子どもの絵を上達させる方法は、絵を習うことだけではありません。
家庭で今すぐできることもたくさんあります。
今回は、子どもの絵を上達させるために家庭でできることを紹介します。普段の行動を少し変えるだけで、子どもの思わぬ才能は引き出されるのです。
目次
いつでもすぐに絵が描ける環境をつくる
子どもの絵を上達させるために一番大切なことは「たくさんの絵を描かせること」です。
絵は、描けば描くほど上手になります。ただ、子どもに「絵を描きなさい」というだけでは、絵を描くことはしません。
子どもは、何かを感じたときにサッと絵を描きたくなります。
絵を描きたくなったときに、絵を描くための紙も鉛筆もなければ描くことはできません。
絵をたくさん描かせるためには、いつでもすぐに絵が描ける環境づくりが大切です。
絵が描ける環境とは、絵を描く専用の机やイーゼルを設置しておくという意味ではありません。
ダイニングテーブルの端にコピー用紙を入れた箱と色鉛筆を置いておくだけで「描く環境」は整います。
コピー用紙でなくても、裏紙でもお絵かき帳でもかまいません。
ただし、本番用の画用紙や大切に使う高価な紙はやめたほうがいいでしょう。
気軽に失敗できる紙がいいのです。
水彩絵の具は準備に時間がかかります。子どもは準備と片づけが苦手です。
パッと開いてパッと片づけられる色鉛筆がいいでしょう。
モノの構造や骨格を体で感じる機会をつくる
絵を上手に描く人は、モノの表面ではなく内側をイメージして絵を描いています。
レオナルド・ダ・ヴィンチは、人物画を描いていますが、人間の解剖図もたくさん描いています。
実際に美大の授業には美術解剖学という授業があります。写実的な絵を描けるようになるには、モノの表面だけではなく構造や骨格を意識して描くことがポイントです。
子どもも同じです。
ミカンの絵を描かせたとき、ミカンの構造を知っている子どもと知らない子どもとでは絵の完成度が違います。
ミカンは、皮をむくといくつかの房に分かれています。
ミカンの皮は、房の凹凸を覆っているのです。
ミカンの構造を意識している子どもは、ミカンを球ではなく、房の凹凸を感じるように描きます。
一方、ミカンの構造を知らない子どもは、ミカンの外見だけを描くため、表面はつるつるのボールのようなミカンになるでしょう。
子どもの絵を上達させるためには、日ごろからモノの構造や骨格を体で感じる機会をつくることが大切です。
「体で感じる機会」は、日常生活の中でできます。
「ミカンは自分の手で皮をむいて食べる」「魚の骨は自分でとる」など、すべての経験が絵を描く糧になります。
多少汚れてもおこらない
絵を描くときには、テーブルや手が汚れます。道具を使えば部屋も散らかります。
しかし、子どもが絵を描いたり作品を作ったりしているときには、多少汚れてもおこらないようにしましょう。
「ひとつ出したらひとつ片づけなさい」という人がいますが、作ることと片づけることの両立は無理な話です。
片づけは、描き終えてから一気に取り掛かりましょう。
また、服が汚れることを気にしていると絵に集中することができません。
筆者も白いブラウスを着て木炭デッサンをしていました。
木炭で黒くなったブラウスをみてクリーニング店からは「スモックを着て描いたらいい」とよく言われました。
しかし、スモックを着ると腕が動かしくなり、快適な温度ではなくなるのです。
綿のブラウスの通気性と腕の動かし具合が「絵を描く体勢」にピッタリと当てはまっていたのです。
子どもがきれいな服を着て絵を描き始めたとき、エプロンを後ろから無理やりつけたりしていないでしょうか。
「エプロンをつける」という作業が、子どもの集中力を途切れさせてしまうのです。
子どもが「みて! 」と言ったときには必ずみて認める
子どもは絵を描いたら誰かにみせたくなります。
それが上手に描けたらなおさらです。
子どもが「みて」と言ってきたときには、必ずその場で絵をみましょう。
自分の作品に興味を持ってくれる人がいることが、次の作品制作の励みになるのです。
そして認めてあげます。「うまいね」「上手に描けたね」という総合的な言葉ではなく、「目が魅力的に描けている」「大きくて迫力がある」というように「どこがうまいのか」を具体的に伝えましょう。
子どもは大人が思うよりも洞察力があります。上っ面の言葉は鋭く見破るのです。
子どもの実力に応じた対応をする
子どもの絵を上達させるためには、客観的に子どもの腕を評価して、実力に応じた対応をすることが大切です。
小さな子どもならば色鉛筆とクレヨンだけで十分かもしれません。
しかし、中学生になればデジタル画に興味をもつかもしれません。
また、実力があがってくれば、より高いスキルを持っている人と出会うことでさらに高みを目指します。
絵を上達させるためには、現在の自分のスキルよりも高いスキルをもつ人と接することが大切です。
子どもの興味やスキルが上がってくると、家庭でできることに限界がでてくるかもしれません。
そんなときには、新しい学べる場を提供してあげるとおおのではないでしょうか。
おわりに
絵を上達させる方法は、考えながら絵を描くことです。
小手先のテクニックだけで絵がうまくなっても、すぐに限界がやってきます。
「考える力」「モノをみる力」は、家庭や生活の中で育てることができます。
大人も子どもと一緒になって身の回りにあるものを観察してみてはいかがでしょうか。
文筆:式部順子(しきべ じゅんこ) 武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業 サークルは五美術大学管弦楽団に在籍し、他大学の美大生や留学生との交流を通じ、油絵や映像という垣根を超えた視野をみにつけることができた。 在学中よりエッセイを執筆。「感性さえあれば、美術は場所や立場を超えて心を解き放つ」をモットーに美術の魅力を発信。子育て中に保育士資格を取得。今後は自身の子育て経験もいかし「美術が子どもに与える影響」「感性の大切さ」を伝えていきたい。