、多彩な画材の特性を模倣でき、アナログ画材を買い足す必要もありません。
独学の「手探り学習」をやめる
大人になってから絵を学ぶ人の中には、市販の書籍や通信教育を利用して独学で頑張ろうとする人も多いようです。
コストだけを考えれば独学が一番コスパはいいように感じるかもしれません。
しかし、独学には落とし穴があります。
落とし穴とは、ひとつの教材だけでは満足できず、多くの教材を買い集めるようになってしまうことです。
「デッサンを学びたい」と思えばデッサン集やデッサンの基本技法が描かれた書籍を買い、「イラストが描きたい」と思えば別の書籍を買うことになり、結果的にかなりのお金をつぎ込んでしまうことになります。
美術のような専門書は単価が高いため、数冊買っただけで簡単に1万円を超えてしまうのです。
独学は、言い換えれば「手探り学習」です。
コストをおさえる意外なポイントは「急がば回れ」ではないでしょうか。
初めから絵画教室で必要最低限の教材や画材をそろえることが、結局は一番お金を節約することになるのかもしれません。
作品は最後まで描き切る(「プロセス」から学ぶ姿勢を)
意外なポイントですが1枚の作品を最後まで描き切ることが少ないコストで絵を学ぶ大切なポイントです。
大人になると先を見通せるようになり「このまま描いてもうまくいかない」と見切りをつけてしまうようになります。
途中で投げ出された作品から学べることはありません。
画材も時間も無駄に終わってしまいます。
たとえ「失敗した」と思っても、最後まで描き切った作品からは「今度はもっとこうしよう」と学ぶことができるのです。
絵画教室で絵を習うメリットは「最後まで描き切らなければならない状況である」ということです。
絵画教室では、ひとつのタイトルを途中で投げ出すことはなく、結果がどうあれ最後まで描き切って講評を受けることができます。
画材を買うときには「いいもの」を買う
少ないコストで絵を学ぶために一番やってはいけないことが「画材をケチること」です。
すべての道具を100円ショップでそろえたり、フリマサイトで数十年前のカチカチになった絵の具を購入したりすることはやめましょう。
なぜならば、安い画材は発色が悪かったり使いにくかったりすることが多いからです。
どんなに絵が上手な人でも色が悪い絵の具を使ってきれいな絵を描くことはできません。
画材を買うときには、安い画材を大量に買うのではなく、選び抜いた画材を必要分だけ買うようにしましょう。
絵画教室には、たくさんの画材が用意されています。
どの画材を買ったらいいのかわからないときには、買う前に先生に相談し絵画教室で試させてもらうといいでしょう。
おわりに
絵は、お金をかければいい絵が描けるということはありません。
その人に合った画材と描き方をみつけ、長く描き続けることが大切です。長く続けるためには、無理のないコスト管理が必要になります。
絵画教室の中には画材の販売をしているところもあります。先生の目で選んだ画材の中から購入することができるため、画材選びに自信がない人は積極的に利用するといいのではないでしょうか。
文筆:式部順子(しきべ じゅんこ) 武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業 サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。 在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。