知りたい! 絵画教室で教える「絵の基礎」って何? 

「基礎が大切」とは聞くけれど、絵の基礎がどういうもののなかはわかりにくいかもしれません。
絵は、ペンさえ持つことができれば小さな子どもでも描けるため、あえて基礎を学ぶ必要はないと思う人もいるのではないでしょうか。
しかし、絵の基礎をしっかりと学ぶと絵の上達だけではなく、絵をみる力や楽しむ力もつきます。

今回は、絵画教室で教える「絵の基礎」についてお話しします。

絵画教室で教える「絵の基礎」とは

絵画教室に通う前の「絵の基礎」のイメージは、鉛筆の持ち方から線の引き方、そして遠近法などマニュアル化できそうなノウハウではないでしょうか。
絵画教室では、マニュアル化できるノウハウも習えますが、実は絵の本質やマニュアル化できない基礎を習うことができます。

<モチーフの見方ととらえ方>

美術の教科書には遠近法や一点透視法などの用語と説明文が書かれています。
教科書を読めばだいたいの意味は理解できるでしょう。
しかし実際に「この石膏像を描いてみましょう」と言われると、モチーフの見方やとらえ方がわからず、感覚的に手を動かしてしまいます。
例えば、ブルータスという石膏像があります。
ミケランジェロの作品で、体格のいい男性が横を向いている像です。
初めてブルータスを描く人は、ブルータスの迫力に圧倒されてしまい、画面から両肩がはみ出します。
さらに体は正面で、首が微妙に前に傾きつつ横を向いている状態が描けずに苦戦します。

絵画教室では、モチーフの見方ととらえ方を習います。
「ブルータスの迫力の源はどこか」「どこを一番描きたいのか」目に見えているものだけでなく、
心で感じたものに焦点をあてる見方です。
そうすることで「後頭部から描いて首のねじれを表現したい」や
「体の大きさを感じる布のひだをしっかり表現したい」と自分の視点をもてるようになります。

絵を描くことは「感覚でだけでできること」と思われることがありますが、
実は絵の基礎には論理的かつ数学に近い考え方が多い気がします。
絵画教室では、活字だけでは伝えにくい基礎を学ぶことができます。

<具体的な表現方法>

具体的な表現方法は、多くの人がイメージする絵の基礎です。
画材の使い方や線の引き方です。
具体的な表現方法は、描きたい絵が頭にイメージできている人にはとても効果的です。
例えば、iPadを使ってイラストを描きたいとき、頭に描きたい絵のイメージがあってもiPadやソフトの操作方法がわからないことがあります。
そのときに必要な表現方法を具体的に習うことができればストレスなく自分の表現ができるようになります。
表現したいものを自由に表現できるスキルを身につけることは絵を描き続けていくための大きな力になります。

また、必要な表現は人によって違います。
描きたい絵によって適している画材や道具も変わります。
絵画教室にはさまざまなジャンルから先生がやってきます。
色鉛筆やパステルを使う先生もいればデジタルイラストの先生もいます。
独学では、自分自身で適した描き方を探さなければなりませんが、絵画教室では広い視野で適した方法を提案してもらうチャンスがあります。

<絵の楽しさ>

絵の基礎で一番大切なことが「絵の楽しさ」です。
マニュアル化できるテクニックだけを習っても絵の楽しさを感じなければ続けられません。

絵画教室では、年齢を問わず絵の楽しさを第一に考えています。
絵の楽しさは、アトリエの雰囲気作りから始まります。
絵画教室では他の習い事や学校とは違った空気を感じます。
集団でいながらも個を大切にする空気です。

筆者は、「絵の楽しさ」は遊園地で遊ぶ楽しさとは違う気がします。
遊園地で遊ぶ楽しさは「消費する楽しさ」で、絵を描く楽しさは「積み上げる楽しさ」です。
食べ物に置き換えれば、「食べる楽しみ」と「料理する楽しみ」でしょうか。
料理には時間と労力が必要です。
楽しいことばかりではないのかもしれません。
それでも「積み上げる楽しさ」には「消費する楽しさ」にはない達成感があります。

絵画教室には「絵の楽しさ」を知るときに伴うハードルを上手に飛び越えるための空気感があり、仲間や先生がいます。

「絵の基礎」ができると「絵をみる力」もつく

絵の基礎がわかると絵をみる力がつきます。
例えば、絵の基礎のひとつである「モチーフの見方ととらえ方」を学んだ人は、絵をみるときに自分とは違った画家の見方やとらえ方に気がつきます。
「こんな見方もあるのか」と気がつくだけで新しい見方や視野が広がります。
「具体的な表現方法」を学んだ人は、自分の知らない表現方法と出会うたびに刺激を受けます。
ただ「わー! すごい」と思うだけでなく「私もこの画材で描きたい」「iPadでここまでできるのか」と深く鑑賞することができるでしょう。

そして「絵の楽しさ」を学んだ人は、作品を通して画家や作家の気持ちを想像することができます。
自分自身が絵を描くからこそ、描き手側に立って絵を楽しむことができるのです。
絵の基礎を学ぶことは、絵を楽しむ幅を広げます。

おわりに

筆者は小学生のとき習字教室に通っていました。
60代の女性の先生は品があり、いかにもお習字の先生という雰囲気がありました。
教室に入ると墨の香りが立ち込めていて、先生への挨拶から始まります。
小学生の筆者にとって、習字教室は字を習う場所というよりも書道の凛とした世界観に触れる場所でした。
今考えると、凛とした世界観こそ書道の基礎だった気がします。

絵の基礎は、絵の具の溶き方でも遠近法でもありません。
絵の楽しさやモチーフの内面を感じる見方でありアトリエのもつ世界観です。
絵画教室だからこそ学べる絵の基礎を体感してみてはいかがでしょうか。

文筆:式部順子(しきべ じゅんこ)
武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業
サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。
在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。

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