子どもの個性を伸ばす絵画教室の選び方

子ども向けの絵画教室はたくさんあります。
それぞれの教室には、目指す目標やモットーがあり、子どもの特徴にあった教室を選ぶことが大切です。

今回は、絵を描く技術や受験ではなく「個性を伸ばせる教室」を選ぶポイントをお話しします。

「常識の形」にとらわれない教え方をしている

お受験や美大受験を目的として絵画教室に通うならば、合格レベルの作品や採点者の目に留まる描き方を教えている絵画教室を選ぶことになります。
合格者に共通している描き方や制限時間内で描き上げるためのテクニックなどを習います。
しかし、個性を伸ばす絵画教室を選ぶならば常識や傾向にとらわれない教え方をしている教室を選んだ方がいいでしょう。

例えば、ニンジンを描くときにお受験ならば逆三角形でオレンジ色のニンジンを描くべきです。
しかし、個性的な子どもや観察力のある子どもは「ニンジン=逆三角形」「ニンジン=オレンジ色」と決まってはいません。
足が生えたようなニンジンもあれば赤色にちかいニンジンもあります。
二又に分かれた赤いニンジンを描けば受験では「正解」ではありません。

しかし二又の赤いニンジンを描いた子どもは、実際に畑でニンジンに触ったり、ニュースで話題になったりしたニンジンに衝撃を受けた経験に基づいて絵を描いています。
それらの貴重な経験や柔軟な思考を否定して「常識の形」を求めては個性をつぶしてしまいます。

個性を伸ばせる絵画教室は、常識の形にとらわれることなく、子ども一人一人が描いた絵を作品として認めます。
子どもが四角いおにぎりを描けば「具は何? 」と想像力を膨らませるお手伝いをします。
個性を伸ばすためには、まるごと受け入れることが大切なのです。

子ども一人一人のいいところをみつけて褒めることができる

子ども向けの絵画教室は、複数人の子どもをまとめて指導しています。
グループには、メリットもありますが、デメリットもあります。

人と比べてしまう子は、自分の絵をほかの子どもの作品と比べることで良し悪しを決めてしまいます。
自信を失っているときに先生が「あなたの絵は色が素晴らしい。どうやって作ったの」と声をかけてくれれば、自信をもつことができるでしょう。

「グループの中で一番素晴らしい」と褒めるのではなく、その作品をみつめて魅力を伝えてくれる先生がいる絵画教室は個性を伸ばせるでしょう。

また、よくある褒め方で「みんなすごい」があります。
競争心が強い子は「みんな」では満足できず、競争心に火がつきます。
勝つことだけが絵を描く目的になってしまい、個性を伸ばすどころではなくなってしまうのです。

個性を伸ばせる絵画教室は、お互いを刺激できるグループのメリットを生かしつつ、一人一人のいいところをみつけて具体的に褒めることができます。

悪い雰囲気に素早く気がつき対処できる

子どもが集まれば少なからず問題は起こります。
いじめは大きな問題ですが、おしゃべりがうるさかったり、物を貸したりする小さな問題もあります。

「うちは問題やトラブルが一切ありません」という教室は、問題がないのではなく問題に気がついていないのではないでしょうか。
子どもが集まれば何かしら起こるものであり、子どもはそれらを経験しながら成長します。
大切なことは、トラブルがゼロであることではなく、トラブルが起きたときの対処の仕方です。
トラブルや問題は、表面に出る前に小さな芽や悪い雰囲気があります。

先生がいち早く悪い雰囲気に気がつき、目を配り、場合によって迅速に対処できる教室が一番です。
個性は、意外ともろいです。
だれかに否定されたり馬鹿にされたりすると子どもは個性を隠します。
子どもがのびのびと個性を発揮できる環境づくりができている教室で子どもの個性は伸びます。

保護者との連絡が密に行われている

子どもの本当の個性を見抜くことは難しいことです。
絵画教室では静かでおとなしいけれど、家に帰ると歌ったりふざけたりする子もいます。

個性を伸ばすためには、先生が子どもの本当の内面を知り「伸ばすべき個性」を把握しておいたほうがいいでしょう。
週数回1時間のレッスンだけでは、子どもの内面をすべて知ることはできません。
子どもの内面を知るためには、子どものことをよく知っている保護者とのコミュニケーションが欠かせません。
先生と保護者が話をする機会や連絡ノートがあれば便利です。

また、子どもの作品や様子をみて気がついたことがあればメモにして先生に渡してもいいでしょう。
先生に直接言えなくてもおうちの人には自分の気持ちを話せる子どもはたくさんいます。子どもの小さな声に保護者と絵画教室が一丸となって耳を傾けていれば、子どもは安心して個性を発揮することができます。

無理をさせない

体も心も余裕がなければ個性を伸ばすことはできません。
余裕がなければ課題や時間をこなすだけで精一杯です。

子どもは、心も体も未熟です。
体が疲れて絵に集中できない日もあれば、気がのらないモチーフのときもあります。
「すべての作品に全力で取り組め」では子どもに無理をさせてしまうでしょう。

個性を伸ばす絵画教室は、調子のいいときは褒めて伸ばし、気分がのっていないときは強制しません。
無理してやらせれば、別のどこかにしわ寄せが出ます。
子どものやる気を待つ余裕も個性を伸ばすためには必要なことではないでしょうか。

おわりに

個性がない「みんなと同じ絵」は難が無く、文字通り「無難」です。
個性が強い絵は「難が有る」こともありますが「有難い(ありがたい)」ととらえることもできます。
人の心に届く絵は、無難な絵ではなく、有難い絵の方です。
今は子どもが「これは難だ」と思える絵を描いていたとしても、それは個性となり、いずれは「魅力のある絵」になるはずです。
子どものうちは、技術やテクニックを伸ばす絵画教室よりも個性をのびのびと伸ばし、ストレスなく描ける環境が整った教室を選ぶ方がいいのではないでしょうか。

文筆:式部順子(しきべ じゅんこ)
武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業
サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。
在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。

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