「うちの子は絵が下手」と思っているなら! うまい絵はどんな絵?

よく「うちの子は絵が下手なの」という声を耳にします。
では「うまい絵」とはどのような絵なのでしょうか。そもそも子どもが描く絵にうまい下手はあるのでしょうか。

今回は「うちの子は絵が下手」と思っている人に知ってほしい「うまい絵」の見分け方についてお話しします。

その子にしか描けない絵はうまい絵

100人の子どもたちに「馬を描いて」と言えば、100通りの馬の絵ができあがるでしょう。
頭が大きすぎる馬もいれば、ピンク色の馬がいるかもしれません。
もはや馬ではない馬もいるかもしれません。

しかし、100人の大人に「馬の絵を描いて」と言ったら、多くの絵が似るのではないでしょうか。
足は4本でたてがみがあり、茶色や黒色の馬がほとんどでしょう。

絵は感性の表現です。
絵を描く人が感じた馬を表現できていれば、それは「うまい絵」です。
大人になれば「馬」に関する知識と絵を描く技術力、そして外からの見られ方を意識します。
とくに「外からの見られ方」は自由な表現を妨げることが多いのです。
「馬をピンク色で描いたら変な人と思われるかも」や「馬のたてがみを三つ編みにしたらふざけていると思われるかも」という余計な心配が自由な表現を妨げます。

一方、子どもは自由な発想で絵を描きます。
大人では考えらえられないような色や形で馬を表現します。
それらをみた親は「うちの子は絵が下手」と感じるかもしれません。

しかし、それは「下手」なのではなく、親の常識から離れているだけのことであり、言い換えれば「個性のある絵」「内面を表現した絵」です。
親から見て「ほかの子どもはこんな絵は描かない」「普通の絵と違う」と思えるならば、それは下手なのではなく「その子にしか描けないうまい絵」です。

写真では表現できない絵はうまい絵

デッサンは、モチーフをみて描きます。
大人が考えるうまい絵は、写真のように写実的に描けている絵ではないでしょうか。
しかし写真のような絵を求めるならば、わざわざ絵に描かず写真に撮ればいいのです。

美大受験予備校では、牛の頭の骨をデッサンします。
真っ白い台の上に置かれた牛骨は、なんともいえない雰囲気があります。
「かつて生きていた動物のさみしさ」「骨の不気味さ」を表現できた作品が「うまい絵」です。

美大受験予備校では、完成したデッサンをみんなの前に優秀作品順に並べて講評をします。
けして写真のように上手に描けた絵が上位にいくわけではありません。
写真のように描けることは当たり前で、牛骨の雰囲気がどれだけ伝わってくるかで上位が決まるのです。

子どもが描く絵は、子どもの気持ちが表現されています。
みんなで同じリンゴの絵を描いてもリンゴの赤さに衝撃を受けた子どもは真っ赤な赤で描き、香りに惹かれた子どもは抽象的なリンゴを描くかもしれません。
「これは写真では撮れないな」と思う絵はうまい絵です。

絵をみたときに何かを感じたらうまい絵

しばしば「ピカソって絵が下手なの? 」「ゴッホより上手な画家いるよね」と質問されることがあります。
ピカソの「泣く女」という絵は有名です。

しかし、目や鼻の位置は妙で、色も人間の色味ではありません。
しかし、「泣く女」からは衝撃を受けるのです。
これほどまでに「強烈に泣いている」という衝撃を受ける絵はほかにないのではないでしょうか。

一般の人が「泣く女」というテーマで絵を描けば、しくしく泣いている動作をしている人を描きます。
表面的な「泣き」です。
しかしピカソの「泣く女」は、絵から「おーいおーい」と泣き声が聞こえてくるかと思うほどの衝撃を見る人も与えます。

ゴッホは「ひまわり」「種まく人」が有名です。
どちらもクロームイエローをいう黄色をたくさん使っています。
本物を見たことがありますが「絵の後ろから強い照明をあてているのかしら」と思うほど光を感じます。
「光を放出しているみたい」と衝撃を受けました。

ピカソもゴッホも実物とは程遠い仕上がりの作品を描きます。
しかし、作品を見た人に与える衝撃はとても大きいのです。
うまい絵とは、見る人に衝撃を与える絵です。
その衝撃は必ずしも「美しい」や「かわいい」という前向きなことだけではなく「気持ち悪い」や「暗い」という衝撃もあります。

子どもが絵を描いたとき「きれいな絵」「きちんとした絵」をうまい絵と評価してはいないでしょうか。
「怖い絵」「きたない絵」でも、衝撃を与えるほど描きこまれた絵はうまい絵です。

描いた子どもが「大切にしたい」と思えばうまい絵

子どもが絵を描き終えたとき、絵を大切そうにしていれば、それはうまい絵です。
なぜならば、描いた本人が「これは大切にしたい」と思うほど力を注いだ大作だからです。

絵の評価は、親が下すものではありません。本人が決めることです。
本人が「うまくできた」と思っている作品に対して、「うまい」も「下手」も口出しすることはできません。
親は、納得できる絵を描き上げた子どもを褒めるだけでいいのではないでしょうか。

おわりに

「うちの子は絵が下手」と思っている人は、自分の中に評価の基準があります。
その基準は本当に正しいのでしょうか。
間違った評価の基準は、子どもの自信を奪います。
絵を描く技術は、大きくなってからでも身につけることはできます。小さな子どものうちに身につけたいことは、絵を描くために必要な感性と自信です。

文筆:式部順子(しきべ じゅんこ)
武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業
サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。
在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。

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