大人になってから絵画教室に通う人が増えています。
ただ単に「絵が描けるようになりたいから」という動機だけではなく、仕事や資格そして新しい日常が影響していることも多いようです。
今回は、大人になってから絵画教室に通う人の意外な動機を紹介します。
目次
外科医や皮膚科医など、お医者さんの場合
医療の現場で働くお医者さんの中には、絵画教室に通う人もいます。外科医や皮膚科医など、正確なイラストが必要な場面が多いからです。
たとえば、外科医が手術計画を立てる際に、患者さんの体の内部構造や手術手順を説明するためにイラストを描くことがあります。これらの図は患者さんへの理解を深めるだけでなく、チームでの共有にも役立ちます。
また、皮膚科医は皮膚疾患を記録する際に症状の変化を絵で記録することもあります。写真では捉えきれない微妙な違いを表現できるため、絵を描く技術が求められることもあるのです。
こうしたスキルを磨くために絵画教室に通い、観察力や描写力を高めようとする医師が増えています。
研究者の場合
研究者にとっても絵を描く技術は重要なツールとなる場合があります。特に、新しい設備の開発やアイデアを具体化する際には、ラフスケッチを用いることが少なくありません。
たとえば、ある科学者が新しい実験装置を設計する際、複雑な構造を図面に起こす前に、まずスケッチで全体像を描きます。研究チーム内でイメージを共有したり、アイデアを議論するために視覚的な補助が必要だからです。
絵画教室では、単に絵を描くだけでなく、形や空間を的確に捉える力を鍛えることができます。そのため、研究者たちがデザイン力やプレゼン能力を向上させるために絵画教室に通うケースも増えています。
フラワーコーディネーターの場合
華やかな空間を彩るフラワーコーディネーターにとっても、絵を描くスキルは大いに役立ちます。お花を生ける際に、完成イメージをお客様に共有するためです。
たとえば、結婚式の会場装飾を依頼されたコーディネーターが、どのような花をどこに配置するかをお客様と話し合う際、イメージ図を描いて説明することで、より具体的な提案が可能になります。
「この部分にはバラを中心に」「ここにグリーンでアクセントを」といった細かなポイントも、スケッチで伝えることでお客様の理解が深まり、信頼感にもつながるのです。
絵画教室では、色の使い方や構図の取り方を学べるため、フラワーコーディネーターのスキルアップに貢献します。
こうした理由から、絵画教室に通う大人が増えています。ただ絵が上手くなるだけでなく、仕事の質を高めるスキルとしても役立つのが絵画教室の魅力です。「初心者でも大丈夫」という安心感もあり、多くの人が自信を持って新しい一歩を踏み出せる場所になっています。
その他にもライフスタイルに合わせて絵を習い始める人もいらっしゃいます。
旅行先で絵を描きたいから
数十年前は、旅先に大きな一眼レフカメラを持っていき、撮影することが旅行の楽しみ方でした。
スマートフォンが登場してからは「スマホで撮影」が一般的になり、撮影だけでなく投稿する楽しみも増えました。
しかし、新型コロナウイルスの影響により、人込みでスマホを構えることが難しい時代になったのです。
そこで注目され始めたことが「絵に残す」です。
旅先で人込みを避け、ゆっくりとスケッチブックに向かう時間は至福のひと時です。
しかし、屋外でスケッチブックを広げることは意外と勇気が必要です。
通行人がスケッチブックを覗いてくることもあり「見られてもいい腕がほしい」と感じ、絵画教室の門をたたく人もいます。
絵画教室では、一人一人にあった描き方を指導しています。
旅先では短時間で描く技術があると役立つでしょう。
スマホで撮影することは、誰でも簡単にできるメリットがあります。
しかし、旅先で絵を描いた経験は描いたときの空気とともにずっと心に残ります。
副業を始めたいから
副業を始める人が急増中です。
今までは、イラストが得意であっても作品を売る場所とチャンスがありませんでした。
しかし、クラウドソーシングやフリマサイトの発達により、いつでもだれでも自分の作品を販売できるチャンスがあります。
しかし、いざ副業としてイラストや絵を描き始めてみると「イラストのアイデアはあるけれど上手に表現ができない」「手書きではなくてデータにして販売したい」という小さな悩みやハードルが出てくるものです。
副業は一人で始めることが多く、会社のように相談できる相手がいません。
そこで絵画教室に通い、先生に専門的な技術の相談をしたいと考える人が増えているのです。
絵画教室の先生は、現役のイラストレーターや絵本作家として活躍しています。
「プレゼン用の作品は何がいいのか」「絵本作家になるためにはどうしたらいいのか」など、だれに聞いたらいいのかわからない質問も気軽に聞くことができます。
なによりも、身近にお手本となる先輩ができることはとても心強いことです。
保育士試験の実技試験対策のため
保育士試験とは、受験資格を満たしている人が受けられる保育士資格を取得するための試験です。
合格すると保育士の国家資格を取得することができます。
試験内容は、学科と実技です。
学科試験を突破した人は、造形かピアノか言語の中から2つを選択します。
ピアノは、課題曲2曲を弾きながら歌います。
言語は、子どもたちへのお話です。
造形は、指定されたテーマの絵を45分間で19cm四方の四角の中に描きます。
絵は自由に描けばいいのではなく、いくつかの条件が与えられます。
また、45分間で色付けまでを終えなければなりません。
筆者は、保育士試験を受験し保育士資格を取得しました。
実技試験はピアノと造形を選択しました。
「美大を卒業しているのだから19cm四方の絵は簡単」と思い、自宅でタイマーを使って過去問に挑戦しました。
ところが、すべての条件を満たし、画面すべてに色付けするためには驚異的なスピードで描く必要があったのです。
まず、試験開始と同時に課題文を読み、5分程度で構成を考えます。
10分以内に下書きを終えたらガンガン色を決めて塗り進めなければ間に合いません。
条件は意外と多く「子どもは3人以上、保育士1名は描く」「枠内はすべて色付け」「屋内であることがわかるように描くこと」など、描かなくてはならない要素ばかりです。
「絵が苦手ならばピアノと言語を選べばいい」と思う人がいるかもしれません。
しかし、言語は求められるレベルがとても高く「思っていたよりも点数が悪かった」という人が多いようです。
一方の造形は、事前に練習を積み重ねることで早く上手に描けるようになります。
「保育士試験を受けたいけれど実技試験が心配」という人が、絵画教室で試験対策をすることもあるようです。
新しい友達が欲しいから
「40代のひとりぼっちが増えている」とSNSで話題になりました。
たしかに40代は社会人になってから20年近くが経過し、学生時代のような友達付き合いができる人は減っているのかもしれません。
ひとりでも充実した日々を過ごせている人も多く、友達は多ければいいというわけでもありません。
ただ「やっぱり共通の趣味があったり損得勘定がなかったりする友達がほしい」と思う人もいます。
絵画教室には絵が好きな人が集まっています。
絵の上手下手は関係なく「絵が好き」という共通点があるのです。
絵画教室は、新しい人間関係が生まれる場所でもあるのではないでしょうか。
おわりに
大人になってから絵画教室に通うことは、自宅でも会社でもない「新しい居場所」を作れるメリットがあります。
通い始める動機はさまざまでも、通い始めてみると新たな絵の魅力や人との出会いがあります。
絵を始めることに「遅すぎる」はありません。思い切って絵画教室の門をたたいてみてはいかがでしょうか。
文筆:式部順子(しきべ じゅんこ) 武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業 サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。 在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。