「絵を描いたり工作したりすることは子どもに良いこと」とわかっていても、
親自身が苦手だとなかなか一緒にやることは難しいのかもしれません。
しかし、子どもにとって親と一緒に描いた絵や工作は宝物になります。
今回は、絵が苦手な親でも子どもと一緒に楽しめて、
家にあるモノや100均で材料がそろう絵画技法を紹介します。
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目次
絵が苦手な親でも美術好きな子は育つ
「美大に進む子は親も美術系の人」と思われる傾向があります。
しかし実際は、さまざまな家庭から美大生は生まれています。
筆者と同じ学科には実家が金物屋の人もいました。
シングルマザーで育てられた人もたくさんいました。
ちなみに筆者は美術とは一切関係がない自営業の家庭で育ちました。
共通していた点は「絵を描くことや作ることを楽しめる環境があった」ということです。
「頻繁に美術館に連れて行ってもらった」や「幼いころから絵画教室に通っていた」ということではなく、
ゲームが好きな子は「好きなだけゲームキャラクターを描かせてくれた」や「再利用の裏紙と色鉛筆だけはいつでも置いてあった」というどこの家庭でもできる環境の準備と自由があったのです。
親が美術系の職業である人は幼いころから美術に触れる機会には恵まれていますが
「親が美術系でないと美術系の子が育たない」ということはありません。
美術好きな子に育てるポイントは「美術を楽しいこと」と思わせる環境であり、親の姿勢です。
高価な画材や物々しいアトリエは必要ありません。
「一緒に描こう」という環境や美術を楽しむ笑顔があれば美術好きな子はどこでも育ちます。
筆を使わない「ドリッピングとブローイング」
「何を描いたらいいかわからない」という人もいます。
その場合は、意図しなくても絵になる技法がおすすめです。
ドリッピングは、絵の具を含ませた筆を振って色水を紙の上に落とす技法です。
絵を描くというよりも「絵の具を落とす作業」に近いため、
絵が苦手な人でも子どもと一緒に遊ぶ感覚で楽しむことができます。
また、ドリッピングした色水をストローで吹いたり流したりすることをブローイングといいます。
ブローイングは、吹く方向に線が伸びるため、木や枝を描くこともできます。
ブローイングで伸ばした線がドリッピングしたところと合流して色が混ざったり、
形が変わったりする発見もあります。
子どもにとって新しい発見はとても楽しいことです。
冷蔵庫の残り野菜でOK「スタンピング」
スタンピングは、スタンプのように形を紙に写す技法です。
子どもと一緒に楽しむならば、冷蔵庫の残り野菜の断面に絵の具をつけてスタンピングしてみましょう。
レンコンやオクラの断面は、それだけで絵になります。
他にもダンボールの側面や台所用スポンジも使えます。
スタンピングに使う絵の具は濃い目に溶くことがコツです。
レオ・レオニの絵本「スイミー」はスタンピングで描かれています。
小さな赤い魚の群れや海藻をよく見てみるとスタンピングを発見できます。
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100均で材料がそろう「スパッタリング」
スパッタリングは、網に絵の具をつけて専用のブラシでこすり、紙の上にしぶきを飛ばす技法です。
筆では表現できない小さな点を一気に描くことができます。
専用の画材も販売されていますが、100均で売っている金属製の網と歯ブラシでも代用できます。
網の目の粗さによってしぶきの大きさも変わります。歯ブラシは固めがおすすめです。
スパッタリングは、広い面に絵の具を飛ばすことができるため、
紙の上に好きな形に切った型紙を置いて上からスパッタリングすれば、形を白抜きすることができます。
型紙を少しずつずらしてみるとグラデーションになります。
シャボン玉で遊びながら「シャボン玉絵」
シャボン玉が吹ける子どもならば、シャボン玉で絵を描いてみましょう。
絵の具を溶いたシャボン玉絵用の液を作ります。
小さな子どもならば、紙の大きさ程度のバッドにシャボン玉絵用の液を入れて、ストローで吹いて泡立てます。
バッドが泡だらけになったら紙に泡の形を写し取るだけです。
もっと上手にシャボン玉が吹ける場合は、シャボン玉絵用の液でシャボン玉を飛ばし、紙にぶつけてみます。
きれいな輪の模様とはじけたときのしぶきが抽象画のような絵を描きます。
シャボン玉絵は幻想的な背景にもなります。
乾いてからペンや色鉛筆で絵を描いてもステキな作品になります。
おわりに
紹介した絵画技法は、絵の得手不得手は関係なく、誰でもできる方法です。
大切なことは絵の完成度ではなく、絵を描く過程です。
例えば、ドリッピングでボタリと絵の具が落ちてしまっても「失敗した」と言わずに「ボタリと落ちた! 」と笑いましょう。
楽しんでいる姿勢を見せることが子どもに「美術は楽しい」と教える一番の方法です。
もしも何から始めたらいいのかまったくわからないならば、絵画教室に通ってみる方法もあります。
子どもが習ってきたことを親が子から習うことで一緒に楽しむことができます。
絵が好きな子や美術好きな子に育てたいと思う親の中には、
上手い絵を描かせることが好きになる方法だと考える人がいます。
しかし「絵の上手さ」と「好きの度合い」は比例しません。
絵の上手さは、絵が好きという気持ちを土台にして育つものなのではないでしょうか。
文筆:式部順子(しきべ じゅんこ) 武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業 サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。 在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。