美術や絵が好きでも、必ずしも得意とは限らない。興味を職業につなげる方法

中高生で美術が好きな人は、美術の道に進みたいと思うかもしれません。
しかし、美術や絵が好きなことと絵が得意なことはなかなか一致せず「絵はうまくないけど絵や美術に関係する職業に興味がある」という人もたくさんいます。

今回は「絵を描く職業」ではなく「絵を使う職業」で意外なものを紹介します。
絵が苦手でも美術や絵に関する職業に就くことはできます。

絵画修復師――美術を守る仕事

絵画修復師(または美術修復家)は、古い絵画や美術作品を修復し、元の状態に戻す仕事です。近年では、古くなった作品だけでなく、洪水や地震など自然災害で傷んだ作品の修復依頼が増加しています。

この仕事に就くためには、美術史や画材に関する幅広い知識が必要です。たとえば、100年前の作品を修復する際には、当時使用されていた画材や技法を理解している必要があります。また、修復は自分の創造性を表現するものではなく、作家の意図を忠実に再現することが求められる点が、絵を描く仕事と大きく異なります。

発想力が求められる「創作」が苦手な人でも、「集中力がある」「美術の知識を深めるのが好き」という人には向いている職業です。

法廷画家――ニュースの一部を絵で伝える

ニュース番組の中で、裁判所の様子を伝える絵が登場することがあります。
法廷内で撮影することはできないため、傍聴席から絵を描き法廷内の様子を伝えます。

裁判の様子を伝えるためには、事実に忠実であるだけでなく被告の表情や様子がわかる場面を切り出す必要があります。
さらに限られた時間で描き上げなければならないため、スピードも求められる仕事です。

絵や美術の職業は、画家やマンガ家など日常生活や現実とは離れたイメージがあるかもしれません。
しかし法廷画家のように報道としての職業もあります。

この仕事では、事実を忠実に再現するスキルに加え、裁判の重要な場面や被告の表情など、伝えるべきポイントを瞬時に捉える力が求められます。また、短時間で絵を完成させるスピードも重要です。

法廷画家は「画力」よりも、物事の本質を見抜き要点を絵に落とし込む能力が重視されます。ただし、需要が不定期で収入が安定しにくいことから、副業として活動する人が多いのが現状です。

意匠審査官――美術と安定した職業の融合

美術や絵の道に進むと安定した職業に就けないと思われがちです。
たしかに、美大を卒業してからアルバイトをしながらフリーランスで絵を描き続ける人もたくさんいます。

一方で、安定した収入を求める人もいます。
企業のデザイナーとして就職する人もいます。
また意外に思われますが公務員になる人もいます。
美大を卒業して公務員になる人は、教員や学芸員が多いです。
そして国家公務員である「意匠審査官」になる人もいます。

意匠審査官とは、特許庁に勤務する人で特許の審査や意匠(デザイン)に関する仕事をします。
国家公務員のため試験に合格して採用されなければなりません。
自分自身が絵を描く仕事ではありませんが、まさに絵の知識やデザインの知識を使う職業です。

絵を使うメリットに気がつけば仕事は生まれる

絵を使う職業は、年々変わっています。
昔はあった職業が今は消えていたり、昔なかった職業が新しく生まれていたりすることもあります。

例えば、昔はパッケージデザインをするためにはコンセプトにあったデザインが描ければよかったのかもしれません。
しかし、今はラベルレスや包装の削減が進められています。

さらにデザインに関する優秀なソフトもたくさん誕生しています。
パッケージデザインをする人は、いい絵が描けるだけでなく、絵を使うWEB知識やマーケティング知識が求められる時代です。

ただ、新しい時代に登場した職業もあります。
LINEのスタンプデザインやホームページのデザインは、昔はなかった職業です。

人が何かを始めるとき必ず絵やデザインの出番はあります。
ラベルレスになったら外箱のデザインが重要になります。包装資材を削減するならば、それに代わる広告宣伝の方法を考える必要があります。

「絵」「デザイン」と単体で考えるのではなく、より大きな視野で物事をみれば「絵を使うメリット」に気がつき、新しい仕事をひらめくことができるのではないでしょうか。

早く気がつき、早く行動にうつせる力が絵を使う職業には必要なことかもしれません。

おわりに

絵を使う職業はどんどん増えています。
ただし、どんどん増えるかわりにどんどん消えている職業があることも事実です。

そして、これは美術や絵に関する職業に限らないことです。
目まぐるしいはやさで変わっていく世界では、必要とされる職業も変わっていきます。

絵は言葉を超えて使えるコミュニケーションのツールであり、美術は国境や時代を越えて感動を伝えることができます。

目の前にある職業の名前は変わっても、絵や美術にできることや魅力は変わりません。
時代の流れを感じ、時代に応じた「絵の使い方」を考えることができれば、絵を使う職業は時代に関係なく必要とされる職業ではないでしょうか。

文筆:式部順子(しきべ じゅんこ)
武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業
サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。
在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。

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