子どもからの質問「美術って必要? 」に答えます

小中学生からよく「美術って生きていくのに必要?」という質問を受けます。
家庭科や英語は生活に直結して役立つのは想像がつきやすいですよね。でも、たしかに「モナ・リザの魅力」や「ゴッホの人生」を知らなくても生きていくことはできます。

それでは、なぜ学校で美術を学ぶのでしょうか?
今回は、子どもたちからの素朴な疑問「美術って必要?」にお答えしてみます。

受験だけならば美術は「副」の存在

中学校では、教科が「主要5科目(国語、数学、英語、理科、社会)」と「副教科(美術、技術・家庭科、体育、音楽)」に分けられています。主要科目は点数化しやすく、受験に直結することから「主要」と呼ばれます。一方、美術は「副教科」に分類され、受験当日の試験科目には含まれません。

たとえば、高校受験を考えると、美術で良い成績を取るよりも、英語の単語をひとつ覚えた方が内申点に直結することもあります。そのため、「受験」という観点から見ると、美術はどうしても他教科より軽く見られがちです。

美術は身の回りにあふれている

それでは、美術は本当に必要のない科目なのでしょうか。
答えは「必要な科目」です。

なぜならば、美術は身の回りにある一番身近な科目だからです。
「主要5科目と副教科4科目」の違いは、大切な科目とそうでない科目というわけではありません。
主要5科目には正解があり、点数化しやすいのです。一方の副教科は成果を数値化しにくい科目です。
そのため、受験では「副」となっているのではないでしょうか。

受験ではなく生活を基準にして考えると、美術は必要な科目です。
毎日着ている服をはじめ、家具や電化製品、文具からパッケージまで美術がなければ成り立ちません。
家や車もデザイナーがいます。

もしも生活に美術がなかったらみる楽しみや選ぶ楽しみがなくなってしまい、生活のうるおい度は一気に下がるでしょう。

筆者は、高校の授業で「人はパンのみにて生くるものにあらず」という言葉を習いました。
意味は「人間は食べていれば生きられるということではなく、精神的に満たされて生きることが大切」という内容だったと思います。

美術は、まさにパンでは足りない部分を補うものなのです。

美術の必要性は感性が育つとわかってくる

「生きるためだけならパンだけでいい」と思うかもしれません。
しかし人生にはさまざまなことがあります。

よく「自分へのご褒美」という人がいますが、人は自分で自分を上手に励ましながら生きているのではないでしょうか。

筆者は、美術の必要性は感性が育ってくるとわかるのだと考えます。
レオナルド・ダ・ヴィンチの名作「モナ・リザ」は技術的に素晴らしい作品といわれています。

しかし筆者の見方は少し違います。
実は「モナ・リザのモデルはレオナルドの母である」という説があるのです。
だからこそ、レオナルドは最期までモナ・リザだけは手元に残していたのではないかと言われているのです。

筆者は「レオナルド・ダ・ヴィンチみたいなすごい人でもお母さんをずっと慕っていたのか。
たしかにモナ・リザのほほえみは「お母さん」という感じ」と思いながら、小さな子どもになった見方でモナ・リザをみています。

また、身の回りに「グッドデザイン賞受賞」と書かれているものはないでしょうか。
筆者は「グッドデザイン賞」と書いてあると「人間の知恵とイマジネーションが生み出した作品」と感じ、宝石よりも魅力を感じます。

グッドデザイン賞とは、未来を切り開く構想力や豊かな生活文化を思い出させる力をもったデザインに与えられる賞です。
対象は、製品や建築のような形あるものだけでなく、サービスやシステムのような形がないものまですべてを含みます。

ペンを使うとき「ペンは書ければなんでもいい」と思う人もいるでしょう。
しかし、使うたびに「これは素晴らしい」と思うペンのほうが気分はよくなります。
美術の必要性は感性が育つとわかります。感性が育つと人生は豊かになります。

美術が生み出す「どたんば力」

美術はただ人生を豊かにするだけでなく、これからの時代を生き抜くための重要な力を育む科目です。その力とは、ゼロから1を生み出す力です。

世界が注目する「アートの力」

現在、大手企業の経営者や起業家の間で「アートを学ぶこと」が注目されています。たとえば、アップルの創業者スティーブ・ジョブズは、カリグラフィー(美しい書体)に魅了され、その経験がMacintoshの美しいフォントやデザイン性の高い製品づくりに繋がったことは有名です。このように、アートはビジネスの現場で価値を生む力として再評価されています。

背景には、これまでの「効率やルールに基づくやり方」だけでは乗り越えられない課題が増えている現実があります。例えば、既存の市場が飽和しているとき、同じような商品やサービスを繰り返しても顧客の心を掴むことはできません。そのため、新しい価値を生み出す力、すなわち発想力や想像力が求められているのです。

具体例1: 商品企画でのアートの力

新しい商品を企画する場面を想像してください。たとえば、スマートフォン市場。どのメーカーも「速さ」や「容量」などの性能向上を追求していますが、アート的な視点が加わるとどうなるでしょうか?

デザインやカラーバリエーションに工夫を加えたり、使い心地を人間の感覚に合わせて調整したりすることで、機能だけでなく感性に訴える商品が生まれます。これが、iPhoneが単なる「高性能なスマホ」ではなく、使う人に特別な所有感を与える理由のひとつです。

具体例2: ビジネスモデルの革新

ビジネスモデルを刷新する必要に迫られた場合も、アートの視点が重要です。たとえば、Netflixは単なる映像レンタルサービスから、ユーザーの視聴傾向を分析しながら独自のオリジナルコンテンツを提供するプラットフォームへと進化しました。その裏には「観る楽しさ」や「感動を届ける」という感性的な価値観が反映されています。

単に機械的な「データ分析」だけでは、このような変化は生まれません。むしろ、「ユーザーにどんな体験を提供したいか」というアート的な発想が、ビジネスを次のステージへ引き上げたのです。

これらの具体例から分かるように、美術やアート的な感性は、従来の枠組みを超えて新しい価値を創造する力を持っています。ただ正確に答えを出すだけでは解決できない課題に直面したとき、アートは自由な発想と想像力で乗り越える道を示してくれる科目が美術や音楽などの感性を育てる科目なのではないでしょうか。

おわりに

「美術って必要? 」と聞いてくる子どもたちは、美術は教科のひとつであり正解に近い答え(作品)を出すことが目的だと考えているのかもしれません。
本当の美術の目的は「自分の内面を表現し、豊かな感性で物事をさまざまな角度からみること」ではないでしょうか。
そしてそれは難しい計算や漢字が書けることよりも生きていくために必要な力だと筆者は思います。

文筆:式部順子(しきべ じゅんこ)
武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業
サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。
在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。

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