小学校では図工、中学校になると美術に変わります。
図工の段階で苦痛になってしまえば、美術になってもつらい状態が続いてしまいます。
今回は、図工が苦痛になっている子どもに伝えたい「図工のアイデアが浮かばないときの考え方」をお話しします。
目次
参考作品を探さない
図工は、教科書の課題やテーマに沿って授業が進められます。
たとえばテーマが「未来の街」ならば、自分がイメージする未来の街を描けばいいのです。
正解はありません。
しかし、正解がないことで悩んでしまう子どもがいます。
図工のアイデアが浮かばない子どもは「正解」にとらわれているのです。
周囲の子どもを見渡して、参考になる作品を探したり、教科書に掲載されているお手本作品を探し始めたりします。
そして「正解」と思われるアイデアをみつけるのです。
図工の時間がやってくるたびに、さりげなく「正解」を探すことはとても苦痛です。
アイデアが浮かばないときには、参考作品やお手本作品を探す前に自分なりのアイデアをこっそり描いてみましょう。
評価を気にしない
評価はアイデアの妨げになります。
小学生ならば、中学生のように評価が受験に直結する心配はないでしょう。
しかし、先生の評価や友達の評価そして親の評価は気になります。
中でも友達と親の評価は一番気になることでしょう。
友達から「変だよ」と言われた経験があれば、自分のアイデアに自信がなくなってしまうかもしれません。
親から「こんなこと考えるなんて」と言われれば、自分のアイデアは変なのではないかと心配になるかもしれません。
しかし友達の評価も親の評価も「評価ではない」と考えてみてはどうでしょうか。
友達の評価基準は友達自身です。
「変だよ」という言葉の意味は「自分とは違うよ」ということです。
アイデアはひとり一人違って当たり前です。
親の「こんなこと考えるなんて」という言葉の意味は気にする必要はありません。
親はいつも子どものことが心配なだけです。
どの親も子どもが何かをすれば何かしら心配になります。
それは愛情でもあるのです。
材料や画材に触れながらアイデアを考える
アイデアが浮かばないとき、紙とにらめっこしていてもなにも浮かびません。
そんなときには材料や画材に触れてみましょう。
粘土ならば触っているうちに「この形なら! 」とアイデアがひらめくことがあります。
絵の具を触っていれば「この色を使ってみたいな」と思うことがあります。
材料や画材に触れることで、作っている自分をイメージし、作品のアイデアが生まれるのです。
筆者が美大受験予備校に在籍していたとき、平面構成という課題がありました。
3時間以内でテーマに即したデザイン画を描き、色塗りまで終えなければなりません。
限られた時間の中で「アイデアが出ない時間」は無駄な時間です。
とにかく紙に線を描いてみるのです。
そうすると、線の重なりの中にアイデアが見えてくるのです。
アイデアは頭だけではなく、五感のすべてを使うことで浮かんできます。
「自分が欲しいもの」をアイデアにする
筆者は図工の時間が大好きでした。
なぜならば、作品を家に持って帰ることができるからです。
針金や木片で作った作品は「おみやげ」のような特別感があったのです。
おみやげにするならば「欲しいものを作りたい」と思うようになりました。
木片に端切れ布を貼り付けて作る人形も、家にある人形と組み合わせるために「グリム童話の主人公みたいな人形が欲しい」と思いながら制作しました。
「正解」「平均」を意識するアイデアの出し方ではなく、「自分がもらうならどんなものがいいか」と考えてみると、次から次へとアイデアが出てきます。
アイデアが浮かんだら自分でアイデアを褒める
図工が苦痛な子どもは、図工に苦手意識がある傾向があります。
苦手だと思ってしまうと、せっかく浮かんだアイデアにも自信がもてません。
そして、せっかく浮かんだアイデアを打ち消してしまい「浮かばない状態」を自分で作ってしまうのです。
アイデアに正解はありません。もしもアイデアが浮かんだら、人と比べたり、余計な心配をしたりせずに自分で「いいね」ボタンを押しましょう。
そして「これはいい」と自分でアイデアを心の中で褒めるのです。
筆者のデッサンは、美大受験予備校のクラスの中でいつも最下位でした。
それでも自分では、毎回「今回のデッサンはいい」と本気で思っていたのです。
自分で自分を本気で褒めているから、やる気は十分にあり、苦痛どころか楽しみながらデッサンを描いていました。
自分で自分を褒めることは、図工以外でも役に立つスキルです。
おわりに
図工や音楽は、他の教科とは違い正解がありません。
正解がないということは平均点がないということです。
平均点がない中で「平均点でありたい」と願っていると図工は苦痛になります。
図工や音楽の平均点は、可でも不可でもない「中途半端」です。
音楽は、機械のように正確に歌う人よりも、音程がはずれていても曲の楽しい雰囲気を感じながら大きな声で朗々と歌っている人の方がステキです。
図工は、正確な立方体を作っている人よりも「この人しか作れない四角」を作っている人のほうがアーティストなのです。
文筆:式部順子(しきべ じゅんこ) 武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業 サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。 在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。