子どもに習い事をさせるとき、どのような基準で選ぶでしょうか。
将来の受験に役立つことや資格取得につながることでしょうか。
「絵」は、そのどちらにも当てはまらないかもしれません。
しかし実は「絵を習うこと」には大きなメリットがあります。
今回は、子どもに絵を習わせるメリットをお話しします。
目次
「きれい」「すごい」と感じる感性が育つ
小さなころから習い事を始める子どもが増えています。
スイミングやダンスは、体力向上になります。
英語やプログラミングも将来役立つでしょう。
しかし、週7日すべてが習い事で埋まっていたり、自由な時間がなくなったりするようでは本末転倒です。
なぜならば、それは「学ぶ」ではなく「こなす」になってしまうからです。
子どもだけでなく、大人にとっても暇は大切な時間です。
暇な時間は、自分の好きなことができる時間です。
しかし、忙しすぎる子どもは「好きなこと」がわかりません。
暇な時間ができても「なにか楽しいことしたい」「なにかやって」と言うのです。
たくさんの習い事をこなしてれば、知識や技術は育ちます。
しかし、生きるために必要な力「感性」は置き去りにされてしまうのかもしれません。
感性とは、感じる力です。
きれいなものを見たときに、自分の基準で「きれい」と感じられる力です。
ポイントは「自分の基準」です。
「自分の基準」をもつためには、小さなころからさまざまなモノをみたり体験したりすることです。
遊園地やゲームのような「与えられる体験」ではなく、花壇の穴掘りやふすまの張替のように「0から1を生み出す体験」が子どもには必要ではないでしょうか。
0から1を生み出す体験をすると、何が大変で、何が大切なことなのかがわかるようになり「自分の基準」ができるのです。
「絵を描くこと」は、真っ白の紙に0から1を立ち上げることです。
真っ白い紙に自分の感性で「きれい」「すごい」と感じたものを自分のやり方で表現することが「絵を描くこと」です。絵を描くことでさまざまなことを感じ、感性を育てることができます。
モノをよくみる観察力が育つ
絵を描くときには、モチーフをよくみることから始めます。
リンゴはコンパスで描いた丸ではありません。
光は、上からだけではなく、テーブルに反射した光があることに気がつきます。
とくにデッサンは、描きたいように描いていても上手に描けません。
モチーフをよく観察しつつ、客観的に状況を考える力が必要です。
デッサンがうまく描けなかったときに「「まーるくなーれ」と唱えて鉛筆を動かしても丸くはならない」と言われたことがあります。
立体感や奥行きを出すためには「どうして立体にみえるのか」「なぜ手前と奥を感じるのか」を自分で考えて、手を動かす必要があるのです。
「子どもに絵を習わせても将来役に立たないかも」と心配している人も多いのではないでしょうか。
子ども時代に養った観察力は大人になってからも役立ちます。
考える力が育つ
絵は、デッサンだけでなく空想画や抽象画もあります。
絵は数学とは違い、正解のない質問に答えを探すようなものです。
例えば「30年後の地球」というテーマで絵を描くとき、子どもたちは自分の知っている知識や経験から30年後の地球を想像します。
知識量が多い子どもは、食料問題や気候変動をテーマにするかもしれません。
一方、知識が乏しい子どももいます。
知識が乏しい子どもは、アイデアを出す引き出しが少ないため、描き始めるまでに時間がかかるでしょう。
しかし、大切なことは、その時点で持っている知識量ではありません。考える力です。
考える力がある子どもは、自分の知識が足りないことに気がつき、知識を蓄え始めます。
絵を習うことで、さまざまな種類の絵を描く機会に恵まれます。
新しい課題に出会うたびに子どもたちは考え、ひとりひとり違った答えを紙の上に表現するのです。
文字や言葉以外の表現力をもつことができる
文字や言葉は、コミュニケーションツールの一つです。
しかし、文字や言葉は組み立て方や使い方次第で表現力が変わります。
同じことを伝えようとしても、うまく話せる人のほうがコミュニケーション能力は高いと評価されるでしょう。
とくに子どもは言葉の発達に個人差があります。
言いたいことがうまく言葉にできない子どもは「おとなしい」と言われ、自分に自信が持てないこともあります。
絵は、文字や言葉と同じように表現する手段であり、コミュニケーションツールにもなります。
言葉にすることが苦手な子どもでも、自分のペースで表現できる絵ならば、自分の思いをぶつけることができるかもしれません。
「絵を習う」ということは、技術的な進歩だけでなく、自分の表現を認めてもらうことです。
自分の絵が認められるということは「相手に自分の言いたいことが伝わった」ということであり、自己肯定感につながるのではないでしょうか。
進路選択の幅が増える
絵を習うことで、プロと出会う機会に恵まれます。
「絵は娯楽」と思っていた人も、絵を仕事としているプロと接することで、新しい見方が生まれるでしょう。
子どもの視野が広がるほど進路は変わります。
幼い子どもは、身近な幼稚園の先生やケーキ屋さんに憧れるのではないでしょうか。
小学校にあがれば学校の先生や医者、中学生になれば、より専門的な職業に興味を持ちます。
絵を習うことで芸術の世界に触れることができます。
子どものころから、たくさんの世界に触れて視野を広げることは、進路選択の幅を増やすことになります。
おわりに
子どもに絵を習わせるメリットは、紹介した以外にもたくさんあります。
共通の趣味の友達ができたり、感動する作品に出会ったりするかもしれません。
感受性の鋭い子ども時代だからこそ絵を習ってみてはいかがでしょうか。
筆者:式部順子(しきべ じゅんこ) 武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業 サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。 在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。