「理系と芸術は正反対」と思っている中高生は多いのではないでしょうか。
中高生が「デザインの仕事をしたい」と思ったとき、頭に浮かんでいる職業はファッションデザイナーやインテリアデザイナーがほとんどかもしれません。
実はデザインの世界は意外と理系で奥深く、さまざまな職業があります。
今回は、あまり知られていないデザインの職業を紹介し、デザインの奥深さをお伝えします。
目次
公園や学校もデザインする「ランドスケープアーキテクト」
ランドスケープとは景色や風景を意味します。
アーキテクトは建築士という意味です。
つまり、ランドスケープアーキテクトは景色をまるごとデザインする人です。
具体的には、公園や広場など自然と人工物が共存している空間をデザインします。
もっと規模が大きくなると街のデザインや都市整備に関わることもあります。
現代は「自然と都市の共存」という言葉が当たり前に聞こえる時代です。
自然というデザインとはかけ離れたものを扱って、人工的に景色をデザインする職業は時代に求められている職業ではないでしょうか。
ランドスケープアーキテクトになるためには、特別な資格は不要ですが建築や植物の知識は必要です。
美大の環境デザインや建築学科で学び、建築事務所や自治体で働くことが多いでしょう。
日本のランドスケープアーキテクトで有名な人には「星のや軽井沢」や「横浜ポートサイド公園」をデザインした長谷川浩己氏がいます。
布をデザインする「テキスタイルデザイナー」
テキスタイルデザイナーとは、布のデザイナーです。
筆者は美大を卒業し就職活動をするときにネクタイのメーカーを受けたことがあります(結果は不採用でしたが)。
ネクタイのデザインは、布地のデザインから始まります。
筆者が受験したころは手描きでデザインをしている人もいましたが、現在は織物用のデザインソフトを使ってペンタブで描くことが多いようです。
布地は1枚の絵だけでなく、ひとつのパターンを繰り返すデザインが多く、繰り返した場合の見え方を計算する必要があります。
テキスタイルデザインの大きな特徴は、作品の完成形がわからないということでしょう。
布をデザインしたとしても、デザインした段階ではバッグになるのかカーテンになるのかわかりません。
完成形によってはテキスタイルデザイナーの想像を超えた作品になることもあります。
テキスタイルデザイナーは、布地の絵柄デザインだけでなく、染めや織りの知識も必要です。
美大の工芸科では、染めや織りの技術を学べるところもあります。
日本の有名なテキスタイルデザイナーには、須藤玲子氏がいます。
他にも日本人テキスタイルデザイナーはフィンランドなどの海外でもたくさん活躍しています。
空気をデザインする「インスタレーション作家」
インスタレーション作家は、彫刻や絵画のようにひとつの塊を作品として作るのではなく、ひとつの空間をデザインします。
日本では、デジタルカウンターを使った作品が知られている宮島達夫氏やルイ・ヴィトンとコラボレーションした草間彌生氏が有名です。
インスタレーションの特徴は、彫刻や絵画のように作品と向き合って鑑賞するのではなく、デザインされた空間の中に鑑賞する人が入り込んで「感じる」ことです。
インスタレーションは現代美術であり、油絵や彫刻という美術のジャンルを飛び越えています。
彫刻や絵画のように長く時代を超えて残る作品を目指すというよりも、展示された場所で、かつリアルタイムで感じること自体が作品になっています。
そう考えると、インスタレーション作家は空気と時間をプロデュースする人ともいえるのかもしれません。
インスタレーション作家になるためには、感性が一番求められます。
油絵科やデザイン科というジャンルのこだわりは必要ないでしょう。
拡張現実で空間をデザインする「デジタルメディアアーティスト」
デジタルメディアアーティストとは、現実と空想をコラボレーションさせたデザイナーです。
例えば、スマートフォンの中に広がる世界と現実の世界を組み合わせた「ポケモンGO」があります。
拡張現実と似た言葉に仮想現実がありますが、仮想現実はバーチャルリアリティ(VR)のことで現実の世界ではなく、すっぽりと仮想現実の中に入りこみます。
デジタルメディアアートが広く知られたのは2016年のリオオリンピックで公開された動画ではないでしょうか。
真鍋大度氏のチームによって制作された動画は、日本が誇るゲームキャラクターと当時の首相が協力している演出で、見ている人たちは拡張現実の世界に入り込むことができました。
デジタルメディアアートは、新しい芸術であり、デジタルメディアアーティストは少ないです。
真鍋氏は東京理科大学を卒業し、システムエンジニアとして働いていました。
デザインの世界には、意外と数学的な要素も多いのです。
おわりに
筆者が卒業した基礎デザイン学科は英語にすると「SCIENCE OF DESIGN(デザインの科学)」と訳します。
同級生の中には偏差値70以上の高校から入学してきたり、理系の大学から転校してきたりした人もいました。
デザインは感覚よりも論理的な部分が多いのです。
「私は理系だから美術は無理」「私は芸術家肌だからチームは無理」ということはなく、奥深いデザインの世界だからこそどんな人にでも活躍の場や得意な分野をみつける可能性があります。
文筆:式部順子(しきべ じゅんこ) 武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業 サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。 在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。