アートには、平面の絵や立体の彫刻だけでなく空間演出もあります。
空間演出とは、舞台美術や店舗設計、照明デザインです。
冬は日没が早く、さまざまなところでイルミネーションが始まります。
規模が大きい空間演出に触れる絶好のチャンスです。
今回は、関東近郊で冬に行われるアートイベントを紹介します。
目次
【横浜】横浜赤レンガ倉庫「クリスマスマーケット」
クリスマスマーケットはドイツで始まったイベントです。
横浜赤レンガ倉庫では、2010年から始まりました。
2022年は11月25日から12月25日まで開催されます。
会場には、本格的なドイツ料理の屋台「ヒュッテ」や本場ロシアの「マトリョーシカ」など普段はあまり目にしないヨーロッパのおしゃれな雑貨がたくさん並んでいます。
買い物や食事がメインのイベントですが、外国の雰囲気が漂う空間演出や照明デザインに触れるチャンスでもあります。
日が暮れるとシンボルである大きなクリスマスツリーを中心にしてヒュッテに照明がつきます。
ヒュッテが立ち並ぶ赤レンガ倉庫は夜になっても明るいのですが、色数をゴールドとシルバーに抑えてあるためギラギラとした感じはなく、本場の静かなクリスマスを感じる演出がされています。
夜まで待てない子どもを一緒ならば、ワークショップがおすすめです。
「クリスマススワッグ」は、針葉樹に好きなパーツを組み合わせて作るクリスマスの飾りです。
リースよりも自由度が高いため、子どもでも簡単に挑戦することができます。
【東京・稲城】よみうりランド「ジュエルミネーション」
よみうりランドでは、照明デザイナー石井幹子氏による光のパフォーマンスが行われています。
「ジュエルミネーション」は、ジュエル(宝石)とイルミネーションをくっつけた言葉です。
クリスマス近くになると、トンネルを光で飾ったり、花壇や木に照明を巻き付けたりしてイルミネーションを楽しむ場所はたくさんあります。
しかし「ジュエル(宝石)」というひとつのテーマでパーク全体を空間演出している場所はあまりありません。
光一つ一つが宝石のように輝いているだけではなく、ホースシュー(馬蹄)やサファイアなど場所ごとに小さなテーマもあります。
また、上から見ると円錐状にライトアップされた木には大きなネックレスがかけられているような演出もあります。
近くで見たときと遠くから見たときと全く違う見え方を楽しむことができます。
まるでパークが宝石箱になっているようです。
よみうりランドの照明デザインの素晴らしいところは、イルミネーション以外の照明を暗く落としているところです。
余計な照明を落とし人の顔を認識しづらくすることで、混みあっていても「他人」を感じず、光の世界を楽しむことができます。
【東京・恵比寿】恵比寿ガーデンプレイスの「バカラのシャンデリア」
恵比寿ガーデンプレイスでは、冬になると高さ約5m、横幅約3m、クリスタルパーツ8,500ピース、ライト250個の大きなバカラのシャンデリアが登場します。2022年は11月12日から2023年1月9日まで展示されます。
バカラとは、フランスのクリスタルガラスの老舗です。
結婚式のお祝いや引き出物に使われるバカラのワイングラスは1客数万円する高級品です。
ワイングラス数千個分のクリスタルガラスを使っているのではないかと思う大きさのシャンデリアが毎冬無料で見られる場所が恵比寿ガーデンプレイスです。
イルミネーションの多くは日没から始まりますが、バカラのシャンデリアは期間中11時から23時まで点灯します。
点灯式には多くの人たちが集まり、クリスマス音楽が流れます。
スマートフォンでシャンデリアだけを撮影する人がほとんどですが、筆者のおすすめはシャンデリアと後ろに見えるビルと空のコラボレーションです。
意図した演出なのかはわかりませんが、殺伐としたビルと都会の空を背景に輝く大きなシャンデリアは人工物と自然物を照らす光の塊に見え、現代美術のような雰囲気があります。
夜になり、月が出てくるとまるで異世界の空間のようです。
シャンデリアは、透明の大きなケースに入っていますが、ケースさえもオブジェのような美しさがあるのです。
恵比寿ガーデンプレイスには東京都写真美術館もあります。
東京都写真美術館は、写真と映像を専門にしている美術館です。植物や風景の美しさを撮影した作品というよりも、イメージや空気感のある作品を扱うことが多いように感じます。
バカラのシャンデリアと都会のビルと空のコラボを感じた後に訪れてみてはいかがでしょうか。
おわりに
空間を演出するアートは、絵や彫刻のように「作品と人」ではなく、作品の中に人が入り込み体感するアートです。
規模が大きい作品ほどインパクトは強く、感性を刺激します。
「アートはよくわからない」という人でも空間演出は「きれい」「すごい」と誰もが感じることができる身近なアートです。
今年の冬は身近な空間演出のアートに触れてみてはいかがでしょうか。
文筆:式部順子(しきべ じゅんこ) 武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業 サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。 在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。