油絵は、絵の具の特性から独特の流れがあります。
手順を間違えてしまうと、せっかく完成した作品にひびが入ってしまったり、絵の具が剥がれたりすることがあります。
今回は、油絵が完成するまでの流れを、順を追ってわかりやすく解説します。

目次
道具と描く環境を準備
最初は道具と環境を整えることから始まります。 油絵は、少し描いたら乾かし、また少し描いたら乾かす作業を繰り返します。
リビングや庭に近い場所はほこりが出やすく、作品にほこりが付着してしまう可能性があるので、描く環境は、ほこりが出にくく絵の具で汚れてもいい場所を準備しましょう。とくに床は汚れやすいので、ビニルシートを敷くなどして対策しておくのが重要です。
また、適切な光源を確保することも大切です。 自然光が理想的ですが、時間帯によって光の向きや強さが変わるため、一定の光を確保できるLEDライトを併用すると良いでしょう。
モチーフ選びと配置
モチーフ選びは、絵の描きやすさを決める大切なポイントです。 初心者は4つのポイントを踏まえて選びましょう。
- 腐りにくいモチーフを選ぶ 油絵が完成するまでにはかなりの時間がかかります。 時間とともに変色したり形が変わったりするものは避けましょう。 例えば、果物は時間が経つと変色するため、初心者には難しいモチーフです。
- 原寸大で描けるモチーフを選ぶ 拡大したり縮小したりせず、見たままを描ける方が初心者向きです。 小さすぎたり大きすぎたりするモチーフは、バランスを取るのが難しくなります。
- 異なる質感を持つモチーフを組み合わせる 色や大きさや質感が異なるモチーフを組み合わせることで、より変化が出しやすくなり、空間も表現しやすくなります。 例えば、布のしわや陶器の光沢などを取り入れると、絵に奥行きが生まれます。
- 自分が「描きたい」と思えるモチーフを選ぶ 描く意欲が湧くモチーフを選ぶことで、制作がより楽しくなります。 静物画だけでなく、風景や人物画に挑戦するのも良いでしょう。
配置は「構図」ともいいます。 構図の良し悪しで絵の雰囲気が決まると言っても過言ではありません。 時間をかけて「どの構図が一番しっくりくるか」を考えましょう。

デッサンもしくは下描き
油絵は、いきなり絵の具で描くのではなく下描きをします。
下描きは、3Bくらいの濃い鉛筆や木炭を使ってデッサンします。
もしも写真をもとにして描くならば、デッサンではなくカーボン紙で写し取って下描きとすることもできます。
元の写真をキャンバス大にコピーして使います。
鉛筆や木炭でデッサンをした場合は、フィキサチーフ(定着スプレー)を使って定着させます。
フィキサチーフを使わずに絵の具をのせると、鉛筆や木炭が絵の具と混ざりあってしまいデッサンが消えてしまいます。
カーボン紙で写し取った場合は、フィキサチーフは使いません。
デッサンは、絵が完成すると見えなくなってしまう部分です。
しかし、デッサンの段階でしっかりと光の方向やモチーフの形を観察することが、その後の絵の奥深さを決めます。
下色をつける
油絵に使うキャンバスは、買ってきた状態のままでは絵の具がつきにくいです。
そのため、テレピンで溶いた絵の具で下色をつけます。
日本画では下地に胡粉(貝殻から作った顔料)を使います。
テレピンがないときには、絵の具とペインティングオイルを1対4で混ぜて、サラサラの絵の具を作ります。これを「おつゆ描き」といいます。おつゆ描きは、1色ですべてを描きます。
背景もモチーフも残さずおつゆ描きで塗ります。
下色をつけたらしっかりと乾燥させます。
・色を塗る
キャンバス全体に下色をつけたら、いよいよ色をのせましょう。
油絵の特性は、乾いた状態ならば上からいくらでも塗れることです。
失敗を恐れずにさまざまな描き方や塗り方に挑戦しましょう。
「色を塗る」と聞くと、筆で絵の具を引き延ばして描くイメージかもしれませんが、油絵はさまざまな表現ができます。
ゴッホのように厚塗りをしたり、モネのように点描で描いたり、ダ・ヴィンチのようにスフマート(サラサラの絵の具を何層にも重ねて輪郭線を出さないこと)で描いたりすることもできます。
仕上げと乾燥
絵が完成したら、絵の具をしっかりと乾燥させます。
ほこりが出ない床から離れた場所に絵を置き、直射日光を避けます。
できれば半年以上は乾燥させますが、乾燥までにかかる時間は使ったオイルによって変わります。
しっかりと乾燥したら作品を守るためにワニスを塗ります。
ワニスは、透明な液体です。
スプレータイプとボトルタイプがありますが、初心者は簡単に使えるスプレータイプがいいでしょう。
完成した絵は、額装して飾ります。
額縁は大きな画材店で取り扱っています。
額の選び方次第で絵の見え方はガラッと変わります。
おわりに
油絵は、一気に描き進めずコツコツと積み重ねていく楽しさがあります。
油絵の具は、使うオイルの種類や配合によってつやを出したり透明感を出したりすることができます。
塗り方もウェットインウェットやグレージングなどさまざまなテクニックがあります。
油絵は独学で学ぶこともできますが、多くのオイルや道具を使いこなし、表現の幅を広げるにはプロの指導があったほうが望ましいでしょう。
また、小さな子どもやペットがいる場合は、オイルや絵の具を口に入れることがないようにしなければなりません。
リスクを避けるためにも「教室やアトリエで描くこと」をおすすめします。
文筆:式部順子(しきべ じゅんこ) 武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業 サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。 在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。