子どもにアートを鑑賞させるメリットとは

「小さな子どもにアートを鑑賞させたって理解できないわよ」と考える人も多いのではないでしょうか。
たしかに「ゴッホの魅力を感じなさい」と言っても難しいでしょう。
しかし、子どもはアートを通してさまざまなことを感じ学んでいます。

今回は、子どもにアートを鑑賞させるメリットをお話しします。

自分の気持ちを言葉で伝えるようになる

アートは美術館に展示されている絵画だけではありません。
町中にあるオブジェや駅のポスターもアートです。
アートは身近なところにあふれ、子どもはアートを頻繁に鑑賞しています。
ただ、アートを感じる子と感じない子の差は近くにいる人の反応によって変わります。

例えば、町中のオブジェをみつけたときに子どもが「ママ! あれ見て」と言ったとします。
そのときの親の反応次第で子どもの感性の育ち方は変わるのではないでしょうか。
親が「なんだろう」と興味をもった返答をすれば、子どもは自分の感じたことを続けて話すでしょう。
しかし「こらっ、前見て歩きなさい」と言われたら、オブジェの話はそこで終わります。
「アート鑑賞」というと大人はかしこまったイメージをもちますが、一番大切なことは「アートは身の回りにあふれている」という意識をもって感じることです。

大人がアートに興味をもつと、子どももうれしい気持ちになって興味をもちます。
そして自分の感想を言葉にして大人に伝えようとするのです。
自分の気持ちを言葉で伝える力は生きていくために必要な力です。
勉強のように決まっている答えを正確に言うことも大切です。
しかし生きていくためには正解のないことを自分の言葉で表現したり伝えたりする力のほうが使う頻度は多いのではないでしょうか。

創造力を広げられる

アート鑑賞は、表面的には他人が制作したものをみるだけです。
そのため、ものを作り出す創造力とは関係がないと考えられるかもしれません。
しかし、他人の感性に触れることで自分の視野を広げて創造力を広げることができます。

例えば「絵は実物に似せて描く方がいい」と思っていた人がピカソの絵をみたら視野が広がるでしょう。
ピカソの絵の良さがわからなかったとしても「感じたことだけを大げさに描いてもいいのか」「目は横一列に並べなくてもいいのか」と思えば、自分の絵に対する視野が広がります。
たくさんのアートに接することで視野は広がり、視野が広がればより新しいアイデアが生まれやすくなり創造力が広がります。

多様性の理解が育つ

多様性という言葉をよく耳にするようになりました。
多様性とは、簡単に説明すれば「みんな違ってみんないい」ということです。
言葉では理解できた気になっても実際はなかなか難しいです。
クラスメイトの中に目立つ子がいれば「あの子は変わっている」と思われてしまうことの方がまだまだ多いのではないでしょうか。
多様性の理解を育てる方法は「みんな違ってみんないい」とおまじないのように繰り返すことではありません。
さまざまな感性や性格の人に触れて慣れて、抵抗を感じず受け入れる懐をもつことではないでしょうか。

アート鑑賞は、絵を通して画家の感性に触れることです。
ピカソとルノワールはまったく違った絵を描きます。
「ピカソとルノワールならどっちがすごい人? 」と質問されても筆者は答えられません。
好きか嫌いかではなく「すごい人」というところがポイントです。
それぞれに全く違った個性があり魅力があるからです。個性に優劣はありません。
これこそ多様性です。

初めてピカソの絵をみた子どもは「変な絵」と思うかもしれません。
しかし、マグリット(ありえない状況を描くシュルレアリスムの画家)やマーク・ロスコ(画面を数色で塗り分ける抽象画家)の作品を見慣れていれば「ピカソはこういう絵を描く人なのだな」とピカソの感性を受け入れる懐ができあがっているでしょう。
アート鑑賞は、いろんな人の感性に手軽に触れることができます。

アナロジー思考が育つ

アナロジー思考とは、複数のものの共通点をみつけて考える力です。
アナロジー思考は、これからの時代を生きる人に必要な力として注目されています。
そして、アナロジー思考ができるようになると創造力が鍛えられます。

例えば、過去に塾の講師のアルバイトをしていた人が弁当屋を始めるとします。
塾講師と弁当屋に共通点はないように思いますが、アナロジー思考で考えると「帰り(閉店)が遅い」という共通点を見出すことができるかもしれません。
塾講師という経験を活かして「帰宅が遅い人向けの夕飯用弁当」「塾帰りの小腹がすいた子ども向け弁当」「塾へのデリバリー弁当」など新しい発想(創造力)がうまれます。

アート鑑賞はアナロジー思考を鍛えることができます。
例えばゴッホの糸杉をみて「渦まきみたい」「塔みたい」というように「みたい」と感じるだけでもアナロジー思考です。
糸杉と渦まき、糸杉と塔というまったく別のものと共通点をみつけて考えています。
まったく違うものを結びつけるためには、深く物事を考えて、さまざまな角度から物事をみなければなりません。

抽象化思考が育つ

抽象化思考とは、目に見えているものの裏側に隠れた「本当に言いたいこと」を考える力です。
まさにアート鑑賞です。
ゴッホの糸杉をみて「あー、糸杉の絵だ。大きな木だ」で終わってしまったら抽象化思考ではありません。
「ゴッホは糸杉にどんな思いを込めたのだろう」「この糸杉はゴッホの絶望を表現している」と考える力が抽象化思考です。

抽象化思考は、人と人との付き合いにも必要です。
「相手がどういう気持ちで言った言葉なのか」「この行動にはどんな意味があるのか」と物事深く考えることで創造力も広がります。

おわりに

アート鑑賞は、絵の知識を深めることではありません。
感性を深めることです。
感性を深めるためには、表面的にとらえるだけでなく「深く考えること」「多角的にとらえること」そして「自分なりに考えること」が大切です。
この3つは子どもでもできます。
むしろ知識や先入観のない子どもの方が柔軟に鑑賞できるかもしれません。
子どもの感性を尊重して対等な立場でアート鑑賞をしてみてはいかがでしょうか。

文筆:式部順子(しきべ じゅんこ)
武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業
サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。
在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。

関連記事