絵を好きな人には、それぞれに「好きになったきっかけ」があります。特別な経験があった人もいれば、日常のふとした瞬間に興味を持った人もいるでしょう。しかし、共通して言えるのは、絵を好きになるきっかけは意外と身近なところに潜んでいるということです。
今回は、著者が美大生時代に聞いたさまざまな「絵を好きになったきっかけ」を掘り下げながら、中高生の心理に寄り添い、より具体的に解説していきます。

目次
身近な人が絵を描いていたから
「絵を描くことが日常の一部だった」という人は意外と多くいます。たとえば、親が画家やデザイナー、あるいは趣味で絵を描いていた場合、小さいころから画材に触れる機会が多く、自然と絵を描くことが習慣になったというケースです。
しかし、「身近な人」は家族だけではありません。学校の美術の先生や友達も大きな影響を与えることがあります。
美術の先生の影響
中高生の時期は、周囲の大人の影響を強く受ける時期です。美術の先生が情熱的に授業をしていたり、自分の作品を見せてくれたりすると、「自分もこんな風に描いてみたい!」と思うことがあります。また、先生の何気ない一言が、絵に対する興味を深めることもあります。
たとえば、授業中に先生が「この描き方は面白いね」「この色の使い方、いいね」と褒めてくれると、絵に対する自信がつき、もっと描きたくなるものです。
友達の影響
友達が絵を描くのが上手だったり、ノートの端に落書きをしているのを見て、「自分も描いてみたい」と思ったことがある人は多いのではないでしょうか?
特に中高生の時期は、友達と同じことに興味を持ちやすい年頃です。「友達が絵を描いているから、自分もやってみよう」という気持ちがきっかけになり、いつの間にか夢中になっていたという話もよく聞きます。
また、友達同士でお互いの絵を見せ合い、「ここをこうしたらもっと良くなるよ」とアドバイスし合うことで、絵のスキルが上がっていくのも大きなポイントです。ライバルのように刺激し合う関係が、絵を描くモチベーションにつながることもあります。
好きな絵本やアニメがステキだったから
子どものころに読んだ絵本や見たアニメが、絵を好きになる大きなきっかけになることもあります。特に、中高生の多くは「アニメやマンガをきっかけに絵を描き始めた」という人が少なくありません。
アニメ・マンガの影響
日本のアニメやマンガは世界的にも評価が高く、多くの人に影響を与えています。好きなキャラクターを自分で描いてみたくなるのは自然な流れでしょう。
最初は真似から始まります。「このキャラクターを描きたい!」という気持ちがきっかけで、何度も繰り返し描いているうちに、自然とデッサン力がついていきます。そして次第に、「このキャラクターをもっとカッコよく描きたい」「オリジナルのキャラクターを作ってみたい」と発展していくのです。
絵本の影響
一方で、幼少期に読んだ絵本の美しいイラストが心に残り、「自分もこんな絵を描いてみたい」と思うようになった人もいます。絵本は、文字が少なく、絵が主体となるメディアです。そのため、子どもにとっては最初に触れる「アート」とも言えるでしょう。
特に個性的なイラストの絵本に出会うと、「絵は自由に描いていいんだ」と感じることができ、創作意欲が刺激されます。
人気のある絵本すべてが「うまい絵」ではありません。
ブルーナの絵本のようにとてもシンプルな線だけで描かれた絵や数色だけで構成されている絵もあります。
絵本は、絵を身近に感じさせ「自分も絵が描きたい」と思うきっかけになるのです。
絵本やマンガは、自分で描いて楽しむだけでなく投稿する楽しさもあります。
絵本やマンガは画力以外も多くの要素が必要になるため幅広い観点から評価されるのです。
多少画力が足りなくても、ストーリーがおもしろければ高評価されることもあり、自分の作品に自信をもつことができます。
画力が足りなければ、画力はトレーニングすることで向上します。

自分の作品が褒められたから
「自分の作品を誰かに褒められたことがきっかけで、絵が好きになった」という話はとても多いです。人間は、認められると嬉しくなり、その行動を繰り返したくなるものです。
家族や先生に褒められる
親や先生に「上手だね!」と言われた経験があると、「もっと描きたい!」という気持ちが芽生えます。特に中高生の時期は、自己肯定感が大きく影響するため、少しの褒め言葉が大きなモチベーションになります。
コンクールやSNSで評価される
最近では、コンクールに応募したり、SNSにイラストを投稿することで、多くの人からフィードバックをもらうことができます。
・学校の美術展やコンクールで入賞した ・SNSで「いいね」やコメントをもらった ・友達から「この絵、すごいね!」と言われた
こうした経験が、「もっと描きたい!」という気持ちにつながり、絵を好きになるきっかけとなるのです。
自分が絵を描いたとき、家族や先生に褒められるとやる気がでます。
ただ褒められるだけでなく、自分の作品がコンクールで入賞すれば自信になり、継続する力になるのです。
「美大生は美術館が好き」と思う人が多いかもしれません。
しかし、美大生は美大に入学するまでは、それほど美術館に行っていない人も多いのです。
筆者もそうでした。
美術館に飾ってある作品よりも自分の作品のほうに興味があるのです。
美術館で有名な作品をみるよりも、自分の作品で展示会を開き、多くの人にみえてもらう方に興味がわきます。
つまり、絵を好きになったきっかけは、鑑賞よりも自ら描くことなのです。
「レオナルダ・ダ・ヴィンチの作品との出会いに衝撃を受けて絵が好きになった」という人は、鑑賞する立場として「好き」なのでしょう。
もしも、子どもを絵が好きな人にしたいと思うならば、美術館に行って有名な絵画をみせるよりも、自由な発想で絵を描かせてそれを認めることのほうが「好き」に近づくのではないでしょうか。
絵を好きになるきっかけをつかむポイント
何かを好きになるときには、好きになるものとの接点が必要です。
絵本やマンガは、誰もが出会える接点です。
学校の授業もみんなが経験します。
絵画教室は、絵を描く環境と人の両方の接点をもっています。
絵を好きになるきっかけは、身近に画家がいなくても、みんな同じようにあるのです。
大切なことは、接点をみつけた後の行動です。
せっかく絵を好きになるきっかけをみつけても、自分のこととして取り入れなければ「きっかけをつかむ」までたどり着くことができません。
自分で絵を描いたならば誰かにみてもらい、表に出すことが大切です。表に出すことが継続する力になります。
おわりに
紹介した以外にも絵を好きになったきっかけがゲームやお菓子のパッケージだった人もいました。
子どものころにやっていたゲームの背景やキャラクターに感動し、自分のイメージした空想世界を表現するために絵を描き続けている人もいました。
彼は美大卒業時に描き貯めた絵を大手ゲーム会社に持っていき就職が決まりました。
就職氷河期といわれる時代でしたが「好き」と思い続け描き続けたことが大きな結果を生んだのだと思います。
「きっかけ」は接点です。
点を線にする力はスキルではなく「好き」という気持ちではないでしょうか。
文筆:式部順子(しきべ じゅんこ) 武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業 サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。 在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。